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ボタンを押すだけでタクシーが呼び出せる。ライドシェア普及で取り残された高齢者に向けたタクシーのサービス

大都市ではライドシェアが普及をし、多くの人が使うようになっている。しかし、ライドシェアは事前に地図上で目的地を設定し、スマホ決済で料金を支払うなど、高齢者には敷居が高い。そこで、タクシー会社はボタンを押すだけでタクシーが呼び出せるサービスを始めたと北京日報が報じた。

 

高齢者には難しいタクシー、ライドシェアの配車

中国の大都市では、タクシーもライドシェアもスマートフォンで呼ぶというのが一般的になり、街中で手を挙げてタクシーを拾うということはほとんど行われなくなっている。たまにタクシーを見かけても、迎車中であることが多く、手を挙げても止まってくれない。

このような状況で困っているのが高齢者だ。今では高齢者の多くがスマホを持っているが、配車ミニプログラムを使うのは難易度が高い。難しい点は2つある。ひとつは目的地の設定だ。一般には、テキスト入力で目的地の施設名や住所を検索して、最終的に地図上で確認をして設定する。これが高齢者には難しい。なぜなら、多くの施設名は、日常生活の中では通称で呼んでおり、正式名を尋ねられてもすぐには思い出せないことがあるからだ。日常生活の中では「崇文門のところの病院」で話は通じるが、検索をする時は「首都医科大学付属北京病院」でなければ見つけられない。「崇文門 病院」で検索をしても見つからかったり、多数の選択肢が表示されてしまう。

また、住所を入れる場合も、その場所はよく知っていても、住所はわからないということがままある。「崇文門のところの病院」と認識していて、地下鉄の崇文門駅から歩いていくことはできるものの、住所と言われるとよくわからない。若い世代であれば、ウェブなどで調べて入力することができるが、高齢者にはそれが難しい。

北京市で、自宅の前でタクシーの到着を待つ高齢者。高齢者版ミニプログラムでは、現在地は自動的に設定され呼び出すだけ。行き先は乗ってから運転手に告げ、料金は降りる時に現金またはスマホ決済で支払える。

 

高齢者には銀行口座のスマホ登録もハードルが高い

もうひとつは、スマホ決済との紐付けだ。スマホ決済と配車ミニプログラムを紐づけるには、本人確認が必要になる。身分証や銀行口座を登録しておけば、難しくない操作だが、高齢者にはこの身分証や銀行口座のスマホへの登録をしていない人がけっこういる。特に銀行口座の登録は、身分証を撮影したり、パスワードを設定したりと難易度が高く、なおかついい加減に登録すると、情報が漏れてお金が盗まれてしまうという不安があり、未登録のままにしている人も多い。

 

滴滴が高齢者版配車ミニプログラムをリリース

このような問題を解決するために、ライドシェア大手の「滴滴」(ディディ)では、高齢者版のミニプログラムを用意している。起動すると、自動的に現在地が設定され、あとは、呼び出しボタンをタップするだけの簡単操作だ。これでタクシーが呼び出され、タクシー到着までの時間やナンバー、運転手の名前などが記載されたショートメッセージが送られてくる。

目的地は設定する必要はなく、タクシーがきてから、口頭で告げる方式だ。料金は到着をしてから、現金またはスマホ決済で支払うことができる。

▲滴滴の高齢者版ミニプログラム。現在地は位置情報を見て、自動的に設定される。利用者は真ん中の大きなボタンを押すだけでいい。行き先と料金支払いは乗車後に運転手に対して行う。

▲高齢者版ミニプログラムでタクシー配車を頼むと、到着するタクシーのナンバーなどが記載されたショートメッセージが届く。これもわかりやすいと高齢者から好評だ。

 

家族が代わりに配車依頼をすることもできる

この他にも、高齢者を助けるさまざまな機能が用意されている。ひとつは「代叫」(代理呼び出し)だ。高齢者の家族などが、自分のスマホから高齢者に変わってタクシーを呼び出すことができる。この時、料金は「自分のスマホ決済から払う」「乗車する人が現金/スマホ決済で払う」のいずれかを選ぶこともできる。また、連絡先も呼び出しをした人の携帯電話番号、乗車する人の携帯電話番号の選択ができる。

家族が高齢者の代わりにタクシーを呼ぶというのが一般的だが、高齢者施設などのスタッフが代わりにタクシーを呼ぶことにも使われる。

▲好評なのが代理呼び出し。家族などが高齢者の代わりにタクシーを呼び出すことができる。連絡先や支払いを誰をするかなどは、呼び出した人または乗車する本人のいずれにも設定できる。家族が遠い場所にいてもタクシーの代理呼び出しが可能。

 

地域でも高齢者の利便性を高める工夫

また、以前と同じように、コールセンターに電話をして、電話でタクシーを手配する方法も利用できる。ただし、この場合、5元程度の迎車料金が必要になるため、高齢者の間では利用があまり進んでいない。そこで、滴滴などでは高齢者専用のコール番号を用意し、迎車料金を取らない仕組みを始めている。

また、地域では、高齢者のためのタクシーポイントを整理し、その情報をタクシー会社やライドシェアと共有をするということを始めている。地域内にある病院や介護、食事支援などの施設について、タクシーが停車するポイントを定めた。高齢者が安全に乗り降りできる場所を選定している。高齢者がある施設からタクシーを使いたい場合は、コールセンターに施設名を告げるだけでタクシーがそのポイントにやってくるため、タクシーとうまく落ち合えないということもなくなる。

▲地域では、高齢者用にタクシーポイントを設置しているところもある。高齢者がタクシーを呼び出した時は、タクシーはこのタクシーポイントにやってくるため、落ち合うのに戸惑うことがない。

 

タクシーは利便性を高めることで高齢者に使ってもらえる

若い世代はタクシーではなく、ライドシェアを使うようになっている。料金が事前に確定をしており、下車時には支払いの手順を踏まずに降りるだけで、料金は自動的に支払われる。そのユーザー体験のよさからライドシェアを好む人が増えている。しかし、スマホの操作が必要になるライドシェアは、高齢者には敷居が高い。タクシーはそのような高齢者により利便性の高いサービスを提供することで、生き残りを図っている。