中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

Z世代からも中高年世代からも人気のパン屋さん。共通するのはヘクステック(添加物技術)への拒否感

Z世代にも中高年にも人気のパン屋さんがある。ヘクステック(添加物技術)を拒否することで、Z世代には新しいライフスタイル、中高年世代には懐かしいライフスタイルを提案できているからだと職業餐飲網が報じた。

 

Z世代だけでなく、中高年にも人気のパン屋さん「紅星前進」

SNSでZ世代に人気の店」の話題はこと欠かない。毎日のようにSNSでは「この店の××がおいしすぎる」「この店が素敵すぎる」という話題が投稿され、行列のできる人気店が紹介されている。しかし、混雑しているうちは避けて、落ち着いてから行ってみようと考える人たちもいて、そういう人が数ヶ月後に行ってみると、その店はもはやなかったというのもよくある話だ。SNSの話題に釣られて、写真を撮るだけにやってきてリピートしない人たちがたくさんいるからだ。

しかし、北京市東四十条大街の胡同の中にある「紅星前進」は少し違うかもしれない。SNSで話題となり、写真を撮りにきた若者たちが毎日行列をしている。しかし、その行列の中に、近所の中高年が混ざっている。Z世代と中高年の両方に人気となっている店なのだ。

▲紅星前進の店舗。若者に人気が出ている胡同の中にあり、遠方から若者が、近所の中高年がパンと牛乳を買いにやってくる。

▲Z世代に人気だけではなく、中高年からも支持をされている。添加物を使わない昔ながらの方法でパンをつくっているため、懐かしい味を楽しめるからだ。

 

若者、中高年の両方に刺さるレトロデザイン

紅星前進は、下町である胡同の中にあるが、若者向けの小売店やカフェができ始めている地域にある。その中で、紅星前進もレトロな店舗デザインになっている。紅星は中国を象徴する徽章であり、前進は毛沢東時代のスローガンに盛んに使われた言葉。

Z世代の若者にとっては生まれる前の時代のデザインで人気が出ている。一方、高齢者にとっては若い頃のデザインで懐かしさを感じている。両方の世代に訴えるデザインになっている。

▲紅星前進の店内。トレードマークの紅星は毛沢東を連想させる。若い世代にとってはレトロモダンであり、中高年には懐かしい。

 

添加物=ヘクステックを拒絶するパン屋さん

店内もタイルを使うなどレトロ風だが、明るく衛生的だ。壁には「牛乳と小麦粉だけ。科学技術と残忍さを拒絶する」と書かれている。この「科学技術と残忍さ」は、SNSでよく使われるフレーズだ。中国では近年、添加物の技術が非常に進み、食品の安全について不安視をする専門家や消費者が増えている。特に添加物の技術はネットでは「海克斯テクノロジー」(ヘクステック)と呼ばれている。これはゲーム「リーグオブレジェンド」(LoL)の中に登場する科学技術と魔法が融合された錬金術のような技術。あるブロガーが、近年の添加物の技術はまるでヘクステックのようだと評したことから、この言い方が定着をしている。

このようなヘクステックを使って、質の悪い食材を使って食品をつくり、添加物で味をごまかすような業者は「残忍だ」と評される。儲けのために他人の健康や人生を顧みないという意味だ。「科学技術と残忍さを拒絶する」は、食品添加物を拒否して健康的な食生活を送りたいと考えている人たちの合言葉になっている。

Z世代にとっては新しいライフスタイルであり、中高年にとっては昔ながらのつくり方になり、両方の世代に訴えかけることができる。

▲食パンの消費期限は3日間。1食分ごとに販売される。

▲添加物を使っていないために、食パンの消費期限は3日間。製造日の焼印が入っている。

▲「牛乳と小麦粉だけ。科学技術と残忍さを拒絶する」のフレーズが、Z世代と中高年の両方の心をとらえている。

 

製造工程をオープンにする

この紅星前進で販売されているのは、焼きたてのパンと牛乳、ソフトクリームの3種類だが、パンは水を使わず、小麦粉と牛乳だけでつくられている。防腐剤のようなものは使われていないため、消費期限は3日間しかない。

パン生地を練るところ、焼くところまで、すべて店内で行われているため、来店客は製造の工程をすべて見ることができる。また、食パンには製造日の焼印が押されている。すべての工程を可視化することで、紅星前進のスローガンが嘘でないことを証明している。

 

牛乳は蛇口から自分で注ぐ

人気になっているのは牛乳だ。牛乳は100mlが1.99元という安さで、小瓶の場合は4元、大瓶の場合は10元という安さだ。しかも、牛乳は蛇口から自分で入れる。この方式が若い世代からは「映える」と人気になり、中高年からは安くて美味しい牛乳が飲めると評判になっている。

▲牛乳は自分で蛇口から注ぐ。この小さな体験もZ世代には好まれている。

▲牛乳は消毒済みのリターナブル瓶を使い、自分で牛乳を入れる。

 

中高年はパンと牛乳、Z世代は映えるソフトクリーム

中高年は、パンを1つか2つ、それと牛乳を買って、朝食や昼食として食べる。しかし、これだけではなかなか利益が出ない。紅星前進で最も利益率が高いのが12.9元のソフトクリームだ。このソフトクリームが映えるということからZ世代の来店客に人気で、紅星前進に利益をもたらしている。

▲映えるソフトクリーム。遠方からやってきたZ世代はこのソフトクリームを買い、写真をSNSにあげる。ソフトクリームは利益率が高いため、紅星前進の経営にプラスの効果をもたらしてくれる。

 

安全な食品で結ばれる中高年世代とZ世代

Z世代と50后(50年代生まれ、70代)、60后(60年代生まれ)は、世代が大きく異なり接点はないかのように見える。特に中国では、以前は社会主義一色の時代で60后以前は若い時代に人民服しか着たことがない世代だ。一方、Z世代にとっては貧しい時代の中国は映画や小説の中でしか知らない縁遠い世界だ。

しかし、食品の世界では、添加物技術が過度に発展をし、そのことにZ世代は危機感を持つようになり、結局、昔ながらのつくり方が好まれるようになっている。ここで中高年世代との接点が生まれた。

「科学技術と残忍さを拒絶する」は、Z世代にとっては最先端の新しいライフスタイルであり、中高年にとっては懐かしく、若い頃を思い出させてくれるライフスタイルになっている。紅星前進は、この接点をうまく捉え、人気店となった。SNSで話題の店ながら、近所の中高年からも愛される店になろうとしている。