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ローソンの6倍の店舗数。知られざるメガコンビニ「易捷」。ガソリンスタンドの主役に

中国で最も店舗数が多いコンビニは「易捷」で、中国石化がガソリンスタンドに併設をしている。ガソリンスタンドは新エネルギー車の増加により、その先行きが不安をされている。易捷を核として、ガソリンスタンドの業態転換が始まっていると21世紀商業評論が報じた。

 

ローソンの6倍。知られざるメガチェーンコンビニ「易捷」

日本人が中国に行くと、「ローソン」「ファミリーマート」「セブンイレブン」などの日系コンビニをよく目にする。しかし、中国のコンビニには知られざるメガチェーンコンビニがある。易捷(イージエ)だ。

中国チェーンストア経営協会が毎年発表している「2021年コンビニ店舗数100強」によると、易捷の店舗数は2万8249店舗。ローソンの6倍以上、ファミリーマートセブンイレブンの10倍近くになる。それだけでなく、営業収入も700億元(約1.3兆円)を超え、ローソンやファミリーマートの4倍以上、セブンイレブンの5倍以上になる。

▲易捷の店舗は、ガソリンスタンド内にあり、駐車もしやすいため、道の駅感覚で使われることも増えている。

 

ガソリンスタンドに併設されるコンビニ

しかし、易捷の存在に気がつく日本人は多くない。なぜなら、易捷は中国石化のガソリンスタンドに出店をしているからだ。中国石化のガソリンスタンドは、全国で30740カ所あり、その90%以上に易捷が出店していることになる。つまり、ガソリンスタンドにあるキヨスク売店を進化させたコンビニということになる。

▲易捷の店内。コンビニといっても商品点数は少なめで、従来のガソリンスタンドのキヨスク売店の雰囲気を残している。

 

ガソリンスタンドの利益の6割は併設コンビニから

欧米のガソリンスタンドの85%で、キヨスク売店やコンビニが併設され、スタンド全体の利益の6割はコンビニからのものになっているという状況を見て、2006年、ガソリンスタンドを展開する中国石化は、ガソリンスタンドでのコンビニ展開を考えた。15億元の予算を使って改修を行い、ガソリンスタンドに休憩、軽食、買い物、自動車関連グッズの販売などのコンビニを設置する計画を立て、2008年から易捷の展開が始まった。

▲中国の2021年末のコンビニ店舗数ランキングの1位は易捷の2万8249店舗。日経コンビニトップのローソンの6倍になる。

 

車に乗ったままのサービスと、車から降りてほしいコンビニ

しかし、当初は軌道に乗せるのに苦労をした。なぜなら、顧客は、ガソリンを入れにきた人たちだが、多くの人が車の外に出たがらない。当時はセルフサービスではなく、スタッフがガソリンを入れるため、車の外に出る必要がない。また、支払いもスマホ決済などよりも早く、ガソリン専用のプリペイドカードが普及したため、窓からスタッフに手渡しするだけで支払いもできる。

ガソリンスタンド側は「お客さんが車から降りなくて済む」サービスを提供していくのに対し、易捷にとっては「車から降りて」くれないと顧客になってもらうことができない。この矛盾があった。

そのうち、ガソリンスタンドのスタッフによる不正も横行した。スタッフが、易捷でガソリンのプリペイドカードを社員優待価格で購入し、お客さんに多少の利益を乗せて転売するという不正行為だ。お客さんにとっては正規価格よりも安くなる。

 

2012年に始まった易捷の改革

2012年、中国石化の伝成玉会長は、易捷の状況を見て、大改革を行った。まず、不正に関与したスタッフを粛清し、同時にガソリンスタンドの付属品だった易捷をコンビニとして成立させるために、ガソリンスタンド以外の住宅地の中にもパイロット店を出店した。

さらにECを立ち上げ、宅配とともに、店舗受け取りも可能にした。これが受けた。水や油といった重たいものは、多くの人が車でスーパーに買い物に行く。歩いて買いに行くと、帰りに重たい思いをすることになるからだ。しかし、スーパーは駐車場も店舗も広く、買い物が面倒だと感じる人もいる。そういう人は、易捷のECで商品を注文して店舗受け取りにすれば、車で行って受け取ることができる。

在庫があれば注文して数分で受け取りが可能になる。また、多くの店舗が易捷の駐車場に車を停めると、スタッフが商品を車にまで持ってきてくれる。中国でコンビニは便利店と呼ばれるが、まさに便利な店として利用をする人が増え始めた。

 

コロナ禍では接触せずに買い物ができる

特に、2020年からのコロナ禍では、野菜や肉などの生鮮食料品の購入に易捷を利用する人が増えた。注文して、車で行って、トランクを開ければスタッフが商品を入れてくれる。決済は済んでいるのでそのまま帰ることができる。窓を開ける必要もなく、無接触で買い物ができると、利用する人が増えた。

2014年にはテンセントなどの25機関が1070億元を投資し、これにより大手スーパーの大潤発(RT Mart)、宅配便の順豊(SF Express)、業務システムのテンセントなどと提携し、医薬品、保険商品などの販売も始め、2021年には営業収入が700億元を突破した。

▲易捷で店舗受取りで注文しておくと、スタッフが商品を用意し、車のトランクに入れてくれる。コロナ禍の時は、車からでなくて済み、窓も開ける必要がないため、易捷で生鮮食料品をまとめ買いする人が急増した。

 

ガソリンスタンド併設店ならではカフェ

2019年9月からはカフェスタンド「易捷珈琲」を開始して、ドライブ中の休憩ポット、軽食スポットとしても利用されるようになっている。

易捷珈琲のメニューは「92#」(レギュラーブレンド)、「95#」(おすすめブレンド)、「98#」(スペシャリティーコーヒー)の3種類だが、これはガソリンの種類の92#(レギュラー)、95#(欧米基準のレギュラー)、98#(ハイオク)に対応している。

