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EVシフトの陰で、廃棄バッテリーが問題化。リサイクルは確立しても、闇に流れる廃棄バッテリー

EVシフトが本格化すると同時に、廃棄バッテリーによる環境汚染が指摘されている。EVメーカーはリサイクルの仕組みを確立しているが、多くの廃棄バッテリーがこの正規ルートに乗らないことが問題だと央視網が報じた。

 

EVシフトで廃棄バッテリーによる環境汚染が問題化

中国で電気自動車が売れ、EVシフトが本格化をしている。EVと再生エネルギー車を含む新エネルギー車の2020年の販売台数は136万台で、2021年第1四半期は51.5万台となり、昨年同時期の2.8倍になった。

しかし、それに伴って、廃棄されるバッテリーの量も増えている。ある試算では、2020年には20万トンのバッテリーが廃棄されたが、その多くが正規のリサイクルルートではなく、闇市場に流れているとも言われる。現在の販売台数から推測をすると、2025年には78万トンのバッテリーが廃棄される計算になり、不適切に処理されたバッテリーによる環境汚染を警告する専門家もいる。

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▲EVシフトの立役者となっているのは、日本の軽自動車に相当するA00級と呼ばれる小型車だ。航続距離は短いものの、通勤と買い物に使われる。

 

リサイクルは確立されているものの、闇ルートに流れる

バッテリー回収とリサイクルの仕組みはすでに確立している。2018年に国家工信部、科技部、環保部などの7部門が共同して「新エネルギー車動力蓄電池回収利用管理暫定法」が制定されている。この中では、自動車メーカーが主体となってリサイクルの仕組みを作り、回収する責任があるとされている。

主な自動車メーカーは、すでにこのリサイクル仕組みを作り上げ、きちんと実行されているが、多くのバッテリーがこのルートに乗らない。なぜなら、廃棄バッテリーは売れるからだ。分解をすれば、希少金属など資源が回収できるため、小さな町工場が分解をして、お金になる部分を取り出す。残った有害物質をきちんと処理をすればまったく問題はないが、現実問題としてどう処理されているかはわからない。

また、消費者もバッテリーが劣化をしたら、正規販売店で交換をするのが基本で、この場合は廃棄バッテリーは正規のリサイクルルートに乗る。しかし、より安く交換をしてくれる民間工場もある。そちらで廃棄バッテリーがどのように処理されるかは、多くの消費者が気にしていない。正規ルートに乗せる工場もあれば、分解業者に売却してしまう工場もある。

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▲車体は10年以上乗ることができるが、バッテリーは5年ほどで交換する。正規ディーラーで交換すればリサイクルされるが、民間工場の場合、廃棄バッテリーがどうなるかはわからない。

 

車両とバッテリーの耐久年数が異なることが問題

難しいのは、車両とバッテリーの耐久年数が異なっているということだ。ガソリン車であれば、自動車メーカーは誰に販売をしたかを把握することができ、転売をされても誰が所有をしているかは把握することが可能だ。

しかし、EVの場合は、バッテリーの寿命は5年程度だが、車体の方は10年以上利用できる。つまり、多くの人が、何回かバッテリーを交換して自動車を利用することになる。自動車メーカーは車体を誰が所有しているかは把握できるが、正規販売店以外でバッテリー交換をされると、廃棄バッテリーがどの程度生じているのかすら把握ができない。

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▲以前、問題になっていた充電ステーション不足はだいぶ解消されている。これもEVが売れ始めた要因のひとつになっている。

 

バッテリーの所有者を把握する仕組みが求められる

専門家が恐れているのは、不正規の分解ルートに流れた廃棄バッテリーが環境中に不法投棄されることだ。バッテリー内には毒性の高い重金属が含まれており、土地や水に深刻な悪影響を与える。

EVシフトが進むのは環境にとっていいことだが、自動車メーカーが車体だけでなくバッテリーも把握する仕組みを作り、回収するルートを確立させないと、今度は廃棄バッテリーが環境を汚染することになりかねない。