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「原神」で成功したmiHoYoは、なぜ先端科学企業に集中投資をするのか

成功したゲーム企業は新興のゲーム企業に投資をしてゲーム業界を盛り立てるというのが常識だ。しかし、miHoYoはゲーム企業ではなく、先端科学の企業に集中的に投資をしている。それは、miHoYoが思い描く世界を実現しようとしているからだと手游那点事が報じた。

 

投資資金の獲得が必須になっているゲーム開発企業

ゲーム系のスタートアップ企業は、投資資金の獲得が必須になっている。ゲーム機の進化により、制作費が膨らみ続けているからだ。AAA(トリプルエー)に格付けされる大型作品では、400人から600人のスタッフが開発を行うようになっている。2013年に発売された「グランド・セフト・オートV」では、開発費用が推定で2.65億ドル(約380億円)とも言われている。

こうなると、ゲームをつくりたいという企業は2つの道しかない。どこからか投資資金を獲得するか、低予算のゲームを開発するかのいずれかだ。高額の制作費をかけた大作では、売れなければ大きな損をすることになり、失敗の代償は大きくなる。低予算でつくる場合は、よほどの個性がないと、ゲーマーから見向きもされない。

▲「原神」で大成功したmiHoYoは、その豊富な資金をゲーム企業ではなく、先端科学企業に投資をしている。

 

成功したゲーム企業は新興ゲーム企業に投資をする

このため、成功をしたゲーム開発企業は、新たに登場するゲーム開発企業、関連企業に投資をするというのが常識になっている。成功しそうな若い企業に投資をして経営を安定させるという意味もあるが、投資をして若い企業を育てないと、ゲーム業界そのものが死んでしまうからだ。

 

ゲーム業界を育てようとするリリス

「万国覚醒」(Rise of Kingdoms)(https://rok-cn.lilith.com/)、「剣と遠征」(AFKアリーナ)(https://afk-jp.lilith.com/)がヒットした莉莉絲(リリスhttps://lilith.com/)は、これまでに28の投資を行っている。

リリスの投資はゲーム企業としてはお手本のような投資方向で、その対象の多くは若いゲーム企業になる。また、ゲームコミュニティーを運営する「知乎」「TapTap」などにも投資をしている。

万国覚醒の研究開発を行った「楽狗」、剣と遠征の研究開発を行った「荊甲網絡」にも当然投資をしていて、その他もSLG(シムレーションゲーム)、カードゲーム、モバイルゲームといった分野に投資をしている。自分たちの得意な分野の若い企業に投資をして、一種の生態系を着々と構築しようとしており、ゲーム企業の投資方向としてはお手本中のお手本と言える。

リリスの主要な投資先。ほぼすべてがゲーム開発企業、関連企業になっている。成功したゲーム企業としてはお手本のような投資戦略だ。

 

先端テック企業に投資をするmiHoYo

一方、「崩壊学園3rd」(https://www.houkai3rd.com/fab)「原神」(https://genshin.hoyoverse.com/ja)をヒットさせ、中国ゲーム界のゲームチェンジャーとなった米哈游(miHoYo、ミホヨ)の投資戦略は非常に独特なものになっている。

ゲーム企業への投資も行われているが、数は少なく慎重で、ゲーム業界の中にmiHoYoを中心にした生態系をつくろうとする意思が見えない。この点、リリスと非常に対照的だ。

その代わり、投資先として選ばれているのが先端科学のテック企業だ。例えば、零唯一思(https://www.emotionhelper.com/)、瑞金医院脳病センター(https://www.rjlwh.com.cn/Department/27.html)の2機関は、人間の脳のセンシングを行いAIで処理をして、人間の感情をデジタルデータに変換する研究を行っている。瑞金医院は上海交通大学の附属病院で、企業ではなく、純粋な研究機関だ。また、博瑞迪生物技術(http://www.molbreeding.com/)はバイオテクノロジーの開発企業、能量奇点能源科技(https://energysingularity.cn/)は、高温超電導などを利用してフリーエネルギー社会を実現しようとしている企業、東方空間(http://www.orienspace.com/)は、SpaceXのように民間で輸送ロケットを実現しようとしている企業だ。

▲miHoYoの主要な投資先。ゲーム企業はほとんどなく、先端科学、SNSクラウドなどの技術開発を行っている企業が多い。ゲーム企業としては非常に変わった投資戦略になる。

 

独自の世界観を追求するmiHoYo

もちろん、創業者たちが自分の興味がある分野に投資をしているということもあるのかもしれない。しかし、ここから見えてくるのは、miHoYoはメタバースを追求しようとしているということだ。メタバースといっても、パソコンやスマートフォンの中で擬似3Dで描かれるなんちゃってメタバースではなく、xRを使って、実空間と仮想空間を融合してダイブ可能なメタバースを目指しているように見える。

これをゲームと呼ぶかどうかは微妙だが、miHoYoは自分たちが描く理想の世界の輪郭を次第に明確にしてきている。そもそもmiHoYoは創業当初、ゲーム企業を目指していたわけではなかった。IPをつくり、自分たちの理想とする世界観を生み出し、そのひとつの側面をアニメとして表現し、ひとつの側面をゲームとして表現し、別の側面をライトノベルとして表現し、音楽として表現し、ラジオドラマとして表現しというように、総合エンターテイメント企業を目指していた。つまり、ゲームというのはmiHoYoの表現形式のひとつにすぎないのだ。

このことが、miHoYoのゲームを独特なものにし、miHoYoという企業を独特なものにしている。miHoYoは創業以来、目指してきた道を着々と歩み続けている。

▲miHoYoの「崩壊3rd」。二次元アニメキャラが華麗なバトルアクションをすることで一部の人にしか知られていなかったmiHoYoの名前が海外にまで知られるようになった。華麗なバトルアクションは、原神にも引き継がれている。