▲易捷内のカフェ。92#、95#、98#は、本来はガソリンの種類の名称。それをコーヒーの種類の名称に転用している。

 

ガソリンスタンドでお酒も販売

さらに、2022年5月には「易捷甄酒館」を浙江省杭州市の秋涛路ガソリンスタンドの易捷に出店した。茅台酒五糧液などの著名ブランドの酒の販売だ。車でくる場所で酒の販売とは意外だが、「早C、晩A」(朝コーヒー、晩アルコール)のキャンペーンを行ったところ、日帰りドライブをする時に、朝、易捷に寄ってガソリンを入れている間にコーヒーを飲み、晩の帰りにも寄って酒を買って家で飲むという人が増えた。

▲ガソリンスタンド併設店であるのにお酒の販売を始めたところ好評だった。帰りがけに買って、自宅で飲むという用途に利用される。

 

EVには不向きな立地条件

中国石化のガソリンスタンドは、ガソリンの販売から一般商品の販売に軸足を移しつつある。いうまでもなく、EV(電気自動車)を中心とした新エネルギー車の増加により、ガソリンビジネスが縮小していくことを見据えている。

ガソリンスタンドが充電スタンドに単純に転換するのは難しい。ガソリンスタンドは数分で燃料補給ができるために、「これからガソリンを多く消費する」と消費者が考える場所に出店をするのが効果がある。具体的には高速道路入り口の手前だ。

しかし、充電スポットは充電に時間がかかるため、「しばらく車は使わない」と消費者が考える場所になければならない。具体的には高速道路のパーキングや飲食店の近く、自宅の近くだ。

 

車のコンビニになっていくガソリンスタンド

ガソリンスタンドを単純に充電スタンドに転換をしても、消費者はわざわざ充電をしにはきてくれない。

現在、中国石化が力を入れているのが洗車設備だ。洗車を待っている間、易捷でコーヒーを飲んだり、買い物をしてもらうことができる。ガソリンスタンドは、車の便利ステーションにしていかないと生き残っていくことができない。その生き残り策に易捷は大きな貢献をしている。もはやガソリンスタンドの付属物ではなくなっている。

 

 

vivo、オナー、アップル、OPPOが横並び。飽和した中国スマホ市場で起きている変化とは?

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今回は、2022年の中国スマートフォン市場についてご紹介します。

 

2022年のスマホ市場の統計が出てきてみると、中国市場で実にめずらしい状況が起きていることがわかりました。なんと、1位のvivo(ビーボ)から2位のオナー、3位のアップル、4位のOPPOまで出荷台数がほぼ同じとなり、横並びになったのです。

1年前の2021年は、vivoOPPOの2ブランドが頭抜けており、それをアップルと小米(シャオミ)が追いかける展開でした。

▲2021年、2022年の中国市場の出荷シェア。2022年は4ブランドが横並びになるという珍しい状況になった。canalysのデータより作成。

 

特にエントリーモデルに強みがあったvivoOPPOの減少ぶりが激しく、その中でアップルが微増、オナーが急増をし、4ブランドが横並びになるという結果になりました。

ここで、誰もが知りたくなるのが、1)オナーはなぜ急増をしたのか。2)アップルはなぜ現状維持ができたのかということだと思います。この2つについては後ほど理由をご紹介したいと思います。

 

世界市場を見ても、スマホ市場の現状は厳しいものとなりました。順位こそ波乱は起きていないものの、各ブランドとも昨年からの減少となり、アップルだけが唯一増加をしました。

▲2022年の世界市場は、ほぼすべてのブランドが減少となった。その中でアップルだけが微増を達成した。canalysのデータより作成。

 

これを見るとわかるのは、ハイエンドモデルを発売しているサムスン、アップルは減少傾向が小さく、エントリーモデル中心の中国ブランドの落ち込みが大きくなっています。

つまり、ハイエンドモデルは以前と同じように売れていますが、エントリーモデルが売れなくなっているというのが世界的な傾向です。

 

その理由は明らかです。すでにスマホ市場は飽和をしたのです。現在、世界のスマホユーザーは66.5億人で、これは地球の人口の84.28%にも当たります。この数値は契約数であるため、実際のスマホユーザー割合はこれよりも少ない(先進国での普及率は100%を超えているのが一般的です)としても、もはや子どもをのぞいて世界中の全員が使っているといっても過言ではありません。

▲世界のスマートフォンユーザー数と伸び率。すでに成長が止まっている市場になっている。Statistaのデータより作成。

 

実際、スマホユーザーの伸び率は急速に下落をしています。スマホ市場が飽和をしていることは間違いありません。その中で、各スマホブランドは戦略を変えていく必要がありますが、はっきりと戦略を転換できたのはアップルのみです。これがアップルの強さとなっています。

飽和した市場での需要というのは買い替え需要になります。この買い替え需要は、想像以上に需要が変動しやすい特徴があります。例えば、今まで平均して2年ごとに新機種に買い替えをしていたものが3年に伸びると、それだけで販売台数は33%下落します。つまり、飽和市場では、買い換え期間をいかに短くするかというのが大きなテーマになってきます。

また、以前と同じように、流出(他ブランドへの乗り換え)を小さくし、流入(他ブランドからの乗り換え)を大きくするということも必要になります。中国ブランドは、この流入/流出の制御をするという、以前の成長市場のやり方からの転換という点で、アップルに遅れをとりました。この差が、世界市場でも中国市場でもアップルだけが増加をすると結果になりました。

では、アップルはどのようにして買換期間を短くしているのでしょうか。そして、中国市場でアップルとオナーが伸びた理由はどこにあるのでしょうか。今回は、2022年の中国スマホ市場を振り返ります。

 

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vol.162:中国の津々浦々に出店するケンタッキー・フライド・チキン。地方市場進出に必要なこととは?

vol.163:止まらない少子化により不安視される中国経済の行末。少子化をくいとめることは可能なのか

vol.164:お客さんは集めるのではなく育てる。米中で起きている私域流量とそのコミュニティーの育て方

vol.165:規模はローソンの6倍。中国のメガコンビニはなぜ大きくなれるのか?

