福州市にオープンした5G AI公園に登場した自動運転の自動販売車が話題になっている。手を挙げると自動的に止まって、飲み物などが買えるというもの。開発元の新石器科技では、自動運転の配送車も開発していて、3年程度で宅配の末端物流が自動運転化される可能性が見えてきたと半斤瓜子が報じた。
福州市にも百度のAI公園がオープン
2019年4月に、福州市の飛鳳山公園が、5G AI公園としてリニューアルオープンした。基本的にはすでにオープンしている北京市海淀公園のAI公園と同じで、百度の自動運転プラットフォーム「アポロ」をベースにし、百度とアモイ金龍が共同開発したL4自動運転バスが園内を走っている。また、海淀公園で人気だったAR太極拳も設置されている。これは自分たちの映像の上に太極拳の人型ガイドがオーバーラップして表示されるというもの。ガイド通りに動くことで太極拳を学ぶことができる。
また5G智能公園全域を5G電波がカバーしているため、公園内で5G通信を体験することができる。
▲AI公園としてリニューアルした福州市の飛鳳山公園。人気はやはりAR太極拳。モニター上に表示される人型のガイドに合わせて動くことで、太極拳を覚えられるというもの。
注目される新石器科技の自動運転販売車
この飛鳳山公園に、新しく登場したのが、自動運転自動販売車だ。これも百度の自動運転プラットフォームをベースにし、新石器科技が開発した。
この販売車は園内の固定路線を無人運転で巡回している。人が前にいると、避けるか止まるかをする。しかし、人が販売車に向かって手を挙げると目の前に止まってくれる。タッチパネルから飲料などの商品を選んで、スマホ決済をすると、商品が出てくるという動く自動販売機だ。
▲飛鳳山公園内を走る自動運転販売車。人がいると避ける、止まる。手を挙げると、目の前にきて止まる。
人は巡回せず、自販機が巡回する
この自動運転自動販売車は、公園の自動販売機としては非常に優れている。固定式の自動販売機を設置すると、景観を乱すだけでなく、商品補充や管理などのために人が巡回をしなければならなくなる。しかし、自動運転自動販売車であれば、園内の拠点に帰ってきたときに商品を補充すればいいのだ。
広い敷地に工場や研究施設等をもっている企業の中にも、この自動運転自動販売車を採用しているところがある。この場合、固定路線を巡回するのではなく、工場の休憩時間に入り口付近にやってきて停車をするというパターンが多い。昼休みと休憩時間で必要とされる商品が異なるので、いったん拠点に戻って、商品を入れ替えて、所定の位置に自分で移動をする。
この自動運転自動販売車を導入すると、広い工場内に購買部を1箇所設置するだけで、全棟に商品を提供できるようになる。
▲右側のタッチパネルで飲み物やスナックを購入することができる。支払いはもちろんスマホ決済。
自動運転の短距離配送車も活用が始まっている
新石器では、販売車だけでなく、バリエーションとして短距離配送車も製造している。これもすでに企業導入されていて、郵便物や荷物を配送するものだ。到着すると、受取人のスマートフォンにプッシュ通知がいくので、スマホを鍵にして開けて、荷物を受け取る。つまり、自動運転宅配ボックスだ。
現在は、企業内、大学内、公園内といった閉鎖区間内での運用のみだが、新石器は路上での運用を狙っている。
▲新石器科学技術が開発した自動運転自動販売車。百度の自動運転プラットフォーム「アポロ」をベースにし、固定路線を巡回する。自動販売機だけではなく、宅配の配送拠点から家庭までを配送する「動く宅配ボックス」としての活用に注目が集まっている。
パンク寸前の末端物流に自動運転配送車を
中国では1日あたり、2億個の宅配便が配送されている。2013年から比べると5倍になっているが、配送員の数は2倍弱にしかなっていない。これが大きな問題になっている。配送拠点から各家庭までの5km以内の末端配送は、2兆元から3兆元(約46兆円)規模の市場だが、約4000万台のオート三輪、小型車で配送されている。新石器はここに自動運転宅配ボックスである短距離配送車を売り込みたいと考えている。
突発事態には、5Gによる監視でリモート制御
問題は、この自動運転配送車は、L4自動運転車であるということだ。L4は「一定条件下の無人運転」であるために、突発的に条件から外れる事態が起きた場合は、人が介在して緊急対応をする必要がある。乗用車などでは、人が運転席に座り、いざという場合は人がハンドルを操作する。
短距離配送車に人が乗るのであれば意味がないので、リモート監視をして、緊急時にはセンターからリモート制御をすることになる。しかし、4Gでは300ミリ秒程度の遅延が起きるので、緊急制御が難しい面があった。しかし、5Gになると遅延はわずか10ミリ秒程度になる。
5Gを利用することで、短距離配送車が路上を走る可能性が出てきている。
短距離無人配送車は「走る宅配ボックス」
短距離配送車の路上走行は、5G通信が街中をカバーし、試験走行を行ってから実戦投入となるので、まだ時間がかかるが、大型マンションなどの閉鎖敷地内では5G通信がカバーされていれば、現在でもすぐに投入ができる。
宅配便配送員は、マンション内の各戸に配送するのではなく、マンション内に待機している短距離配送車に荷物を預ける。短距離配送車はマンション内を巡回して、各戸にプッシュ通知を送りながら、荷物を取りにきてもらう。宅配便配送員は、すべての荷物を宅配ボックスに届けるのと同じことになり業務効率があがる。各戸の利用者は、マンション入り口の宅配ボックスではなく、宅配ボックスの方から自分の棟の下まできてくれるということになる。
この無人短距離配送車が普及をすると、末端物流は大きく変わる。
▲新石器科技は、江蘇省常州市に、年間3万台の生産能力がある工場を新設した。3年から5年でフル生産になる見込み。自動運転自動販売車だけでなく、自動運転配送車としても利用が見込まれている。
すでに量産を始める新石器科技。3年で無人配送が始まる
新石器科技では、5月に江蘇省常州市武進高新区に、年間3万台の生産能力がある量産工場をオープンした。すでに200台の注文が入っていて、年内には1000台の注文が獲得できる見込み。3年から5年以内に、フル生産に入るとしている。
多くの識者が、現在の末端物流は3年以内に人手不足で破綻をするか、無人配送の普及が始まるかのいずれかであると述べている。あと数年で、中国の末端物流は無人配送の時代に入っていくかもしれない。