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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

インドネシアのEC「トコぺディア」と即時配送「ゴジェック」の合併。中国で加熱する東南アジア投資ブーム

地元企業、ECのトコぺディアと即時配送のゴジェックが合併し、O2Oビジネスの体制が整ったインドネシア。平均年齢が若く、人口も2.7億人いることから、中国の投資家の熱い視線を集めている。中国の投資熱により、東南アジアの成長が始まろうとしていると新潮商評論が報じた。

 

人口の75%がネットアクセスの東南アジア

10年前、東南アジアでインターネットを利用するのは2割ほどの学生や高所得者に限られていた。しかし、グーグル、テマセク、ベイン&カンパニーなどが共同で公開した「e-Conomy SEA 2021」によると、2021年末でインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム6カ国のインターネットユーザーは4.4億人になり、人口の75%にあたるようになっている。

10年前は、PCと光ファイバーがインターネットの主要な端末であり、それだけの環境を整えられる人は多くなかった。しかし、スマートフォンと携帯電話通信網の普及により、一気にインターネットを使う人が増えた。つまり、東南アジアの人々は年齢に関係なく「モバイルネイティブ」なのだ。

 

EC利用経験は8割

驚くべきなのは、ネットサービスの利用者だ。過去にインターネットで商品を買った経験がある人の割合は8割にものぼる。これによりネット小売、サービスの消費者数は全体で3.5億人と推定できる。

しかも、コロナ禍がこの傾向を加速させている。コロナ禍の前と比べて、ネットサービスの利用回数、利用額の増減を尋ねたところ、日用品の購入では62%の人が利用回数が増え、60%の人が利用額が増えたと回答している。フードデリバリーでは65%の人が利用回数が増え、64%の人が利用額が増えたと回答している。

コロナ禍により、東南アジアではスマホで利用できるデジタルサービスが一気に普及をし、スマホ生活先進国になっている。

▲ネット環境がある人の中で、ECでの購入経験がある人は東南アジア(SEA)平均でも80%に達している。「e-Conomy SEA 2021」より引用。

▲コロナ前とコロナ禍でのデジタルサービスの利用の変化。上は利用頻度、下は利用額。多くの品目でコロナ禍で「増えた」と回答する人が多いが、フードデリバリーと日用品で特に顕著になっている。「e-Conomy SEA 2021」より引用。

 

トコぺディアとゴジェックが合併

このようなネット小売の流通総額(GMV)は、1740億ドル(約23兆円)となり、その40%をインドネシアが占めている。インドネシアのGMVは2025年には1460億ドルになると予測され、経済全体も急成長中だ。

このようなデジタルによる高度成長を背景に、2022年4月にテック企業「GoTo」が上場をし、企業価値は246.3兆ルピア(2.24兆円)になっている。

GoToはインドネシア最大のテック企業で、EC「Tokopedia」(トコぺディア)とデリバリー「Gojek」(ゴジェック)が合併をしたものだ。小売とデリバリーが補完をしあうことで、サービス上のシナジー効果は大きく、中国では「アリババと美団と滴滴を合わせたような企業」として注目されている。

▲ECのトコぺディアと即時配送のゴジェックが合併したことで、O2O領域での強いシナジー効果が期待されている。商品が注文して1時間ほどで配達されてくる世界が始まろうとしている。

 

インドネシア最大のEC「トコぺディア」

トコペディアは、インドネシアのウィリアム・タヌウィジャヤにより2009年に創業された。東南アジアでは早期に創業したテック企業のひとつになる。タヌウィジャヤはアリババに学び、淘宝網タオバオ)をモデルとして、トコぺディアを起業した。

インドネシアは人口2.7億人で、世界第4位の人口が多い国。しかも平均年齢が30歳と非常に若く、大きな消費力を潜在させている。しかし、問題は配送に不利な地理的条件だ。1.7万とも言われる島々があり、配送が最大の問題となる。トコペディアは、日ソフトバンク、米セコイア・キャピタル、中アリババの投資を受け、配送企業「TokoCaban」(トコキャバン)を設立し、配送課題を解決しようとしている。

これにより、トコぺディアはインドネシアで最大のECとなり、月間アクティブユーザー数は1.373億人、販売業者は数百万社が参加をするようになっている。

 

即時物流+モバイル決済のゴジェック

ゴジェックは、2010年にナディム・マカリムによって創業された。マカリム家はインドネシアの中では名家であり、ナディム・マカリムもハーバードビジネススクールを卒業し、MBAを取得して、マッキンゼーで3年間、コンサルタントを務めていた。マカリムは以前からジャカルタの中心部にバイクがあふれ、交通の混乱が起きていることをなんとかしたいと考えていて、この交通問題を解決するために、マッキンゼーを退職して、ゴジェックを創業した。

インドネシアでは「Ojek」(オジェック)と呼ばれるバイクタクシーが存在していた。バイクの後部座席に乗るというタクシーだ。1人しか乗れないが、バイクであれば渋滞をすり抜けることができ、時間が読める。そこからジャカルタではよく利用されていた。

マカリムは、1人でも自動車に乗っている人が多く、それが交通渋滞の原因となっていると考え、このバイクタクシーサービスを普及させることで、交通問題を解決しようとした。当初は20台のバイクを用意し、電話で呼び出しをして、迎車をして乗せていくというものだった。

2015年にスマホアプリに対応した頃から、利用者が増えるようになった。いつでもどこでもスマホで簡単に呼び出すことができるからだ。

▲ゴジェックの即時配送。本来はバイクタクシーだったが、人ではなく荷物を運ぶことでデリバリーに進出。O2Oビジネスの重要な役割を果たすことになった。

 

2016年からスマホ決済などに多角化

2016年にはスマホ決済「GoPay」をリリース。ここからゴジェックの躍進が始まる。元々はゴジェックの乗車代金を支払うスマホ決済だったが、街中の商店やオンラインサービスにも拡大をした。このGoPayの最大の利点では、ゴジェックのライダーが現金化やチャージをしてくれるということだ。ゴジェックを利用した時のみならず、街中でゴジェックのライダーを見つけたら、現金化やチャージができる。ゴジェックが「走るATM」となったのだ。

インドネシアでは銀行口座の保有率が50%程度、クレジットカードの保有率は5%程度と言われる。その中で、GoPayは利便性の高いキャッシュレス決済として受け入れられた。

さらに、ゴジェック自体もサービスを広げていく。人を乗せて走るのだから、モノを乗せて走ってもいいという発想から、フードデリバリー、ECの短時間配送とマルチ化を進め、グーグル、メタ、京東、テンセント、美団なども投資をし、インドネシア最大のユニコーン企業に成長した。

 

シナジー効果が極めて高いトコぺディアとゴジェックの合併

ECのトコペディアとデリバリー&決済のゴジェックが合併をするのは当然のことかもしれない。2021年5月頃から合併の協議が始まり、9月には合併が成立し、両者の社名を取り「GoTo」となった。250万人の配送員、1400万社の販売業社、5500万人の会員を抱える巨大企業となった。中国では、「EC&決済のアリババ」「生活サービスの美団」「ライドシェアの滴滴」を合わせたような企業だと説明される。

しかし、GoToの将来が保証されているわけではない。GoToは黒字化がまだなされてなく、東南アジアでは、ゲームやEC「Shoppee」(ショッピー)を所有するSEAグループ、ライドシェアのGrabも、「EC+決済+配送+生活サービス」の態勢を整えつつあり、GoTo、SEA、Grabの3社が熾烈な競争を始めている。この競争により、東南アジアの経済はさらに成長をすることになると見られ、中国では東南アジア投資のブームが起ころうとしている。