中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

宅配ボックスはタワー型に。上部はドローン発着場

宅配便企業「豊巣」が、タワー型の新型宅配ボックスを開発して話題を呼んでいる。600個の荷物が収納できるだけでなく、ドローン配送、無人車配送にも対応をしている。しかし、実用には課題もあると新農村物流が報じた。

 

中国で進むパブリック宅配ボックス

日本でもそうだが、中国でも宅配便物流の限界が社会問題となっている。宅配便件数は年間400億件を超え、常にぎりぎりの状態で配送が行われている。中国でも問題になっているのが、不在による再配達だ。再配達を減らすことで、宅配物流の流量はまだあげることができる。

そこで普及が進んでいるのがパブリック宅配ボックスだ。中国の都市部では大規模なゲートコミュニティマンションが多い。ゲートで仕切られ、部外者は立ち入りできず、中には1000戸クラスのマンション群が立ち並ぶというもの。入居個数が1000戸を越えると、スーパーやコンビニといったビジネスが成立するようになるため、居住者専用のスーパー、コンビニ、美容院、レストラン、カフェなどを備えているところもある。

このようなマンションに大型宅配ボックスを設置することで、宅配物流の効率を上げようとするものだ。このパブリック宅配ボックスは、マンションの外に出て、駅やバスターミナル、オフィスビル、学校の寮、病院、公園などに設置される例も増えてきている。

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▲豊巣は、宅配便企業で、すでに多くのパブリック宅配ボックスを各地に設置している。このタイプは、冷蔵庫付きのもので、野菜などの生鮮食料品の配送にも対応している。

 

高さ4.2mのタワー型。最大600個を収納

宅配企業「豊巣」が開発した新型宅配ボックスは、このようなパブリック宅配ボックスをさらに進化させたものだ。

八角柱の形状で、直径2.5m、高さ4.2mという巨大なもの。中には最大600個の宅配便を収納することができる。配達員がこの宅配ボックスに荷物を持ってくると、顔認識により配達員が認識をされ、誰がどの荷物を入れたかが記録される。入れる際に荷物の送り状のバーコードも読み取られ、受取人に自動的に案内メッセージが送られる。

受け取る人も、顔認識で認識され、画面の前に立つだけで、自分宛の荷物が出てくるという具合だ。

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▲高さ4.2mの宅配ボックス。目の前に立つだけで、顔認識により自分の荷物が出てくる。高くすることで設置面積を減らすために、八角柱の形状をしている。

 

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▲中はタワーパーキングのようになっていて、最大600個の荷物が収納できる。

 

ドローン配送、無人車配送にも対応

しかし、このパブリック宅配ボックスが本領を発揮するのは、数年後だ。上部は無人ドローンのポートになっていて、ドローンの荷物を自動で内部に収納することができるようになっている。さらに、無人配送車もすでに実用試験が始まっていて、公道走行や現実的な障害物の問題がクリアできれば実戦投入できる段階まできている。この無人配送車にも対応していて、自動で荷物が収納できるようになっている。つまり、将来は、無人ドローン、無人配送車で夜間にパブリック宅配ボックスに配送し、人間が活動する昼間に人間が荷物を受け取っていくことになる。

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▲タワー上部はドローンが発着できる場所になっている。ドローンにより24時間、荷物を配送できる。

 

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▲配送拠点から宅配ボックスまでは、無人配送車が運ぶようになる。

 

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▲現在は配達員が荷物を宅配ボックスまで届ける。顔認証により配達員を認識する。

 

乗り越えなければならない課題もある

しかし、解決しなければならないさまざまな問題は残されている。ひとつはドローン配送は、墜落の危険性があるために、人口の多い都市部では簡単には実現できないことだ。また、ゲートコミュニティマンションは夜間は門を閉ざすため、無人配送車が自由に出入りすることはできない。

さらに大きな問題がビジネスモデルだ。現在、豊巣が予定しているのは、利用をする配送員から利用料を徴収するというもの。大中小、それぞれ、0.05元、0.04元、0.03元とわずかな料金だが、配送員の利益は荷物一つで1.5元程度なので、利用をしない配送員もいるかもしれない。宅配便企業は、この費用を配送料に転化してECサイトに負担をしてもらおうと考えるかもしれない。すると、ECサイトは値上げをして消費者に負担を求めることになるだろう。

消費者としては、24時間いつでも受け取れる代わりに、宅配ボックスから自宅までは自分で運ばなければならず、小さい荷物ならともかく、重く大きな荷物の場合は「宅配ボックス不可、自宅直送」を指定するようになるかもしれない。

広告による収入を考えるなど、コストを宅配便企業、ECサイト、消費者のトライアングルの外に求めることが必要になる。豊巣は、実戦投入時期はまだ明らかにしていない。

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IT企業、投資家たちは、今なぜ西安に注目にするのか

中国の投資家たちは、どの都市の企業に投資をするときに不動産価格が急上昇している都市に注目するという。今、中国で中心地の不動産価格が急上昇しているのが西安市だという。なぜなら、主要IT企業が次々と西安市に進出をしているからだと捜狐が報じた。

 

