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コロナ禍で急増した詐欺事件。発見するのはテンセントの人工知能

新型コロナの感染拡大期に、WeChatなどのSNSを利用した詐欺事件が急増した。公安部が認知した件数は1万4786件、6605人の容疑者を逮捕した。そのうちの70%は、テンセントが開発した詐欺防止人工知能「ビンゴ」の早期警報に基づくものだと黒騎士が報じた。

 

コロナ禍で多発した詐欺事件

公安部刑事偵査局は、新型コロナウイルス感染拡大期に全国で起きたネット詐欺事件1万4786件を把握し、6605人の容疑者を逮捕したと公表した。被害金額は4.88億元(約73億円)にのぼる。

感染拡大期、流行したネット詐欺は3つの段階があった。初期にはマスクなどの衛生用品を購入できると偽って代金などの搾取する手口が流行した。中期には、人々の公益心を悪用して募金詐欺、また、多くの人が職場に行けず自宅にいることを利用して、自宅でできる仕事を紹介するという詐欺が流行。後期には、職場復帰が始まり、多くの中小企業、個人商店が資金繰りに悩んでいることを利用して、低利子融資が受けられるという詐欺が流行した。

 

犯行集団の多くは海外に拠点。偽造パスポートでWeChatを利用

多くの詐欺は、SNS「WeChat」を使って行われる。さまざまなシナリオで、得になる話を持ちかけ、手数料、申請料、代金などの名目でWeChatペイで支払わせたり、本人のアカウント情報を送らせて、アカウントを乗っ取り、銀行口座などの資金を盗むというものだ。

WeChatアカウントを取り、WeChatペイの機能を利用するには、国内では身分証、海外ではパスポートが必要になる。そのため、国内の詐欺集団がWeChatを利用して詐欺を行うのは難しい。身分証の偽造はすぐに露見するからだ。そこで、多くの詐欺集団は海外に拠点を持ち、現地の偽造パスポートなどを手に入れてWeChatアカウントを作成し、国内に向けて詐欺犯罪を行なっている。

 

7割の逮捕者は、人工知能「ビンゴ」が検出

今回、逮捕された6605人の犯人のうち、70%は、テンセント守護者計画のビンゴシステムの通報によるものだ。ビンゴシステムは、WeChat、QQでのメッセージのやり取りを監視し、詐欺的な内容が含まれていると判断すると、お金のやり取りが実行される前に事前通知をするシステム。

2018年5月、テンセントと浙江省公安庁は戦略提携を行い、「テンセント浙江セキュリティ連合ラボ」を設立し、テンセントのクラウド設備、クラウド計算力を活かし、ネット詐欺を早期警報するシステムの開発を行ってきた。

その開発内容は、5+1のシステムからなる。

1)鷹眼:電話詐欺を事前に検出する

2)騏驎:偽の携帯電話基地局を検出する

3)神羊:メッセージ内容の分析を行う

4)神茶:詐欺を行うIPアドレスを検出する

5)態勢:リスク度を分析する

この5つのシステムの上に位置をするのが「ビンゴ」だ。5つのシステムの検出結果を元に、各地公安に早期警報を発する。

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▲公開されているビンゴシステムの一画面。海外拠点から中国国内に対しての詐欺が多い。

 

導入後、すぐに詐欺実行を阻止するお手柄

テンセントと浙江省公安庁が戦略提携をした直後、ビンゴの能力が発揮されるできごとが起きた。浙江省金華市のある男性が、海外からの犯罪集団の詐欺にあった。犯罪集団は公安職員だと偽って、罰金や示談金を支払うことを要求した。このやりとりはビンゴがすぐに検出をし、金華市警察に通報、警察は男性に連絡を取り、お金を渡すことを阻止することができた。この男性は、警察に感謝の言葉を述べた。

ところが、2日後、再びビンゴが同じ男性について警報を発した。驚いた金華市警察が男性に連絡を取ってみると、男性は犯行集団と連絡を取り続けていた。公安の人間だと偽られて怯えてしまい、なんとかお金を払おうとしていたのだ。警察は男性だけでなく、家族にも連絡とり、送金するのを阻止。警察官が自宅に急行し、家族とともに説得することで、送金することを阻止することができた。

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浙江省公安庁とテンセントの戦略提携調印式。5つの詐欺検出システムの上位にビンゴシステムが位置する。精度は90%、すでに74万件の詐欺事件の警報を発している。

 

90%の精度で詐欺を早期発見するビンゴ

テンセントの統計によると、男性被害者が63%を占め、女性の37%の2倍近くになっている。また、世代では90年代生まれ(36%)、00年代生まれ(27%)、80年代生まれ(20%)と、高齢者ではなく、若い年齢層の被害が多い。

多くのネット詐欺は、SNSがなくても電話などを使って行うことができる。しかし、SNSの登場によって、犯罪の効率も著しく上がった。大量に釣りのメッセージを配信し、かかってきたカモに対して、さまざまなシナリオでカタにはめていく。一方で、ビンゴのように人工知能の力を借りて、早期警報を発するシステムも構築されている。ビンゴは、この2年間で、各地警察に74万件以上の警報を発しており、精度は90%になっているという。