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小型端末発売で、弾みがつく顔認証決済の普及

2018年、アリババ関連で最もよく使われた言葉は「新小売」と「顔認証決済」だった。半径3km以内に30分宅配する新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)の急成長と、顔認証決済が普及をした1年になった。2019年は、フーマフレッシュがさらなる拡大期に入り、顔認証決済が地方都市にまで普及する年になると見られている。

 

2015年から始まっている顔認証決済

アリババのQRコード方式スマホ決済「アリペイ」が普及をし始めたのは2012年。QRコード決済であるため、店舗は、リーダーのような特殊な装置がなくても、スマートフォンだけでも対応できる。この手軽さから多くの商店に広がり、どこでも利用できる利便性から利用者が増え、都市部を中心にあっという間に現金よりも使われる主要な決済手段になった。

しかし、アリババはすでに2015年に顔認証決済のサービスを始め、2017年9月には、ケンタッキーと共同して、顔認証決済ができるファストフード店「KPRO」を杭州市に開業している。

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▲ケンタッキーが運営するKPRO。入り口付近のパネルでメニューから注文をし、顔認証決済をする。レジカウンターがないというのもKPROの大きな特徴だ。

 

レジ決済に必要な時間がほぼ半分に

顔認証決済はチェーン店から導入が始まっている。アリババのフーマフレッシュ、KPROを筆頭に、フランス系のスーパー「カルフール」、ファストフード「ケンタッキーフライドチキン」などがすでに導入済みだ。

今年、顔認証決済を導入したタイ系のスーパー「ロータス」では、顧客体験の向上と人件費の節約を同時に達成している。ロータスの袁林化市場部副総裁は南方日報の取材に応えた。「以前は、10件の商品のお客様の決済をするのに平均で56秒かかっていました。これが顔認証決済にすると28秒になりました。広州市の平均月賃金7366元で計算をすると、顧客1人あたり0.46元の人件費節約になります。ロータスでは年間に6000万人のお客様をお迎えしますので、年間2760万元(約4.6億円)の節約ができる計算になります」。

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▲大型スーパー「カルフール」でも、セルフレジにWeChat系の顔認証端末を導入している。パスコード、パスワードを入力する面倒がない。

 

最終的には決済ステップそのものが消える

小売業が顔認証決済に期待するのはここで終わらない。現在は、消費者がまだ顔認証決済に慣れていないため、精算をしてから顔認証決済をしてもらう、ファストフードなどではパネルで注文をしてから顔認証決済をしてもらうというように、精算や注文とは別ステップで決済を行なっている。

しかし、消費者が顔認証決済に慣れてくれば、精算や注文をしている間に顔認証をしてしまうというステルス化が可能になる。つまり、店舗オペレーションから「決済」というステップそのものがなくなるのだ。

レジオペレーションがさらに短縮化できるだけなく、無人レジ化も簡単になる。

一方で、消費者からも、いちいちスマホを取り出して、支払い用のQRコードを表示させる必要がなく、スマートフォンを持っていなくても決済ができることから、便利だと歓迎されている。顔認証決済は、「スマホ不要、パスコード不要、行列不要」として注目されている。

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▲アリペイが発売する低価格顔認証端末「トンボ」。既存のレジに接続できる点が大きく、この端末が顔認証決済の普及の起爆剤になると期待されている。

 

低価格小型の決済端末が普及のカギになる

ただし、唯一の問題は、大型の顔認証決済機能搭載液晶パネルは、1台1万元以上もする高価な端末だということだ。

そこで、アリペイでは1台2688元(約4万4000円)の小型端末を発売した。従来の端末と比べて80%も価格が安くなった。しかも、通常のレジに接続できるので、後付けが可能だ。これで3D顔認証に対応しているので、化粧をしている女性などでも問題なく認証ができる。

この小型顔認証決済端末は「トンボ」という愛称で呼ばれている。2019年は、このトンボが普及をし、顔認証決済があたりまえになる年になると期待されている。

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▲「トンボ」は省スペース、低価格である点が、商店から見た場合の魅力になる。客数の多いコンビニ、スーパー、ファストフードなどから導入が始まっていくことになる。