中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

Ankerの浅海戦術。Ankerが覆した電子製品業界に存在する5つの誤解

モバイルバッテリーからBluetoothオーディオ、プロジェクターなどで愛好者の多いAnker(アンカー)。Ankerはそれまでの「低品質の中華クオリティ」のイメージを一掃した。それを可能にしたのは、当時の業界に存在した5つの誤解を再検討し、覆してきたからだと雨果網が報じた。

 

「中華クオリティ」のイメージを一変させたAnker

いまだに中国製の電子製品、家電製品に品質上の不安を持っている人は多い。実際、質が悪く、価格も安い製品を輸入し、それを一般的な価格づけをし標準的な製品だと誤解をさせ、クーポンやセールで割引をし購入させるという業者が一定数いるため、そういう製品を買った人にとっては「中国製品の品質はやっぱりひどい」という印象を持つことだろう。

しかし、そういう人であっても、品質に関して認めざるを得ないのがAnker(アンカー)だ。2011年に創業して以来、モバイルバッテリーの分野で躍進をし、その後、オーディオブランドSoundcore、家電ブランドeufy、プロジェクターブランドNebulaを立ち上げ、ヒット商品が生まれている。

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▲Ankerの中心メンバー。創業者の陽萌(ヤン・モン)CEOはグーグル出身。多くの中心メンバーがグーグル出身者で構成されている。

 

現品交換が基本の迅速なAnkerのサポート体制

Ankerの成功の理由のひとつがアマゾンでの販売に特化をしたことだ。現在でも、100以上の国と地域に購入者がいて、累計購入者は1億人を突破した。97%が海外からの収入になっている。

アマゾンで販売することで、販売チャンネルを一気に世界に広げることができた。しかし、世界市場に対応をすると、サポート修理などの仕組みを構築することは難しく、不具合に対しては現品交換を基本にした。これが消費者のニーズとマッチをしていた。

製品を購入して不具合が発生したら、サポートに連絡を取り、多くの場合、そこで不具合が認められ現品交換となる。交換品の発送はアマゾン経由であるため、日本の場合は翌日には新品が到着する。現品は、後日送られてくる返品キットを使って郵便小包などで返送するというものだ。

不具合があっても、ほとんどのケースで、その場で現品交換が決まり、翌日には新品が届く。この迅速なサポート体制があったことで、品質に不安を持っている人も安心して買うことができ、Ankerの品質が優れていることを実感する。現在ではアマゾン以外にもウォルマート、ベストバイなどの量販店での店頭売りにも進出をしている。

 

多くのメーカーに存在した市場に対する誤解

Ankerが成功した最大の理由は、他の多くのメーカーが市場や消費者に対して誤解をしていたからだ。Ankerは業界に存在するこのような誤解をひとつひとつ検証して、それが正しいのかどうかを確かめた。その多くが、メーカーによる思い込みにすぎなかったことをAnkerは証明した。

 

1:海外市場に適合する製品の開発は難しい

多くのメーカーが、海外市場に販売するのは簡単ではないと考えている。なぜなら、メーカーは消費者のニーズをよく調査し、それに沿った製品を開発するのが基本なのだから、海外市場で販売をするにはまず海外市場のニーズを知らなければならないと思い込んでいる。

Ankerは、消費者のニーズが世界共通であるものから手がけていった。2011年に創業した当時、製品はモバイルバッテリーだけだった。しかし、モバイルバッテリーはどの市場であっても、要求されるのは品質と価格の2つだ。これを満たし、最初から世界市場で販売することを前提に大量生産をする仕組みを構築したため価格面でも優位性を出すことができた。

そこから、徐々にオーディオ、スマート家電、プロジェクターと製品の幅を一歩ずつ広げてきた。

 

2:配送やサポートは品質とは別物

多くのメーカーが品質とは、製品の頑丈さや使いやすさだと考えていて、配送やサポート体制については、それは別の専門部門がやればいいと思い込んでいる。しかし、今では配送やサポート体制も、重要な品質のひとつの要素になっている。

ECを通じて販売する場合、消費者は製品に手を触れてみることはできない。そのため、配送の迅速さやサポートのユーザー体験が品質の重要な要素となる。世界市場では39%の消費者が配送が遅いためにその製品を買わなくなり、32%の消費者が返品の手続きが煩雑であるため、その製品を買わなくなっている。そのため、ECで販売をするときは、配送とサポートが重要な品質のひとつとなる。

 

3:ブランドを確立するのは難しい

多くのメーカーが、消費者は大手ブランドの製品を購入する傾向があると考えている。しかし、消費者はすでに変化をしている。どのような製品であっても大手ブランドを求めるのではなく、各製品ジャンルごとのトップブランドを求めるようになっている。そのため、細分化された領域であれば、無名のメーカーがその領域のトップブランドになることは不可能ではない。

例えば、Ankerが最初にトップブランドとして認識されたのは、充電ケーブルという非常に狭い領域でのことだった。多くの充電ケーブルは被覆がすぐに破れてしまうが、「ケーブルは消耗品」と思い込んでいて、これを改善しようとしなかった。Ankerは研究をして、この問題を解消し、「充電ケーブルはAnkerがいい」というブランドイメージを確立した。

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▲Ankerの隠れた名品「充電ケーブル」。被覆が破れやすいという欠点を研究し、破損に強いケーブルを開発した。この充電ケーブルは1.5トンの車を引くことができる。「ケーブルの終結者」(映画のターミネーターのこと)というコピーもイカしている。

 

4:優れた製品とはロングセラー商品

そのジャンルをリードする製品は、常に最新でなければならない。Ankerでは製品の研究開発時間は平均して6ヶ月で、売れている製品であっても、市場の要求に応じて変えていく。でなければ、市場に淘汰されていくからだ。メーカーがロングセラー製品に頼る時代は終わっている。

 

5:売れる市場をねらう

電子製品の市場を海に例えると、最も深いのはスマートフォンマリアナ海溝に例えることができる。PC、ノートPC、テレビなども深い海溝だ。多くのメーカーが、この深い海溝に挑戦をしたいと考える。しかし、Ankerは浅海戦術を採用している。浅海は深さはないが、広大に広がっていて、消費者の要求は厳しくても過剰ではない。消費者が求めるものを開発すれば、必ず消費者が応えてくれる領域だ。さらに、多くの浅海は市場のライフサイクルで萌芽期か成長期にあり、イノベーションの余地が大きく、Ankerの強みを発揮しやすい。このような浅海が、モバイルバッテリーであり、Bluetoothオーディオであり、お掃除ロボットやプロジェクターだった。

2022年のAnkerは3Dプリンター市場への進出を計画しており、AnkerWork、AnkerMakeという2つのブランドを立ち上げる予定だ。またひとつ、Ankerの浅海が広がることになる。