 

 

Z世代からも中高年世代からも人気のパン屋さん。共通するのはヘクステック(添加物技術)への拒否感

Z世代にも中高年にも人気のパン屋さんがある。ヘクステック(添加物技術)を拒否することで、Z世代には新しいライフスタイル、中高年世代には懐かしいライフスタイルを提案できているからだと職業餐飲網が報じた。

 

Z世代だけでなく、中高年にも人気のパン屋さん「紅星前進」

SNSでZ世代に人気の店」の話題はこと欠かない。毎日のようにSNSでは「この店の××がおいしすぎる」「この店が素敵すぎる」という話題が投稿され、行列のできる人気店が紹介されている。しかし、混雑しているうちは避けて、落ち着いてから行ってみようと考える人たちもいて、そういう人が数ヶ月後に行ってみると、その店はもはやなかったというのもよくある話だ。SNSの話題に釣られて、写真を撮るだけにやってきてリピートしない人たちがたくさんいるからだ。

しかし、北京市東四十条大街の胡同の中にある「紅星前進」は少し違うかもしれない。SNSで話題となり、写真を撮りにきた若者たちが毎日行列をしている。しかし、その行列の中に、近所の中高年が混ざっている。Z世代と中高年の両方に人気となっている店なのだ。

▲紅星前進の店舗。若者に人気が出ている胡同の中にあり、遠方から若者が、近所の中高年がパンと牛乳を買いにやってくる。

▲Z世代に人気だけではなく、中高年からも支持をされている。添加物を使わない昔ながらの方法でパンをつくっているため、懐かしい味を楽しめるからだ。

 

若者、中高年の両方に刺さるレトロデザイン

紅星前進は、下町である胡同の中にあるが、若者向けの小売店やカフェができ始めている地域にある。その中で、紅星前進もレトロな店舗デザインになっている。紅星は中国を象徴する徽章であり、前進は毛沢東時代のスローガンに盛んに使われた言葉。

Z世代の若者にとっては生まれる前の時代のデザインで人気が出ている。一方、高齢者にとっては若い頃のデザインで懐かしさを感じている。両方の世代に訴えるデザインになっている。

▲紅星前進の店内。トレードマークの紅星は毛沢東を連想させる。若い世代にとってはレトロモダンであり、中高年には懐かしい。

 

添加物=ヘクステックを拒絶するパン屋さん

店内もタイルを使うなどレトロ風だが、明るく衛生的だ。壁には「牛乳と小麦粉だけ。科学技術と残忍さを拒絶する」と書かれている。この「科学技術と残忍さ」は、SNSでよく使われるフレーズだ。中国では近年、添加物の技術が非常に進み、食品の安全について不安視をする専門家や消費者が増えている。特に添加物の技術はネットでは「海克斯テクノロジー」(ヘクステック)と呼ばれている。これはゲーム「リーグオブレジェンド」(LoL)の中に登場する科学技術と魔法が融合された錬金術のような技術。あるブロガーが、近年の添加物の技術はまるでヘクステックのようだと評したことから、この言い方が定着をしている。

このようなヘクステックを使って、質の悪い食材を使って食品をつくり、添加物で味をごまかすような業者は「残忍だ」と評される。儲けのために他人の健康や人生を顧みないという意味だ。「科学技術と残忍さを拒絶する」は、食品添加物を拒否して健康的な食生活を送りたいと考えている人たちの合言葉になっている。

Z世代にとっては新しいライフスタイルであり、中高年にとっては昔ながらのつくり方になり、両方の世代に訴えかけることができる。

▲食パンの消費期限は3日間。1食分ごとに販売される。

▲添加物を使っていないために、食パンの消費期限は3日間。製造日の焼印が入っている。

▲「牛乳と小麦粉だけ。科学技術と残忍さを拒絶する」のフレーズが、Z世代と中高年の両方の心をとらえている。

 

製造工程をオープンにする

この紅星前進で販売されているのは、焼きたてのパンと牛乳、ソフトクリームの3種類だが、パンは水を使わず、小麦粉と牛乳だけでつくられている。防腐剤のようなものは使われていないため、消費期限は3日間しかない。

パン生地を練るところ、焼くところまで、すべて店内で行われているため、来店客は製造の工程をすべて見ることができる。また、食パンには製造日の焼印が押されている。すべての工程を可視化することで、紅星前進のスローガンが嘘でないことを証明している。

 

牛乳は蛇口から自分で注ぐ

人気になっているのは牛乳だ。牛乳は100mlが1.99元という安さで、小瓶の場合は4元、大瓶の場合は10元という安さだ。しかも、牛乳は蛇口から自分で入れる。この方式が若い世代からは「映える」と人気になり、中高年からは安くて美味しい牛乳が飲めると評判になっている。

▲牛乳は自分で蛇口から注ぐ。この小さな体験もZ世代には好まれている。

▲牛乳は消毒済みのリターナブル瓶を使い、自分で牛乳を入れる。

 

中高年はパンと牛乳、Z世代は映えるソフトクリーム

中高年は、パンを1つか2つ、それと牛乳を買って、朝食や昼食として食べる。しかし、これだけではなかなか利益が出ない。紅星前進で最も利益率が高いのが12.9元のソフトクリームだ。このソフトクリームが映えるということからZ世代の来店客に人気で、紅星前進に利益をもたらしている。

▲映えるソフトクリーム。遠方からやってきたZ世代はこのソフトクリームを買い、写真をSNSにあげる。ソフトクリームは利益率が高いため、紅星前進の経営にプラスの効果をもたらしてくれる。

 

