世界の投資家が東南アジアに熱い視線を送っている。報道されているだけで、2019年には309件の投資が行われ、投資金額は74.74億ドル(約7900億円)に達している。その中でも多いのがモビリティ関連、フィンテック関連だと浪在硅谷が報じた。
コロナ禍でもマイナス成長にならない東南アジア
東南アジアの市場が注目される理由は、その高い成長力だ。コロナ禍が起きる前、東南アジア主要国は、GDP成長率6.6%から7.3%の間を維持していた。特にベトナムは2年連続で7%を超え、5年連続で6%を超えている。
また、シンガポール、ブルネイ、マレーシアなど、豊かと言っていい国もある。シンガポールの2019年の1人あたりのGDPは6.77万ドルに達し、アジアで最高額になっている。ブルネイも2.93万ドルに達している(日本は3.93万ドル)。
当然ながら、コロナ禍の影響を受けているが、それでも2020年第1四半期のベトナムの成長率は3.82%、インドネシアは4.7%であり、コロナ禍の影響は限定的であり、回復も早いと見られている。
世界の先進国の成長が止まる中、東南アジアだけは成長を続けている。それが投資家が注目する理由だ。
▲北アジア(日本、韓国、台湾)の成長率(オレンジ)と東南アジアの成長率(青)。東南アジアは、世界の投資家から熱い視線を浴びるようになっている。
平均年齢が若く、人口ボーナスが期待できる東南アジア
また、東南アジアの人口は6.7億人で、大国の人口並だが、多いだけでなく、平均年齢が28.8歳と若い。
スマートフォンの普及で、ネット人口も3.6億人と増え、現在も増加中だ。約3億人がなんらかのSNSを使いコミュニケーションを取り合っている。
一部では「若い中国」とも呼ばれていて、今後、人口ボーナスによる各産業の発展が期待されている。これらのことが投資家にとって大きな魅力になっている。
▲労働人口の国別比較。東南アジア各国では、今後も労働人口が増加をする。しかし、韓国、中国、日本などでは労働人口が減少をしていく。労働人口=消費者主力群なので、東南アジアの経済に注目が集まっている。
バイクタクシーから商品も人も配送するGoJek
その中でも最も注目されているのが、インドネシアのジャカルタで始まったライドシェアGoJekだ。スマホで呼べるバイクタクシーから始まったが、現在、これを起点にサービスを広げている。スマホ決済を始め、さらに飲食品、商品の即時配送を始めた。さらに、商品だけでなく、人の配送も始め、マッサージ師や美容師、清掃員、自動車修理などのエキスパートを自宅に運んでくれる。
2020年3月、多くの投資家が投資マインドが減退する中で、GoJekはFラウンド投資12億ドル(約1300億円)を行った。投資元は公開されていないが、Amazonではないかと推測する報道もある。
創業以来、GoJekは10回以上の投資を受け、累積投資金額は100億ドル(約1兆円)を超えていると推測されている。前回の投資は30億ドルで、テンセント、グーグル、Visa、京東などが投資をした。
▲GoJekはバイクタクシーからスタートして、商品や専門スタッフの配送まで行うようになっている。
ウーバーを買収したGrab
2012年にシンガポールで創業したGrabは、GoJekのライバルになっている。すでに20回以上の投資を受けていて、GGVキャピタル、ソフトバンク、タイガーグローバル、ヒルハウスキャピタル、中国投資、平安投資などのベンチャーキャピタルの他、滴滴、去哪児などの企業が、2020年2月に8.5億ドルの投資を行い、累積投資金額は140億ドルを超えている。
Grabもバイク、トゥクトゥクなどのタクシー配車から始まったが、2016年からフードデリバリー、2018年には東南アジア地区のウーバーを買収、さらにスマホ決済、即時配送なども行うようになっている。
▲Grabはバイクやトゥクトゥクの配車サービスからスタートして、ウーバーを買収し、フードデリバリー、即時配送まで事業を広げている。
配食サービスのDhamakanが成長
フードデリバリーも東南アジアで成長が期待されている市場だ。2018年には20億ドル規模だったが、2025年には80億ドルになると予測されている。しかも、コロナ禍により、フードデリバリーの需要は大きく伸びている。
GoJek、Grabともにフードデリバリーサービスを行っているが、フードデリバリー専業のスタートアップとしては、2015年にクアラルンプールで創業したDahmakanの成長が目立っている。2020年2月にBラウンド1800万ドルの投資を決め、累積投資額は2800万ドルとなった。楽天キャピタル、ホワイトスター、JAFCOアジア、GEC-KIPファンドなどのベンチャーキャピタルの他、Yコンビネーターが投資をしている。
