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ECの商品紹介は、テキスト+写真からショートムービーにシフト。販売数が20-30%上昇

EC淘宝網タオバオ)の商品紹介が従来の写真+テキストに加えて、ショートムービーに対応をした。ショートムービーの商品紹介は、わかりやすく、商品特性も伝わりやすいため、多くの店舗で売上が増加していると電商在線が報じた。

 

ムービーの方が商品の特徴が伝わりやすい

ECで商品を検索し、詳細ページにいくと、数枚の写真とテキストで商品が説明されているのが常識だ。しかし、アリババのEC「淘宝網」(タオバオ)では、商品の説明をショートムービーで行う販売業者が増えている。

特に女性向け服飾、日用便利グッズなどで多い。女性向け服飾の場合は、常人離れしたスタイルのモデルが、美しいスタジオや背景で撮影をするのではなく、ローカルモデルあるいは販売業者の社員という普通の女性が、地下鉄の構内や街角という普通の場所で撮影をする。撮影は、多少の照明機器は使うが、多くの場合、スマホだ。その方が、消費者にとって、自分が着た時にどのような感じになるのかイメージがつかみやすい。また、ムービーであることで、その動きから素材の感触も伝わってくる。

日用品のアイディアグッズなどの場合、写真とテキストで紹介をされても、その便利さがピンとこないことがあるが、ムービーであれば一眼で理解できる。

このようなことから、写真の代わりにショートムービーを使う販売業者が増えている。

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▲典型的なショートムービーによる商品紹介。プロのモデルではなく、ローカルモデルや社員を使い、近くのカフェなどで撮影をする。これにより、消費者と同じ目線の商品紹介ができ、購買欲が刺激される。

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▲日用品なども使い方、効果などがムービーの方が伝わりやすい。網戸掃除グッズの商品紹介ページ。

 

ショートムービーの閲覧数は写真の10倍

この「ショートムービー店舗」が増加しているのは、タオバオが今年2021年4月から、ショートムービー制作のプラットフォームを開設したことが直接の要因になっている。アップロードから審査、公開までがワンストップでできるようになっていて、さらに撮影アプリ、編集アプリ、AI合成アプリなどのツールも提供されている。これにより、スマホを使って、撮影の素人でもショートムービーがつくれる環境が用意されている。

しかし、最大の要因は、売上に結びつくということだ。アリババ知能デザインラボの責任者、楽乗によると、今年の現時点までの集計で、ショートムービーの閲覧数は写真の10倍程度であり、女性向け服飾の領域では、すでに1000以上の販売業者がショートムービーによる商品紹介をしているという。

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▲アリババのタオバオでは、商品紹介にショートムービーを活用するため、販売業者が簡単にショートムービーを制作できるプラットフォームを公開した。編集や特殊効果などのツールが提供され、公開したムービーの閲覧数などの統計が見られるようになっている。

 

コンバージョンが跳ねたショートムービー

徐軒さんは、2015年から天猫(ティエンマオ、Tmall)で、女性向け服飾の販売をし、彼女の店舗は60万人のファンを獲得している。タオバオの中では老舗販売業者になっている。

TikTokや快手などのショートムービープラットフォームが流行し、タオバオでショートムービーが扱えるようになっても、彼女は懐疑的で、実験的に時々ショートムービーで商品を紹介するだけで、多くの商品は従来と同じ写真とテキストで商品の紹介ページをつくっていた。

ところが昨2020年5月に、ある商品のショートムービーが大量に閲覧され、商品は1ヶ月に6000件売れ、販売額は140万元(約2500万円)を超えた。この商品に使ったプロモーション費用はわずか8万元(約140万円)だった。

「とても意外でした。後から集計をしてみると、このショートムービーのコンバージョンは20%を超えていたのです。これは特殊なケースですが、それからもショートムービーで商品紹介をすると、写真とテキストの場合はコンバージョンが3-4%程度であるのに、ショートムービーだと5-7%にまで高くなります」。

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▲商品紹介のほとんどをショートムービーにしたtiociadzr。素材感などもムービーの方が伝わりやすい。

 

同じプロモーション費用で、売上を拡大できる

徐軒さんの店舗の場合、プロモーション費用はだいたい売上の10%程度になるという。100万元の売上を上げるには10万元のプロモーションが必要になる。しかし、ショートムービーの場合はコンバージョンが上がるため、より大きな売上が獲得でき、最終的にプロモーション費用は3-4%ポイント下がることになるという。