安全な食品で結ばれる中高年世代とZ世代

Z世代と50后(50年代生まれ、70代)、60后(60年代生まれ)は、世代が大きく異なり接点はないかのように見える。特に中国では、以前は社会主義一色の時代で60后以前は若い時代に人民服しか着たことがない世代だ。一方、Z世代にとっては貧しい時代の中国は映画や小説の中でしか知らない縁遠い世界だ。

しかし、食品の世界では、添加物技術が過度に発展をし、そのことにZ世代は危機感を持つようになり、結局、昔ながらのつくり方が好まれるようになっている。ここで中高年世代との接点が生まれた。

「科学技術と残忍さを拒絶する」は、Z世代にとっては最先端の新しいライフスタイルであり、中高年にとっては懐かしく、若い頃を思い出させてくれるライフスタイルになっている。紅星前進は、この接点をうまく捉え、人気店となった。SNSで話題の店ながら、近所の中高年からも愛される店になろうとしている。

 

 

リピート率40%超!西安発のカフェチェーンが人気の理由は、コミック風デザインと多彩なメニュー

西安発のカフェチェーン「M+CAFE」が北京、上海への出店を始め、リピート率40%超ということが話題になっている。コミック風のインテリアだけでなく、アレンジコーヒー、スイーツのメニューを豊富に提供していることが、高いリピート率につながっていると媒体が報じた。

 

リピート率40%超のコミック風カフェ「M+CAFE」

若い世代から「コミック風カフェ」として人気になっているカフェチェーンがある。西安ですでに10年営業し、人気を高め、北京SKP-S、上海淮海755などのショッピングモールに他都市展開を始めた「M+CAFE」だ。

若者世代からは、美味しいだけでなく楽しいカフェとして人気となり、業界関係者からは「リピート率40%超え」という点が注目されている。

▲M+CAFEの典型的な小型店舗。コーポレートカラーである黄色を強調している。

▲M+CAFEは「美味しくて、楽しい」がコンセプトで、若い世代を中心に歓迎され、40%超という高いリピート率を誇っている。

 

映える店内。美味しくて楽しいカフェ

西安発のカフェ「M+CAFE」は、現在他都市に7店舗を展開している。ショッピングモール中心の展開で、しかも北京SKP-Sなど高級寄りのモールを中心にしている。評判は上々で、多くのグルメ口コミサービスで4.5点前後を獲得し、カフェの人気ランキングでも一気に上位に入ってきている。

その人気の理由のひとつは、黄色のブランドカラーを使っているものの、店舗ごとにデザインを変え、若い世代から「映える店」と認知されたからだ。大胆なコミック風デザインを大幅に取り入れ、「美味しく、楽しい」カフェとして人気になっている。M+CAFEのスローガンは「コーヒーを美味しくする、美味しいを面白いに変える」というものだ。

多くの飲料は30元から40元とカフェとしてはやや高めの価格帯。それでも平均で1日200杯、キャンペーンなどを実施すると500杯以上が売れる。何よりも業界関係者が驚いているのが「リピート率40%超え」という人気ぶりだ。

▲北京SKP-S内の店舗。曲線を利用したインテリアが評判になっている。

 

デザイナーとコラボしたインテリアを設置

M+CAFEは、彩度の高い黄色をブランドカラーとして採用している。これは最も目につきやすい色で、店舗を消費者の視野に入れてもらうためのものだ。また、黄色は人の心を楽しくさせ、記憶にも残りやすいと言われている。

また、店舗のデザインコンセプトは店舗ごとに変えている。例えば、北京SKP-Sの店舗は宇宙ステーションをイメージして、曲線を使ったベンチとテーブルで構成している。

さらに、若者に人気のあるデザイナー「意思」(noFun)とコラボをして、「黄RICH」というIPをつくり、店内にインテリアとして作品を展示している。これが「コミック風カフェ」と呼ばれる由縁になっている。

▲デザイナーのnoFunとコラボをした「黄RICH」シリーズのオブジェが店内に飾られ、関連グッズなどが人気になっている。

 

今までになかったアレンジコーヒーを提供

発祥地が西安であるということも、M+CAFEの個性にしている。西安の地元企業「氷峰」「黄桂稠酒」と提携してオリジナルのコーヒー飲料を提供し、これが大きな特色になっている。氷峰のオレンジソーダアメリカンコーヒーを合わせた飲料、黄桂稠酒の甘酒と合わせた飲料などを出している。特に黄桂稠酒の甘酒を使ったコーヒーは、北京、上海では多くの人が知らない味であったため、非常に評判がいい。

また、季節限定商品として、柿のスイーツと合わせた「柿柿如意」、松露を使ったカフェラテ、バラとチーズを使ったカフェラテなど、さまざまなユニークな飲料を提供している。このようなユニークなメニューを楽しむために、多くの来店客がまたこようと考え、リピート率の向上に貢献している。

▲コーヒーそのものよりも、コーヒーベースのドリンクが人気になっている。オレンジソーダや甘酒とコーヒーを合わせるなど、多様なメニューを提供している。

 

バラエティを豊かにすることがリピート率向上に貢献

M+CAFEは、コーヒーの味を追求するスペシャリティーコーヒーというよりも、コーヒー飲料を楽しむカフェだ。そのため、バラエティーコーヒーを多数提供しているし、非コーヒー飲料も数多く提供している。

また、スイーツも数多く提供し、こちらもユニークなルックスをしているものが多く、「次はあれを食べよう、これを飲んでみよう」という気持ちになることが、リピート率の向上に貢献している。

さらに、会員になると時期によって半額になったり、スイーツは1つ買うと1つ無料にするなどさまざまな割引キャンペーンを行っている。現在、会員数は5万人を超えている。

▲スイーツも映えるものが多く、多種類提供している。



モールの開店1時間前から開店する理由

M+CAFEの隠れた人気の秘密が接客だ。例えば、西安SKPに入っている店舗は、モールの開店時間よりも1時間早く開店する。もちろん、通常のお客さんは入ってこれない。しかし、モールで働く従業員もM+CAFEのお客さんになる。西安SKPの店舗従業員は、出勤前や開店前にM+CAFEのコーヒーをテイクアウトして飲むのが習慣になっている。