Dahmakanとは、マレーシア語で「ご飯食べましたか?」の意味だという。同じくフードデリバリーのフードパンダ香港を立ち上げたジョナサン・ウェインが仲間とともに起業をした。
しかし、Dahmakanは一般的なフードデリバリーとは違っている。一般の飲食店の飲食物を配達するのではなく、自分たちで調理をし、独自のスマホ決済を使うという完結型フードデリバリーになっている。自社で調理をすることで、低価格で質の高い食事を届けるというのがコンセプトになっている。
Dahmakanでは200種類以上の食事メニューが用意されていて、そのうち、原材料価格などを考慮して、毎週40メニューが選ばれる。利用者はこの40種類から選び、配送時間を指定する。
▲配食サービスのDahmakan。調理から配送まで一貫して行う安心感から利用者を広げている。
インドネシア最大級のユニコーンEC企業Tokopedia
ECの分野ではすでに競争が熾烈になっている。人口構成が若く、スマホ利用率が高い地域は、ECにとっては魅力的な市場で、さまざまなECが起業され、多くの投資資金が流れ込んでいる。
特に、Tokopedia、Lazada、Shopeeの3社が注目されている。
2009年にインドネシアで創業されたTokopediaは、俗に「インドネシアのアリババ」とも呼ばれている。2018年にはソフトバンクビジョンファンドとアリババから11億ドルの投資を獲得している。2020年初めに、ソフトバンクとアリババから15億ドルの追加投資を受け、インドネシア最大級のユニコーン企業となった。
それでもTokopediaの名前をあまり耳にしないのは、Tokopediaが海外進出をすることなくインドネシアに特化する戦略をとっているからだ。インドネシア市場は巨大であり、2025年にインドネシアのEC市場は820億ドルになると予測されていて、その場合でも東南アジアEC市場の54%を占める。また、Tokopediaは、いわゆるママパパショップ=個人商店の生存という社会貢献を掲げていて、これによりインドネシア市場に特化をしている。
中国でコロナ禍により、ライブEC(店主自らライブ放送に出演して、商品を販売する)が流行をすると、TokopediaもすぐにライブEC「TokopediaPlay」を導入している。
▲インドネシアに特化したEC「Tokopedia」。インドネシア最大級のユニコーン企業に成長している。
独身の日セールを東南アジアで行うLazada
2012年にシンガポールで創業したLazadaは、インドネシア、ベトナム、マレーシア、タイ、フィリピンなどでサービスを提供している。特にマレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの4カ国では月間アクティブユーザー数がトップのECになっている。アリババが投資をしており、アリババと同じように11月11日には独身の日セールを行うことで有名だ。2019年11月11日には、開始1時間で300万件の注文を受け、アクセス数は13億人に達したという記録を作った。
▲Lazadaは、中国と同じように毎年11月11日にセールを行う。
ニューヨークに上場済みのSea傘下のShopee
2015年にシンガポールで創業したShopeeは、東南アジア最大のテック企業Seaの参加だ。ゲームのGarena、ECのShopee、フィンテックのSeaMoneyが主要事業。そのため、Shopeeもゲーム性の高いECになっている。口コミがSNS化されていて、利用者同士で交流できる他、ミニゲームで遊んで結果によって優待を受けることもできる。
LazadaとTokopediaにはアリババの資本が入っているが、Seaにはテンセントの資本が入り、2017年にニューヨーク市場に上場した時には、39.7%の株式を保有する最大株主になっている。
▲Shopeeはミニゲームを用意して、ゲームの成績で優待が決まるという仕組みを取り入れ、消費者の心をつかんでいる。
ソフトバンク、セコイアが積極投資する東南アジアテック
投資家にとっては、東南アジアは今いちばんホットな地域になっている。2019年の投資額が最も多かったのはシンガポール政府投資公社(GIC)だが、日本のソフトバンク、米国のセコイアキャピタルも大型の投資を行っている。
特に、コロナ禍の負の影響が世界の中ではきわめて小さく、一方で「宅経済」系のフードデリバリー、ECなどは需要が刺激されたという点も大きい。もともと成長率の高かった東南アジアだが、コロナ禍によって、成長に弾みがつく可能性すらある。
▲東南アジアに積極的に投資をしているのはシンガポール政府投資公社(GIC)、ソフトバンク(軟銀)、セコイア(紅杉)の3社。