今年は、10月までの集計で、売上は昨年から30-40%伸び、売上の30ー50%がショートムービーで紹介した商品からのものだという。すでにプロモーション費用の70%はショートムービーで紹介している商品に使うようになったという。

 

ショートムービーはタオバオ以外にも展開できる

太平鳥(タイピンニャオ、ピースバード、https://www.peacebird.com/cn/pages/home/home.php)は、全国31省4600店舗以上を展開する服飾小売チェーンだ。タオバオを始めとするオンライン販売にも力を入れていて、2021年5月にショートムービー専門チームを設立した。チームは2つにわけられ、ひとつは映像制作チーム、ひとつはトラフィック分析チームという構成だ。

今年2021年8月から10月にかけて、太平鳥はタオバオに2000件の商品紹介をショートムービーにした。そのうち800本は内製で、1200本は外部委託をして製作した。太平鳥のセールス責任者、ウェンディによると、ショートムービーで商品を紹介すると売上が平均して20%から30%は上昇するという。

さらに、同じムービーを小紅書(シャオホンシュー、RED)、中国版TikTok「抖音」(ドウイン)などにも転用し、そこからの購入も期待できるため、売上を上昇させる効果はさらに大きくなるはずだという。

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▲太平鳥旗艦店では、ショートムービーによる商品紹介、ライブコマースによる販売を強化している。ライブコマースの一部を切り抜いて商品紹介ページにも転載をする。さらに、TikTokや小紅書など他のプラットフォームにもショートムービーによる商品紹介を展開している。

 

新製品の初速をあげ、消費者層を拡大する

太平鳥がショートムービーを使ってねらっているのは、「新製品の初期売上の上昇」と「消費者層の拡大」の2つだ。

現在のアパレル業界は、少量生産をし、大量の新製品を投入し、売れるものは迅速に追加生産を行い、売れないものは生産を停止して廃番にしていくという傾向が強まっている。しかし、新製品を生み出すためのコストは、売れ行きに関わらず同じだけかかるために、売れる新製品をどれだけ増やせるかが勝負になっている。そのため、新製品をコンバージョンが高くなるショートムービーで紹介をし、新製品の売上をあげて、定番商品化をしていきたい。

また、閲覧数、コンバージョンともあがるので、それまでアプローチできていなかった消費者も獲得できていることになる。太平鳥では、データを解析して、どのようなショートムービーを制作すれば、新しい顧客層を取り込めるかの研究を始めている。

これにより、売上の拡大だけでなく、店舗の来店に結びつけようとしている。太平鳥というブランドをタオバオで知り、店舗にいくと、人気の定番商品が並んでいる。そこに今まで太平鳥に興味を持たなかった消費者まできてもらえる。オンラインで獲得した流量を、オフラインにつなげようとしており、その効果的なツールとなるのがショートムービーだという位置付けだ。

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▲太平鳥(ピースバード)は、4600店舗を展開する服飾小売。ECの天猫旗艦店の商品解説にショートムービーを活用することで、新製品の売上速を上げ定番商品を増やす、これまでリーチできなかった顧客層を取り込むことにより、店舗への来店に結びつけようとしている。

 

ムービーのクオリティよりもわかりやすさ

タオバオの商品紹介ショートムービーと、抖音、快手などのショートムービープラットフォームのショートムービーには、販売業者がから見ると大きな違いがあるという。

ひとつはクオリティの高さよりもわかりやすさが要求されるという点だ。タオバオのショートムービーは、ショートムービーというコンテンツが商品なのではなく、あくまでも商品を紹介する情報コンテンツにすぎない。そのため、ショートムービーのクオリティやコンテンツの内容で目を惹きつける必要はない。一方で、商品の特徴や特性をわかりやすく紹介している必要がある。

そのため、ライブコマースを行い、その一部を切り出して構成したショートムービーのコンバージョンが高いという結果も出ている。

もうひとつの大きな違いが、ショートムービーの寿命だ。抖音、快手では、ショートムービーが拡散をしても、3日から5日程度で再生数が落ちて埋没してしまうが、タオバオの場合はリコメンドアルゴリズムが異なるため15日程度は高い再生数を維持できるという。

もちろん、この辺りは、まだショートムービーを活用する店舗が少ないために目立つということもあるが、販売業者は、この辺りのプラットフォームの特性の違いについても分析を進めている。

今後、ECの商品紹介は写真とテキストではなく、ショートムービーが主流になっていく可能性が出てきている。