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今回は、スーパーの逆襲についてご紹介します。
「vol.080:中国主要スーパーが軒並み減収減益の危険水域。もはや店頭販売だけでは生き残れない」で、中国の既存スーパーが軒並み、2021年第1四半期の営業収入、純利益ともに減少する減収減益となり、中には存続すら危ぶまれる状況になっているチェーンもあるとお伝えしました。その回のメルマガの最後で、「スーパー業界は、テック企業に反転攻勢をかけることができるでしょうか、それともこのままゆっくりと沈んでいくことになるのでしょうか」と問いかけました。
あれから1年弱。スーパー業界は反転攻勢の狼煙をあげ始めました。もちろん、まだ始まったばかりであるため、功を奏するかどうかまではわかりません。しかし、個人的にはツボをとらえており、それなりの成果には結びつくのではないかと思います。
そこで、今回は、永輝(ヨンホイ)と大潤発(RTマート)がどのような反転攻勢の計画をスタートさせたのかをご紹介します。
スーパーが苦境に立たされている要因はいくつもあります。
1)新小売
2)生鮮EC
3)社区団購
4)会員制ホールセールクラブ
主にこのようなライバルに客を奪われていきました。
新小売は、アリババの「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)に代表される「店舗+宅配+イートイン」の形態の食料品スーパーです。2016年にアリババの創業者である馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)が、「オンライン小売とオフライン小売は深く融合して新小売になっていく。すべての小売業は新小売になる」と宣言し、翌年から店舗展開を始めました。
フーマフレッシュが、単位面積あたりの売上が平均的なスーパーの4倍以上になるほどの成功をするという報道がされるようになると、既存スーパーも防衛的に次々と新小売業態の店舗展開を始めました。
その中で有力だったのが、永輝が展開をした「超級物種」(チャオジーウージョン)です。テンセントと共同で子会社「永輝雲創」を設立し、最大で80店舗の展開をしました。
当時はこの超級物種も有力な新小売のプレイヤーだとして注目をされました。超級物種は、宅配よりもイートインに力を注いだのです。イートインコーナーというよりは本格的なレストランやカフェが併設されているスーパーです。レストランを併設することで、生鮮食料品の商品ロスも減らすことができます。さらに、何より、店舗の魅力を高め、店舗の集客力を高めることになります。
その頃、欧米ではグローサラント(グロッサリー+レストラン)という形態のスーパーが流行の兆しがありました。超級物種は、中国でいち早く高級グローサラントという位置付けで新小売スーパーを展開しました。フーマフレッシュは宅配に軸足を置き、超級物種は飲食に軸足を置く。どちらの新業態が成功するのか、誰にもはっきりとしたことは言えない状況でした。
ところが、2020年のコロナ禍が完全に裏目に出ます。人々が求めたのは店舗で買い物をしたり、レストランで食事をすることではなく、自宅にいながらにしてスマホで注文し、30分で配送してくれるフーマフレッシュだったのです。
さらに、生鮮ECも生鮮食料品をスマホ注文、30分配送してくれるサービスで、スーパーの客を奪っていきました。
そして、とどめとなってしまったのが、社区団購です。社区団購は、前日までに注文をし、配送拠点に受け取りに行くサービスです。前日注文であるために、配送量が確定をするため、需給調整をする役割の卸業者が不要になります。商品ロスもほとんど出ません。さらに拠点受け取りが原則であるため配達コストなども不要です。これにより、非常に安価で生鮮食料品を提供できるサービスです。
コロナ禍で外出を控える人たちが、マンションの住人有志で社区団購に加入をし、マンションの事務室などを配送拠点とし、注文した商品をそこに送ってもらう。住人は、マンション内の移動だけで生鮮食料品が受け取れるということから、社区団購は一気に広がりました。
これが、スマホ注文を好む若い世代だけでなく、スーパーの店舗にわざわざ買い物にきてくれていたお客さんまでを奪っていきました。最後の砦とも言える来店客まで削り取られてしまったのです。
さらに、コストコに代表される会員制ホールセールクラブも大都市では続々とオープンされています。車で行って飲料などもまとめ買いすれば買い物に行く回数を減らすことができる。近所の人とシェアをすれば安く購入することができる。そういうことから会員制ホールセールクラブも人気が高まっています。
永輝は、新小売スーパー「超級物種」を展開するだけでなく、永輝本体では到家サービス(宅配サービス)を始めて、フーマフレッシュや生鮮ECに対抗をしました。しかし、これが業績悪化の決定打となってしまいました。「vol.080:中国主要スーパーが軒並み減収減益の危険水域。もはや店頭販売だけでは生き残れない」では、永輝の2020年の年度報告書から宅配に関するコストを計算してみました。簡単におさらいしておくと、平均注文単価は70.4元で1日1店舗の平均注文件数が約230件。さらに荒利率が13%代後半から14%前後を推移していることから、客平均粗利を168円と計算しました。
さらに一般的な人件費、配達可能件数などから1件あたりの配達コストを推定すると125円となります。168円しか儲からない商売で、配達コストの125円を負担しなければなりません。これではお話になりません。しかも、この配達コストは、配達スタッフが遊ぶことなく、最高の効率で配達をした場合の計算です。注文数が少なく、スタッフの半分が遊んでいる状態では1件あたりの配達コストは倍になります。夕方の配達ピーク時に合わせて、配達スタッフの余裕を持っておく必要があることを考えると、現実にはほとんど利益がでないか、下手をすると赤字になっていた可能性すらあります。
では、一方のフーマフレッシュは、なぜ宅配をして赤字にならないのでしょうか。最初にフーマフレッシュが宅配コストを抑えるために行なっている工夫についてご紹介します。
そして、永輝、RTマートはどのような策で反撃をしようとしているのでしょうか。2つのスーパーとも、新小売と自社を比較して弱みの分析を行い、それを素直に認めて、その弱みを解消する手立てを打ち始めています。正直、わずか半年程度でこれだけの転換ができるのはかなりすごい話です。数人のスタートアップ企業がピボットするという話ではないのです。両社ともカルフールとウォルマートを抑えて、中国のチェーンスーパー業界で1位、2位を競い合っている大企業なのです。このフットワークの軽さは中国企業特有のものを感じます。
今回は、スーパーの逆襲についてご紹介します。
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