また、注文を受けてからも、来店客をカウンターの前で待たせるようなことをしない。注文プレートを渡し、飲食品は席まで届ける。また、水は各自とってもらうが、適宜、テーブルを周り、水や氷を追加提供する。レトロな喫茶店方式だが、中国のカフェでは珍しい方式で、丁寧な接客をしてくれと評判になっている。

このような店舗設計、メニュー設計、接客品質で、リピート客を生み、振興のカフェチェーンとして注目をされている。

店舗数は7店舗とまだまだ小さいが、一気に拡大をすることも不可能ではない。また、中国の大都市では、M+CAFEのようなユニークなコンセプトの小規模カフェチェーンが大量に登場していて、もはや老舗とも言えるスターバックスや新興の大手「瑞幸珈琲」(ルイシン、ラッキンコーヒー)も無視できない流れになってきている。

 

消えゆく深圳・華強北のiPhone密輸業者。iPhone 14 PlusとProMaxの不人気ぶりがとどめに

深圳市の華強北のiPhone密輸業者たちが苦境に立たされている。以前からECなどの圧迫を受け、商売としては厳しくなっていたものの、2022年秋のiPhone 14のPlusとProMaxの不人気ぶりにより、大量の在庫を抱え、大損をし、廃業をする業者が続出していると媒体が報じた。

 

iPhoneの密輸をしていた商店主も廃業を決意

電子製品であればなんでも手に入れることができる深圳市の華強北(ホワチャンベイ)。その華強北も、ECによる圧迫を受け商売が難しくなっているところに、新型コロナの感染拡大の影響により、商売を閉じる人が続出している。

この華強北で10年にわたり商売をし、大儲けをさせてもらった林さん(仮名)も、商売をやめて、故郷に帰る決心をした。林さんが扱っていたのは、密輸品のiPhoneだった。

▲華強北の典型的な店舗。ショーケースで囲って店舗にしている。このような店も空き店舗が目立つようになっている。

 

関税がない香港は買い物天国だった

アップルは、新製品を発表するタイミングで価格改定をする。その時の為替レートを参考に米国以外での販売価格を決めるが、これまで香港のiPhone価格は周辺国と比べて非常に安かった。なぜなら、香港には関税がないためだ。香港は都市国家であるために、農業、工業といった産業がほとんどない。そのため、食料品から日用品、ブランド品まで90%以上の物資を輸入に頼っている。関税というのは、輸入品から国内産業を保護するためにかけるものだが、香港の場合は、その保護すべき産業がないために関税の必要性がない。むしろ、関税をなくして市民に低価格で輸入品を購入できるようにした方が小売業が盛況になる。これにより、香港は海外からもブランド品を買いにやってくる「買い物天国」となり発展をした。

 

安い香港iPhoneを密輸して、中国で売りさばく

iPhoneも同じで、中国で購入するよりも、香港で購入をして中国に持ち込む方が安く済む。ただし、1つであれば個人用とみなされ関税はかからないが、複数個であると販売用とみなされ関税がかかり、結局、中国国内の販売価格と変わらなくなってしまう。

そこで、登場するのが密輸だ。このような密輸品は「水貨」と呼ばれ、林さんの商売は、iPhoneを大量に密輸をして、華強北で売りさばくことだった。華強北の飛揚時代ビルは、この水貨のメッカとなっている。林さんの店もこの飛揚時代ビルの中にあるが、店舗ではなく、広いフロアの中にガラスのカウンターで囲ったスペースだ。そして、「iPhone販売」ではなく、「iPhone修理サービス」という看板を掲げている。しかし、林さんには修理をする技術はなく、修理をしたこともなかった。

▲密輸されたiPhone。夜に船を仕立てて、香港で購入したiPhoneを深圳に持ち込む。

 

個人持ち込みと船で密輸の2つのルート

林さんが水貨を入手するルートは2つある。ひとつは人を雇って香港に行かせて、香港のアップルストアiPhoneを購入させ、深圳に持ち込ませ、それを買い取るというものだ。以前は、通関検査も甘く、3つや4つぐらいのiPhoneであれば、荷物の中に隠して持ち込めば発見されることは少なかった。発見されたとしても、関税を支払えば、利益はなくなってしまうが、大きな問題にはならなかった。

しかし、このようなやり方では、なかなか数が確保できない。そこで、深圳湾で密輸船を仕立て、闇に紛れて、香港で購入したiPhoneを大量に持ち込む。ずばり密輸で、発覚をした時のリスクは大きいが、一度に100台から1000台のiPhoneを持ち込むことができる。

 

コロナ禍により個人密輸が壊滅

この水貨は、林さんのように、華強北で危ない商売をする商店主に大儲けをさせてきた。ところが、この商売がコロナ禍により大きな打撃を受けた。

中国では、新型コロナウイルスが物体に付着をして感染源になっていると信じられていて、コロナ禍に入ると、宅配便はほぼすべての荷物が消毒をされるようになった。特に厳しくなったのが、海外からの輸入品で、念入りな消毒が行われる。このため、旅行者が税関で厳しい検査を受けることになり、バッグにiPhoneを隠して密輸をすることがきわめて難しくなった。消毒のために、バッグの隅々まで調べられ、複数個を持ち込もうとしたiPhoneが見つかってしまって、関税が請求される。これで個人ルートは壊滅状態になってしまった。

▲深圳市の華強北では、香港から密輸をしたiPhoneが大量に売られていた。以前は、香港のiPhone価格が安かったために、関税を免れて密輸をすれば、その差額がまるまる利益となった。