投資家たちは、北京、上海、広東から深圳、成都杭州

中国の地図が大きく変わろうとしている。20年前、中国で発展している都市といえば、首都であり中国版シリコンバレー中関村がある北京、商業、金融が発展している上海、英国資本が入り流行の発信地である香港というのが相場だった。

しかし、SNS「QQ」「WeChat」で躍進をしたテンセントが深圳に現れ、タオバオ、アリペイなどで急成長をしたアリババが杭州に現れると、投資家たちに見えている中国地図は大きく変わった。現在では、「北上広から去り、深成杭を目指す」と言われるようになった。北京、上海、広州への投資が減り、深圳、成都杭州への投資が増えているということだ。

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不動産価格の上昇は、都市の成長のサイン

中国には人口800万人以上の都市が30都市あり、そのうち1000万人を超えている都市が13もある。最も人口の多い重慶市は人口3000万人を超えている。そのどれもが、明日の杭州となる可能性を秘めている。

次はどの都市が成長してくるのか。投資家たちはそれを見るのに、不動産価格を参考にするという。中心地の不動産価格が急上昇している都市は、新たな産業が興るサインだと考えるのだという。

その意味で、今、中国で最も不動産価格が上昇している都市は、昔の長安であり、シルクロードの出発点である陝西省西安市だという。実際、2017年、西安市GDPは20%も増加した。

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シルクロードの起点、以前の長安である西安市が、今急成長を始めている。中国国内外の投資家たちが、この古都に注目をし始めている。

 

主要IT企業はどこも西安市に注目

中国の主要なIT企業は、どこも西安に注目をしている。ECサイト「京東」は、大型物流拠点を建設する。アリババは、西北本部を設置し、西安交通大学とともにIT系のカレッジを創立する。百度イノベーションセンターを創立する。アマゾンも、テンセントもイノベーション研究拠点を創立する。さらに、サムスン吉利汽車、ZTEなども西安への進出を検討している。

2017年9月に、テクノパーク西安創業大街」がオープンして以来、無数のIT系中小企業、スタートアップも西安に集まり始めている。

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▲昨年9月にオープンした西安創業大街。イノベーションストリートと呼ばれ、IT企業の研究系オフィスが立ち並ぶ。また、巨大なショッピングセンターも併設された。

 

激しさを増す都市間競争が中国躍進の活力に

西安は、中西部にある内陸都市で、交通の便がいいとはいえない。しかし、広大な中国西部への入り口となっている。中国西部は、農村が多く、決して発展しているとは言えない。しかし、急速に地方都市への集約が始まっており、人口数百万規模の都市が続々と誕生している。当然ながら、市民の消費力も急上昇している。この消費力をカバーする拠点として西安市が注目されているのだ。

一方で、投資家たちが去り始めていると言われる北京、上海も手をこまねいているわけではない。北京は「世界で最初に完全自動運転車が走る都市」を目指す宣言をした。上海はアジアの人工知能開発の最先端拠点にするAI@SHプロジェクトを進めている。都市間で熾烈な競争をしている。これが中国の活力を生んでいる。

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スマホ普及で変わる春節。変わらない春節

中国で最も重要な伝統行事「春節」。旧正月のことだが、中国人は1月1日よりもこちらの春節を重要視し、実家に帰り、家族親戚とともに新年を祝う。しかし、この伝統にもスマートフォンECサイトなどの影響が現れ始めている一方、伝統にこだわりを見せる面もある。調査会社「企鵲智酷」は、春節の過ごし方を調査した「2018中国ネットユーザー春節消費娯楽調査研究報告」を公開した。

 

毎年民族大移動をする旧正月春節

今年の2月16日は、中国の旧正月春節だった。中国では、1月1日よりも、春節が新たな1年の始まりとされ、前日の2月15日から1週間が連休となり、春のゴールデンウィークとなる。都市住人の中には、最近では、この連休を利用して海外旅行に行く人が増えているが、やはり王道は田舎に帰り、実家で家族親戚とともに新年を祝うという過ごし方だ。そのため、この期間、鉄道駅、長距離バスターミナルは大混雑となる。

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春節の帰省で、民族大移動が起きる。どの駅、どの長距離バスターミナルも、日本人の想像をはるかに超える大混雑となる。

 

若い世代ほど帰省する傾向。7割が帰省

春節は次第に伝統行事から離れ、春の大型連休となり、海外旅行に出かける人も増えている。しかし、王道は実家に帰り、家族親戚とともに新年を祝うという過ごし方だ。報告書によると、実家を離れた都市で仕事をしている人のうち、年に少なくとも3回以上実家に里帰りすると答えた人が68%にも上った。また、春節期間中、帰省をした人は63%に上った。

しかもこの習慣はなかなか廃れそうもない。世代別のアンケートでは、若い世代ほど「帰省する」と答える人が多かったのだ。70世代とは70年代生まれのことで、40歳代の人のこと。この年齢になると、混雑する春節時に帰省をするのがしんどいということもあるが、00世代(10歳代)の場合は、7割以上が帰省すると答えている。

