中国IT企業の御三家BATは、有望なスタートアップに投資をする。BATが協調をして投資をする例も多い。しかし、そのスタートアップが成長してくると、自社経済圏に取り込もうと、巨額の追加投資を行い傘下に置こうとする。これがスタートアップ企業の企業価値を急速に膨らませる要因のひとつになっていると、界面が報じた。
スタートアップの成長を決めるBATの投資動向
中国のIT業界では、BATという言葉がよく使われる。IT業界のリーダー企業である百度(バイドゥ)、アリババ、テンセントの頭文字をとったものだ。百度は検索広告や自動運転車開発、アリババはECサイト、アリペイ、テンセントはゲーム、WeChatペイなどの本業があるが、IT系スタートアップにも積極的に投資をしている。中国の投資家たちは、BATの投資動向に敏感で、「BATが投資した」ということがそのベンチャー企業の成功が約束されたかのように感じ、BAT投資企業には巨額の投資資金が集まるようになる。
▲通信キャリアの中国聯通に対しては、BAT3社が同額の投資を行っている。
アリババとテンセントが投資をしていたウーラマ
BATの投資は、基本的にはベンチャーキャピタルと同じで、ベンチャーの成長に伴い利益を上げようとするものだ。そのため、BATが同時に同じ企業に投資をしているケースも多い。利益を上げることが目的なので、BATがぶつかる理由はどこにもない。むしろ、余計な摩擦を起こさないために、BATが同額の投資を同時に行うことも多い。
ところがBATはベンチャーキャピタル企業ではなく、本業がある。本業とのシナジー効果が見込める企業は、他のBATを排除して、支配下に収めたい。その例が外売サービスの「餓了解么」(ウーラマ)だ。
ウーラマに対しては、アリババとテンセントが2015年に3.5億ドルずつ、8月には6.3億ドルずつ投資をしている。食料品や飲料を各家庭に配送するウーラマのサービスは、アリババにとってもテンセントに取っても重要だ。アリババは新小売宅配スーパー「フーマフレッシュ」を中心に新小売戦略を展開し、テンセントも直接運営はしていないものの出資先のEC「京東」、チェーンスーパー「永輝」を通じて、アリババに対抗をしている。
ウーラマは両社にとってぜひとも欲しい企業なのだ。そのため、アリババ、テンセントがそろって同じ時期に同じ金額の投資をしていた。両者の綱引き状態にあった。
ところが、2016年にIPOの準備資金としてアリババが12.5億ドルの投資をし、ついには2018年4月に、アリババが95億ドル(約1兆円)で買収をした。
▲アリババとテンセントの協調投資は、エンターテイメント分野が多い。
▲百度とテンセントは、自動車関連スタートアップに多く協調投資している。
協調投資から敵対投資へ
BATの複数が同じ企業に投資をしている場合でも、同じ金額というケースが多い。利益を目的に投資をしているので、どちらが主導権を握るかで無駄な争いをしたくないために協調的に投資をしているのだ。
しかし、本業とのシナジー効果が得られると判断すると、支配下に収めようと多額の投資が始まり、他社も対抗して投資をするということから、中国のスタートアップやベンチャーの企業価値は急速に大きくなっていく。スタートアップ企業側も、そのような事情はよく知っていて、BATを天秤にかけるようなことをして資金を確保している面もある。
▲百度とアリババが協調投資している例はさほど多くない。
自動車関連、娯楽関連で始まっているBATの水面下の綱引き
現在、百度とテンセントが投資をしている企業には自動車関連が多い。また、アリババとテンセントでは映像や娯楽関係が多い。つまり、自動車と娯楽分野で、BATの静かな戦いが始まっているということだ。BATがベンチャーを自社のビジネスに組み込むため経営権を握ろうとした時、そのベンチャーの企業価値は一気に膨らんでいく。もちろん、ベンチャー経営者もそれを狙っているだろう。
一方で、このような政治的なことを好まないシェアリング自転車のofoは、経営権を維持するために極力BATの資金を入れないようにしている。そのため、サービスは好評なのに、経営が苦しくなるという窮地に立たされている。中国のスタートアップ、ベンチャー経営は、優れたサービスの構築だけでなく、このようなBATの海を泳ぎ切る技術も必要とされるようだ。
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