 

中国内でのiPhoneの実勢価格が下がり続ける

もうひとつは、iPhoneの中国内での国内価格が下がり続けていることだ。中国でもiPhoneの人気は高く、国別では米国に次ぐ大きな市場になっている。このため、ECがiPhoneは集客力のある商品だと考え、さまざまな手法で割引を行う。

最も大きかったのは、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)が2019年から行なっている「百億補助」だ。iPhoneの販売価格そのものを下げてしまうと、ダンピングになって違法になってしまうため、販売価格はそのままで拼多多が補助金を出すという建て付けでの割引販売を行った。時期によっては、アップルストアでの販売価格よりも1000元ほど安くなることもあり、拼多多は大量の新規顧客を獲得した。

これに京東(ジンドン)なども続き、iPhoneの実勢価格は大きく下がっていった。アップルストアもこれ以来、中国での販売価格を戦略的に引き下げていき、現在では香港での価格と中国国内での正規価格の差はほとんどなくなっている。水貨業者にとっては、商売の旨みがほとんどなくなってしまった。

▲現在のiPhoneの現地価格をドル換算した価格。中国と香港の価格差がなくなってしまったため、香港から密輸をして中国で販売をする密輸業者が壊滅状態になっている。

 

PlusとProMaxの不人気が密輸業者にも打撃

水貨業者にとって、稼ぎどきは毎年秋のアップルの新製品発売時期だ。新製品が発売されてもしばらくの間は在庫がじゅうぶんに回らないため、どこでも在庫切れとなり、購入しても商品は1ヶ月待ちというようなことが少なくなかった。この時期は、iPhoneの新製品の実勢価格が高騰をする。人によっては、早く新しいiPhoneを触りたい、周りに自慢をしたいということから、2倍以上の価格でも買う人がいる。

しかし、2022年の秋はiPhoneの相場価格がまったくあがらなかった。iPhone14は、前のモデルであるiPhone13と同じA15チップを使い、性能を含め、機能面でも大きな改善はなかったためだ。さらに、価格があがりすぎて、iPhone PlusとProMaxは想定よりも売れていないため、実勢価格も価格以上にはあがらない。水貨業者はiPhone14シリーズの大量在庫を抱えることになり、割引をしないと売れない状況になった。元々、価格が高騰することをあてにして、通常よりも高い価格で仕入れているため、大損をした水貨業者がほとんどだった。

次第に商売が厳しくなる水貨業者にとって、iPhoneの新製品が発売になる秋は、一気に稼ぐ季節であったものが、2022年はまったくの空振りとなった。これがとどめとなって、廃業をする水貨業者も多かったという。林さんは言う。「アップルでも華強北を救うことはできなかった」。

 

偽物品でもアップルの利益率には及ばない

生き残った華強北の業者たちは、AirPodやAppleWatchの偽物の販売に賭けている。いわゆる白ブランド品で、どこのメーカーがつくったかはわからないようにして、AirPodやAppleWatchそっくりの商品を販売するというものだ。

しかし、消費者を騙してアップル製品として売ることは難しい。消費者もよく調べてから買いにくるため、見た目がそっくりでも白ブランド品であることはすぐにわかってしまうからだ。

それでも白ブランド品を売るためには、価格を安くするか、機能を上げて本家と遜色がないものにしなければならない。いずれも利益率が下がることになる。林さんによると、深圳の業者がいかに努力をしても、アップル以上の利益率にすることはできないのだという。

水貨業者たちは、この10年、アップルによって大いに儲けさせてもらったが、アップルによって商売のとどめを刺されることになった。

 

 

知られざるミルクティーの故郷「平南県」。人口の20%以上がミルクティー関連に従事する町

ほとんどの人に知られていないミルクティーの故郷が平南県だ。1人の成功者が出たことで、ミルクティーの商売をする人が続出し、人口の20%以上がミルクティー関連に従事している。その町に、全国で成功した蜜雪氷城が出店したことにより、町の様子が一変したと半熟経済が報じた。

 

ミルクティーの故郷「平南県」

広西省地ワン自治区貴港市の小さな県である平南県(ピンナン)は、知られざるミルクティーの故郷だ。人口は111万人程度だが、そのうちの26.5万人が中国茶ミルクティー関連の仕事に就いている。平南出身者が開店をしているミルクティー店は、全国に6.3万軒もある。

平南発のミルクティーブランドは200以上もあり、多くは広西省チワン自治区広東省貴州省雲南省江西省などの小さな町に出店をしている。

現在のタピオカミルクティーのブームは、台湾台中市の春水堂が始まりで、2017年頃から中国、日本、韓国などに広がったものだが、中国では2000年代から中国茶を使ったミルクティーのスタンドが見られるようになっていた。その65%は、平南出身者によるものだった。そのため、平南はミルクティーの故郷と呼ばれる。

▲ミルクティーの故郷、平南県。中国茶ベースのミルクティーを出す店が密集して出店している。

▲小さな町に過剰な数のミルクティースタンドが出店している。価格は安いが品質は低い。都市生活者の多くは、平南県の存在を知らなかった。

 

1人の成功者が大量のフォロワーを生む

平南でミルクティーの原材料が収穫できるということもない。平南がミルクティーの故郷になったのは偶然のことからだった。90年代の終わりに、食用油を絞る仕事をしていた陳有傑という人が、台湾の春水堂のタピオカミルクティーが評判になっていることを知って、広州市の天河区に12平米の小さなスタンド「台客聚吧」を開店して、中国茶ベースのミルクティーを1杯1元で販売をした。これが受け、初日には8000杯も売れた。陳有傑は大儲けをし、春節に平南に帰り、自宅を建てた。

この話は、小さな町である平南県で評判となった。そんなにうまい儲け話があるのかと、平南の人が集まってきて、陳有傑に話を聞き、親戚からお金を借りてミルクティースタンドに挑戦をする人が続々と現れ、その数は500人にも達したという。

