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ローソンの6倍の店舗数。知られざるメガコンビニ「易捷」。ガソリンスタンドの主役に

中国で最も店舗数が多いコンビニは「易捷」で、中国石化がガソリンスタンドに併設をしている。ガソリンスタンドは新エネルギー車の増加により、その先行きが不安をされている。易捷を核として、ガソリンスタンドの業態転換が始まっていると21世紀商業評論が報じた。

 

ローソンの6倍。知られざるメガチェーンコンビニ「易捷」

日本人が中国に行くと、「ローソン」「ファミリーマート」「セブンイレブン」などの日系コンビニをよく目にする。しかし、中国のコンビニには知られざるメガチェーンコンビニがある。易捷(イージエ)だ。

中国チェーンストア経営協会が毎年発表している「2021年コンビニ店舗数100強」によると、易捷の店舗数は2万8249店舗。ローソンの6倍以上、ファミリーマートセブンイレブンの10倍近くになる。それだけでなく、営業収入も700億元(約1.3兆円)を超え、ローソンやファミリーマートの4倍以上、セブンイレブンの5倍以上になる。

▲易捷の店舗は、ガソリンスタンド内にあり、駐車もしやすいため、道の駅感覚で使われることも増えている。

 

ガソリンスタンドに併設されるコンビニ

しかし、易捷の存在に気がつく日本人は多くない。なぜなら、易捷は中国石化のガソリンスタンドに出店をしているからだ。中国石化のガソリンスタンドは、全国で30740カ所あり、その90%以上に易捷が出店していることになる。つまり、ガソリンスタンドにあるキヨスク売店を進化させたコンビニということになる。

▲易捷の店内。コンビニといっても商品点数は少なめで、従来のガソリンスタンドのキヨスク売店の雰囲気を残している。

 

ガソリンスタンドの利益の6割は併設コンビニから

欧米のガソリンスタンドの85%で、キヨスク売店やコンビニが併設され、スタンド全体の利益の6割はコンビニからのものになっているという状況を見て、2006年、ガソリンスタンドを展開する中国石化は、ガソリンスタンドでのコンビニ展開を考えた。15億元の予算を使って改修を行い、ガソリンスタンドに休憩、軽食、買い物、自動車関連グッズの販売などのコンビニを設置する計画を立て、2008年から易捷の展開が始まった。

▲中国の2021年末のコンビニ店舗数ランキングの1位は易捷の2万8249店舗。日経コンビニトップのローソンの6倍になる。

 

車に乗ったままのサービスと、車から降りてほしいコンビニ

しかし、当初は軌道に乗せるのに苦労をした。なぜなら、顧客は、ガソリンを入れにきた人たちだが、多くの人が車の外に出たがらない。当時はセルフサービスではなく、スタッフがガソリンを入れるため、車の外に出る必要がない。また、支払いもスマホ決済などよりも早く、ガソリン専用のプリペイドカードが普及したため、窓からスタッフに手渡しするだけで支払いもできる。

ガソリンスタンド側は「お客さんが車から降りなくて済む」サービスを提供していくのに対し、易捷にとっては「車から降りて」くれないと顧客になってもらうことができない。この矛盾があった。

そのうち、ガソリンスタンドのスタッフによる不正も横行した。スタッフが、易捷でガソリンのプリペイドカードを社員優待価格で購入し、お客さんに多少の利益を乗せて転売するという不正行為だ。お客さんにとっては正規価格よりも安くなる。

 

2012年に始まった易捷の改革

2012年、中国石化の伝成玉会長は、易捷の状況を見て、大改革を行った。まず、不正に関与したスタッフを粛清し、同時にガソリンスタンドの付属品だった易捷をコンビニとして成立させるために、ガソリンスタンド以外の住宅地の中にもパイロット店を出店した。

さらにECを立ち上げ、宅配とともに、店舗受け取りも可能にした。これが受けた。水や油といった重たいものは、多くの人が車でスーパーに買い物に行く。歩いて買いに行くと、帰りに重たい思いをすることになるからだ。しかし、スーパーは駐車場も店舗も広く、買い物が面倒だと感じる人もいる。そういう人は、易捷のECで商品を注文して店舗受け取りにすれば、車で行って受け取ることができる。

