上海市の虹橋に調理を全自動化した無人レストランがオープンした。客単価は10元という庶民向けの食堂だ。中国でも労働人口が減少し、労働力不足の影響が出始めている。労働力不足は付加価値の低い仕事から進行するため、虹橋社区AI食堂は全自動化を進めたと職業餐飲網が報じた。
すべて自動調理の無人レストラン
上海市長寧区の虹橋に、完全無人の全自動レストランが開店した。「虹橋社区AI食堂」で、130平米の広さがあり、上海熙香芸享電子商務が運営をする。調理、接客に関わるスタッフは存在せず、調理はすべて自動化されている。決済も顔認証などスマホ決済で行われる。メニューは1000種類用意され、同時に100人分の調理をすることができるという。
ロボットアームがつくる牛肉麺
例えば、麺を食べたい場合、どんぶりを取り、それを指定された台の上に置く。するとそれを感知して調理が始まる。麺が茹で上がると、ロボットアームがどんぶりに麺を入れる。すると台が動き、蛇口の下に移動し、スープが注がれる。具は10種類以上が用意され、自分で好きなものを入れる。
料理を取ったら、それを無人レジに持っていくと、料理の画像解析が行われ自動精算されるので、スマホ決済やデジタル人民元、現金などで支払うという仕組みだ。顔認証や人体認証の仕組みも導入されているため、精算をせずに勝手に料理を食べてしまう行為に対しては対策されている。
ご近所の人が気軽に利用できるAIレストラン
このようなテクノロジーを活かしたレストランの場合、通常はAIの話題性を生かした値段が高めの飲食店になるケースが多い。しかし、この虹橋社区AI食堂は価格が安い。麺は6.6元、料理も10元以下、ご飯は2元と、客単価は10元(約170円)程度を想定している。社区食堂というネーミングも「近所の飲食店」というイメージで、近所の人が気軽に利用できる食堂を目指している。
24時間テイクアウト、デリバリーにも対応
また、全自動化されていてもメンテナンスや清掃、食材の搬入があるため、24時間営業ではなく、定休日もある。そのために、24時間利用できるスマート自販機も用意されている。メニューは限られるが、食堂と同じようにロボットが調理をした食品が購入できる。
さらに、フードデリバリーにも対応しており、デリバリー専用のロッカーもある。スタッフが料理を注文し、ロッカーに入れておくと、デリバリースタッフがスマホを使って解錠し、配達する。
付加価値の高くない領域にテクノロジーを投入する
この虹橋社区AI食堂が注目されているのは、観光地や繁華街でテクノロジーをエンターテイメントの演出のひとつとして取り入れるレストランではなく、街中のごく庶民的な食堂に全自動テクノロジーを導入したという点だ。つまり、付加価値の高くない領域にコストをかけてテクノロジーを投入している。
一般的に飲食業は、全自動テクノロジーに対して及び腰だった。調理というのは複雑な工程があるため、全自動化を進めれば進めるほどメニューに制約が生まれるようになる。味で勝負している飲食店は、利用者の反応を見て、常にメニューを入れ替える必要があり、全自動化は難しいのだ。
そこで、多くの飲食店が人とロボットの共同作業を取り入れるようになっている。ひとつは食材を取り出し、カットなどの下処理をして、それを調理師に渡す部分。室温で食材を扱うため、衛生的にも敏感な工程であり、単純作業でもある。ここを自動化することで、衛生レベルがあがり、食材の利用データも取得できるため、食材の発注、消費期限などの管理がやりやすくなる。
もうひとつは配膳で、移動ロボットを導入するところが増えている。これもやはりデータを取得することができ、注文から配膳までの時間を測定し、解析することで厨房の作業工程を改善することができる。
労働力不足は付加価値の高くない仕事から影響を受ける
つまり、多くの飲食店が、人が厨房の中心であり、それをサポートするためにテクノロジーが存在すると考えている。それがなぜ、庶民的な町食堂で全自動化テクノロジーを導入したのだろうか。
その背景にあるのは労働力不足だ。中国の労働人口は減少トレンドにあり、各分野で人手不足、採用難の問題が起き始めている。飲食業の場合、その労働力不足が直撃をしているのが付加価値の低い町食堂だ。労働人口そのものが減る中で、調理師資格を取得した若者は、できるだけ付加価値の高いレストランで働きたいという希望を持っている。定番メニューを作るだけの町食堂へは、仕方くなくでしか働いてもらえない。高い報酬も払えないため離職率も高い。さらには、管理をしっかりしないとスタッフのモラルも容易に低下する。
そのような理由から、虹橋社区AI食堂は全自動化テクノロジーを導入した。テクノロジーが付加価値としてではなく、本質的価値を維持するために使われている。