その中から成功をする人も現れる。すると、今度は親戚が「私もその商売がしたい」と訪ねてくる。成功した経営者は、快く親戚にノウハウを教え、支店を出させる。親戚は成功をすると、お礼として幾ばくかのお金を贈る。このような親戚ベースの原始的なフランチャイズ方式で、平南発のミルクティースタンドが広まっていった。

2016年に平南にショッピング広場ができると、そこに平南発のミルクティースタンドがこぞって出店をすることになった。ここはミルクティー街と呼ばれている。

▲90年代に平南県の人により出店された台湾タピオカミルクティースタンド。タピオカミルクティーのブームが起こるのは20年後のことだ。

▲平南県全景。人口111万人の小さな町だが、そのうちの20%以上がミルクティー関連に従事をしている。

 

地方だけに展開する独特のチェーン展開

平南のミルクティーには大きな特徴がある。それは品質はよくなく、安いということだ。現在でも5元以下という価格で提供をし、庶民の飲み物になっている。そのため、都市部に出店をしてもうまくいかないため、小都市や小鎮といった下沈市場=地方市場でチェーン展開をしている。

数百店、数千店のチェーンになることはなく、親戚、知人のネットワークを活かした数十店のチェーンが限界で、成長も考えない。日銭が稼げて暮らしていくことを目的とした地方の商売だ。若者に受けるようなオシャレ感もなく、都市生活者の視界には入ってこないし、地方に行ってこのようなミルクティースタンドを見かけても買うのはためらわれ、多くの人がスマホスターバックスや喜茶の場所を検索してしまうことになる。

▲平南ミルクティー協会に参加をしているブランド。多くが広東省などに出店し、小規模なチェーン運営をしている。

 

平南県に蜜雪氷城が出店をしたことで大波乱

しかし、平南のミルクティー街に蜜雪氷城(ミーシュエビンチャン)が出店をしたことで波乱が起きている。蜜雪氷城は、河南省商丘市出身の張紅超が、1998年に鄭州市で創業し、レモン水5元、ソフトクリーム3元という低価格で下沈市場に次々と出店し、2022年末で2万1619店を出店し、現在、深圳証券取引所に上場申請をしているという大成功をしているチェーンだ。出自は、平南のミルクティースタンドと同じだが、全国規模の成功をしている。

この蜜雪氷城が平南のミルクティー街に出店をした。価格でも平南のミルクティースタンドは太刀打ちができない。多くのミルクティースタンドの価格は9元が相場になっているが、蜜雪氷城は7元で販売をしている。蜜雪氷城には店舗の前にマスコットの雪だるまの着ぐるみに入った人が踊り、全国的に人気となったテーマソングで通行客を惹きつける。SNSを使ってクーポン券を配布し、集客をする。地元の人たちも蜜雪氷城にいくようになり、あっという間に平南のミルクティー街でいちばんの人気店になってしまった。

▲平南県に蜜雪氷城が出店をすると、あっという間にお客を奪われてしまった。これにより、平南県の様子が様変わりをした。

▲蜜雪氷城の脅威にさらされたミルクティースタンドは、都会のブランドに学び、内装などを一気に今風のものに変えた。

▲蜜雪氷城の脅威にさらされたミルクティースタンドは、モバイルオーダーやデリバリーにも対応をした。

▲蜜雪氷城の脅威にさらされたミルクティースタンドは、こぞってSNS「小紅書」に公式アカウントをつくり、情報発信を始めた。

 

品質があがり、知名度があがるミルクティーの故郷

平南のミルクティースタンドたちの中には、商売をあきらめてしまう人もいた。しかし、生き残っているチェーンは、奈雪的茶や喜茶といった都会の中国茶カフェに学ぶようになった。

店舗のインテリアを刷新し、若者たちが好むような内装にし、さらにフードデリバリー、モバイルオーダーにも対応をし始めた。また、SNS「小紅書」に公式アカウントをつくり、情報発信を始めている。

2022年の夏、ネットでは「××であなたのことを思う」というフレーズが流行した。旅行にいった時などに美しい風景の写真を撮り、地名を入れて、恋人や家族に贈るメッセージとして使われた。平南のミルクティースタンドの「沁口香檸」では、店舗の前にこの流行フレーズを使った看板をつくり、SNSで発信をした。

平南のミルクティー街は、地方のさえないスタンドの集まりにすぎなかったが、蜜雪氷城の出店により、大きく変わり始め、遠方からわざわざミルクティーを飲みに平南を訪れる人も増え始めている。

以前は多くの人が知らなかった、「知られざるミルクティーの故郷」だったものが、SNSでもよく知られる「ミルクティーの故郷」になろうとしている。

▲「××という場所であなたのことを想っています」というフレーズがSNSで流行すると、そのフレーズを使った看板が設置された。写真を撮ってもらうためだ。この看板めあてに都会から訪れる観光客も増えているという。

 

デジタル化はいつかやらなければならない負債。大学生が開いた麺屋が200店舗チェーンになれた理由は創業時からのデジタル化

大学生3人が開いた麺屋「遇見小面」は現在200店舗のチェーンに成長している。成長の理由は創業時からデジタル化を前提の設計を行なっていたことだ。デジタル化はいつかやらなければならない負債で、やるのであれば早ければ早いほどいいと金羊網が報じた。

 

大学生たちが開いた麺屋。武器はデジタル

2014年、華南理工大学を卒業した3人の学生が重慶市に行き、数ヶ月間、麺づくりの修行をして、広東省に戻り、30平米の小さな麺屋を開店した。淡白な塩味が好まれる広東省で、重慶の辛い麺を提供する。しかし、創業者の蘇旭翔(スー・シューシャン)には、辛い四川火鍋が中国各地で受け入れられているのだから、辛い重慶麺も受け入れられるはずだという思いがあった。

