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ストライキ、新型コロナで挫折をするフォクスコンのインド移転計画

アップルは製造委託先であるフォクスコンをインドに進出させて、iPhoneのインド需要をインド生産で賄おうと計画してきた。しかし、フォクスコンの中国式を押し付けるやり方にインド人労働者が反発をし、ストライキが起きている。さらに新型コロナによる休業で、インド進出計画は事実上頓挫をしていると傑哥資訊社が報じた。

 

「世界の工場」は、中国からインドに移転中

中国は人件費コストが安い割に、インフラがそこそこ整い、技術力もあったことから、「世界の工場」となることができた。アップルもその多くの製品を、富士康(フォクスコン)などに委託生産している(社名は台湾に本社がある鴻海精密工業。中国向けには富士康の名称を、北米向けにはフォクスコンの名称を使っている)。

しかし、この数年で事情が大きく変わった。人件費コストが大きく上昇し、海外企業は、中国からより人件費の安い国に工場を移転し始めている。海外企業の多くがインドに注目をしている。

 

インド需要の上昇、米中貿易摩擦でアップルもインド生産へ

特にアップルは、インドのスマートフォン市場で3%程度しか占められていないが、インド生産のiPhoneはそのうちの1/3程度で、インド国内の需要をインド生産で賄い切れていない。しかも、プレミアム価格帯のスマホとしてiPhoneの人気が上昇しており、2020年1-3月期の出荷台数は前年同時期から78%も増加をしている。

また、米中貿易摩擦も大きく影響している。中国で生産したiPhoneを米国に輸出しようとすると、追加関税が徴収される懸念がある。一方で、インドではiPhoneの輸入関税を10の%から20%へ引き上げるなどしている。つまり、インドで売るものはインドで生産するように誘導しようとしている。

そのため、アップルは、インドに巨額投資をして、フォクスコンなどを通じて、インドの生産拠点の10から12カ所の拡充を急いでいる。

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▲フォクスコンのインド工場。工員がインド人であるというだけで、中国工場とそっくりの風景になっている。中国式を押し付けることに対する工員の反発は強く、ストライキが起きている。

 

フォクスコンのインド進出計画は頓挫か?

しかし、フォクスコンのインド工場はかなり苦労をしているようだ。中国のフォクスコン工場では、残業が当たり前のことになっている。中国人労働者は残業を歓迎する。基本給よりも稼げるからだ。しかし、インドの労働者は残業を嫌う。残業が多くなると、職場放棄、ストライキが相次いでいる。

これにより、フォクスコンのインド工場は生産性が上がらず、その分、多くの工員を雇用しなければならず、生産コストが中国工場に比べて必ずしも安くはなっていないのだ。

またインフラも脆弱で悩まされている。断水、停電が起きるのだ。さらに、インドで生産するといっても、組み立てる部品は中国で生産したものを持ち込まなければならず、そのコストもかかる。

フォクスコンは50億元(約750億円)を投資して、インド工場を稼働させようとしたが、このままでは失敗に終わりかねない。そこへ新型コロナの感染拡大が起こり、インドでは国内全土を対象とした封鎖措置を実行し、インド工場も操業停止に追い込まれている。

インドの州政府も、アップルとフォクスコンの投資計画を次々と凍結し、インド進出計画は頓挫をしたと見られている。

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鴻海精密工業の郭台銘氏は、インド各地の州政府と協同して工場の進出を行ってきたが、コロナ禍の影響もあり、ほぼ失敗に終わったと見られている。

 

中国式が通用しないフォクスコンの海外進出

フォクスコンは、これまでにも、2011にはブラジル、2014年にはインドネシア、2018年からインドと脱中国プロジェクトを進めてきたが、その多くが頓挫をしている。

その失敗の根底にあるのは、日本企業がかつて中国で失敗したのと同じく、「自国式を押しつける」感覚にあると言われている。

フォクスコンが中国に回帰をすることは簡単だ。しかし、それには人件費コストの高騰が待ち構えている。海外にもいけない、中国にも戻れない。アップルとフォクスコンは漂流をし始めている。スマホの世界で圧倒的な強さを持っていたiPhoneも、意外なところで踊り場を迎えている。

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