在庫があれば注文して数分で受け取りが可能になる。また、多くの店舗が易捷の駐車場に車を停めると、スタッフが商品を車にまで持ってきてくれる。中国でコンビニは便利店と呼ばれるが、まさに便利な店として利用をする人が増え始めた。

 

コロナ禍では接触せずに買い物ができる

特に、2020年からのコロナ禍では、野菜や肉などの生鮮食料品の購入に易捷を利用する人が増えた。注文して、車で行って、トランクを開ければスタッフが商品を入れてくれる。決済は済んでいるのでそのまま帰ることができる。窓を開ける必要もなく、無接触で買い物ができると、利用する人が増えた。

2014年にはテンセントなどの25機関が1070億元を投資し、これにより大手スーパーの大潤発(RT Mart)、宅配便の順豊(SF Express)、業務システムのテンセントなどと提携し、医薬品、保険商品などの販売も始め、2021年には営業収入が700億元を突破した。

▲易捷で店舗受取りで注文しておくと、スタッフが商品を用意し、車のトランクに入れてくれる。コロナ禍の時は、車からでなくて済み、窓も開ける必要がないため、易捷で生鮮食料品をまとめ買いする人が急増した。

 

ガソリンスタンド併設店ならではカフェ

2019年9月からはカフェスタンド「易捷珈琲」を開始して、ドライブ中の休憩ポット、軽食スポットとしても利用されるようになっている。

易捷珈琲のメニューは「92#」(レギュラーブレンド)、「95#」(おすすめブレンド)、「98#」(スペシャリティーコーヒー)の3種類だが、これはガソリンの種類の92#(レギュラー)、95#(欧米基準のレギュラー)、98#(ハイオク)に対応している。

▲易捷内のカフェ。92#、95#、98#は、本来はガソリンの種類の名称。それをコーヒーの種類の名称に転用している。

 

ガソリンスタンドでお酒も販売

さらに、2022年5月には「易捷甄酒館」を浙江省杭州市の秋涛路ガソリンスタンドの易捷に出店した。茅台酒五糧液などの著名ブランドの酒の販売だ。車でくる場所で酒の販売とは意外だが、「早C、晩A」(朝コーヒー、晩アルコール)のキャンペーンを行ったところ、日帰りドライブをする時に、朝、易捷に寄ってガソリンを入れている間にコーヒーを飲み、晩の帰りにも寄って酒を買って家で飲むという人が増えた。

▲ガソリンスタンド併設店であるのにお酒の販売を始めたところ好評だった。帰りがけに買って、自宅で飲むという用途に利用される。

 

EVには不向きな立地条件

中国石化のガソリンスタンドは、ガソリンの販売から一般商品の販売に軸足を移しつつある。いうまでもなく、EV(電気自動車)を中心とした新エネルギー車の増加により、ガソリンビジネスが縮小していくことを見据えている。

ガソリンスタンドが充電スタンドに単純に転換するのは難しい。ガソリンスタンドは数分で燃料補給ができるために、「これからガソリンを多く消費する」と消費者が考える場所に出店をするのが効果がある。具体的には高速道路入り口の手前だ。

しかし、充電スポットは充電に時間がかかるため、「しばらく車は使わない」と消費者が考える場所になければならない。具体的には高速道路のパーキングや飲食店の近く、自宅の近くだ。

 

車のコンビニになっていくガソリンスタンド

ガソリンスタンドを単純に充電スタンドに転換をしても、消費者はわざわざ充電をしにはきてくれない。

現在、中国石化が力を入れているのが洗車設備だ。洗車を待っている間、易捷でコーヒーを飲んだり、買い物をしてもらうことができる。ガソリンスタンドは、車の便利ステーションにしていかないと生き残っていくことができない。その生き残り策に易捷は大きな貢献をしている。もはやガソリンスタンドの付属物ではなくなっている。