そして、武器にしたのは、最初からチェーン展開の設計をし、徹底したデジタル化だった。蘇旭翔が開いた「遇見小面」は現在、十数都市に200店舗を展開するチェーンに成長している。

広東省に開店した遇見小面の1号店。人気の秘密は味だけでなく、デジタルを活用したユーザー体験にもあった。

▲遇見小面が提供する重慶麺。塩味中心の広東省で、辛い重慶麺も受けるという確信があった。

 

作業を標準化し「チェーンの味」を確立

2014年はアリペイ、WeChatペイなどのスマホ決済の対面決済が始まったばかりであり、スマートフォン普及率もまだ携帯電話利用者の半数以下という時代だ。

蘇旭翔は、まず商品の標準化から始めた。伝統的な重慶麺では、茹で時間や調味料の量などは、麺職人の勘に任されていた。それが「店の味」になると信じられていた。チェーン展開を前提とした遇見小面では、すべての工程時間、配合について、試作を繰り返し、最適な工程と配合を決定し、「チェーンの味」を確定した。

▲業務の標準化を最初に行い、チェーンの味を確立し、チェーン展開できる状態にして1号店を開店した。

 

店内モバイルオーダーをいち早く導入

さらに、近い将来、スマホ決済の時代がくると予測し、スマホ決済を取り入れ、従業員の負担を減らし、顧客の体験を向上させる施策を次々と行っていった。

活用をしたのが、すでに多くの人が使っていたSNS微信」(ウェイシン、WeChat)のミニプログラムだった。テーブルの上には二次元コードが貼り付けてあり、これをWeChatでスキャンすると、ミニプログラムが起動し、そこから注文とWeChatペイによる決済ができる。今日では多くの飲食店が取り入れている店内モバイルオーダー方式だが、遇見小面では創業時はウェブで、WeChatにミニプログラム機能が搭載されてからはミニプログラムで行っている。

しかも、ただ使わせるだけではない。モバイルオーダーをすると1割引にし、なおかつ火曜日にはミニプログラムに合言葉を提示し、この合言葉を注文時に入力すると3割引になる。さらに、WeChatの遇見小面公式アカウントをフォローすると、月ごとの利用額に応じて、割引クーポンや小皿料理の無料クーポンがもらえる。

このような施策を行うことで、現在では95%の客がモバイルオーダーを利用するようになっている。

▲テーブルに貼られている二次元コード。これを自分のスマホでスキャンすると、WeChatミニプログラムが起動し、注文と事前会計ができる。

▲遇見小面のミニプログラム。デリバリー、店舗受け取り、店内オーダーなどがこのミニプログラムからできる。

▲遇見小面では、テーブルの二次元コードから店内モバイルオーダーをするのが基本。フロアスタッフの業務負担が減るだけでなく、さっと食事を済ませたい人にはユーザー体験が向上する。

 

デジタルを利用する理由は「効果があるから」

遇見小面がこのようなデジタル施策を行う理由は単純で、「効果があるから」というものだ。特に粘性(リピート率)を高める効果がある。モバイルオーダーは従業員にとっては注文、会計などの業務負担を減らすだけでなく、顧客にとっても注文、会計の煩わしさを減らしてくれる。特に重慶麺は、さっと来て、さっと食べて、さっと帰るというメニューだ。余計な手順が省けるのは、ユーザー体験の向上にもつながっている。そのため、お昼をさっと済ませたいという考える人が遇見小面を利用してくれる。

コロナ禍の間も正常営業をし、大きな影響はなかった。一人できて、さっと食べて、さっと帰る店であるため、感染の不安が少ないからだ。

▲注文をデジタル化したことにより、クーポンの多様な配布が可能になった。利用客の利用履歴に合わせて適切なクーポンを配布することで、リピート率をあげることができる。

 

デジタル化はいつかやらなければならない負債

このような注文のデジタル化を行ったことにより、売上データが自動的にデジタル化をされ、30分ごとの売り上げ状況がリアルタイムでわかる環境ができあがった。

このデータを機械学習し、売上予測を立てることは、精度の問題はともかく、難しいことではない。遇見小面では、この売上予測により、食材の仕入れやスタッフのシフトを決定している。

もちろん、機械学習は万能ではなく、店舗周辺で大きなイベントがあった場合などは予測できない需要が生まれることもある。しかし、予測システムを導入する前は、店長が発注作業に毎日1時間はかけていたが、それが予測システム導入後には20分で済むようになった。人が発注をしても外すことがあり、機械学習によりその外れの確率は大きく下がり、しかも毎日の作業が半減をしている。導入の効果は決して小さくない。

蘇旭翔は言う。「飲食チェーンにとってデジタル化はいつかやらなければならない負債のようなものです。いずれしなければならないのであれば、早ければ早いほどいいのです。デジタルシステムは遇見小面にとって神経組織のようなものです。この神経組織がなかったら、スタッフが協調して動くことができません。チェーン展開をするには必須です」。

▲創業者の蘇旭翔。1号店を開店する前からチェーン展開を想定して、デジタル化を進めた。

 

デジタル化した飲食店は投資資金を獲得しやすい

さらに、デジタル化は投資資金を獲得する上でも大きいという。投資家は「売れている飲食店」に投資をするのではなく、「売れる見込みが立つ飲食店」に投資をしたいと考えている。この「見込み」が、店の味や職人の技術といった曖昧なものでは投資に踏み切る決断がしづらい。しかし、デジタル化をしていることで、チェーンが拡大しても、同水準の品質、サービスを提供できるということが投資家の背中を強く押してくれる。

飲食店経営者の多くが「デジタル化は必須」と考えながら、実際にデジタル化を進めている飲食店はまだまだ一部にとどまっている。一店舗だけのオーナーシェフの飲食店であればデジタル化の必要性は薄いが、支店を出す、チェーン化を企図するというのであれば、デジタル化は必須になっている。