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春節に帰省をする人は、00世代(2000年代生まれ、10代)で約7割。若いほど帰省をする。中年になると、生活基盤が都市にできてしまうことと関係していると思われる。

 

ECサイト利用率は低い。問題は遅配

春節の前には様々な買い物をしなければならない。前日には、家族全員で餃子を作る風習があり、さらにはお年玉の袋や正月の飾り物などなどを買う。このような買い物もECサイトを利用する人が多いのかと思えば、圧倒的に実体店舗を利用する人が多い。

地方の農村の場合、ECサイトで注文すると、混雑などで配送時期が確定できないことが多い。飾り物などは春節前にすませておく必要があるため、確実に購入できる実体店舗を利用する人が多いのだと思われる。また、年末に家族で買い物にいくこと自体がひとつの娯楽になっていることもある。

ただし、若い世代ほどECサイトの利用率が上がっているので、この習慣も次第にECサイトを利用する人が増えていくのだと思われる。

春節の買い物でECサイトを利用して、遅配を経験したことがあると答えている人は75%にも上る。春節時の物流問題が解決できれば、ECサイトの利用率は一気に上がるかもしれない。

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春節の準備のための買い物をECサイト、実体店舗のいずれでするかという問いに対する回答。意外に実体店舗が多い。買い物自体を家族と一緒に楽しむ習慣があることと、ECサイトの遅配が問題になっている。

 

新年の挨拶はSNSが圧倒的

新年の挨拶は、近所であれば訪問をして、遠方であれば電話というのが以前の習慣だった。しかし、スマートフォン時代では遠方への挨拶は様変わりしている。WeChatなどのSNSメッセージアプリを利用するのが一般的になっている。また、文字ではなく、楽しい絵柄のスタンプを使うことも若い世代を中心に広がり、スマホで挨拶がすでに主流になっている。

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▲新年の挨拶は、大昔は郵便カード、昔は電話だったが、今ではスマートフォンSNSでというのが主流になった。

 

スマホゲームや動画で過ごす春節

春節の過ごし方も大きく変わっている。以前は、家で家族とともにテレビを見る、外出して友人と食事をする、映画館に行くというアナログ的な過ごし方が主だった。現在でも、そのような過ごし方は主流だが、そこにスマホゲーム、スマホ動画が加わっている。

ただし、家族と離れて1人でスマホで遊ぶというわけではないようだ。誰かがスマホでゲームをしたり、動画を見ても、その周りに家族が集まり、みんなで楽しむ。そういう楽しみ方が主流だという。スマホは小さな多機能テレビとして楽しまれているようだ。

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春節での過ごし方。テレビ、友人と会食といった日本のお正月とよく似た過ごし方が上位にくるが、スマホゲーム、スマホ動画も増えている。

 

家族で旅行する習慣も増えつつある

実家でのんびりする春節の過ごし方もあるが、近年高まっているのが旅行だ。それも家族ごと旅行するパターンが増えている。つまり、実家に帰って両親と春節を過ごすのではなく、両親を伴って旅行に行き、実家以外の場所で春節をすごす。全体の12.2%が旅行に行くと答えている。

この12.2%のうち、91.0%は国内旅行、3.5%が香港、マカオ、台湾への旅行。海外旅行は5.5%となっている。

春節の旅行は、他の大型連休の旅行と違い、父母を伴う大人数になる傾向がある。そのため、各旅行会社は春節旅行の販売に力を入れている。

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▲いかにも春節らしいイメージ写真。家族、親戚、友人、ご近所が集まって、ひたすら食べて飲む。この伝統はIT時代になっても変わらない。

 

伝統は変えないからこそ伝統であり続ける

IT技術の急速な発展、急速な普及で、中国人の生活は猛スピードで変わっていっている。紙幣や硬貨は姿を消し、スマホ決済になった。買い物はECサイトが主流になりつつある。仕事も、ほぼすべての業種でIT技術を利用している。

しかし、意外にも春節の過ごし方にIT技術の影響は少ない。「お正月は実家でのんびり」「友人親戚と楽しく飲み食い」といった伝統的な過ごし方がまだまだ主流だ。時代がどうなろうとも変わらないもの。それを大切にする中国人の伝統観が春節には生きている。

 

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赤信号を無視する歩行者は、ネットでも個人情報を晒します

深圳交通警察は、続出する横断歩道の信号無視歩行者に対処をするため、顔認証技術を使った警告パネルを設置した。ここに違反者の顔写真が一定期間表示される。それだけでなく、最近、ウェブでも違反者の個人情報を晒すという策を実行したと映像新聞が報じた。

 

違反者の顔を認証して個人情報を特定

この信号無視監視システムは、深圳市だけでなく、済南市、福州市、重慶市などにも設置されている。横断歩道の信号が赤になったのに、停止線より先で動く物体を感知すると、4枚の写真と15秒の動画を自動撮影する。さらに、この映像を画像解析し、人間の顔部分を特定。さらに、公安部が保有する身分証データベースと顔認証照合をして、違反者の名前、身分証番号、住所、勤務先を特定する。

現在は、そのまま違反切符や罰金を科すことはしていないが、横断歩道横に設置された大型液晶パネルに、一定期間、顔写真が晒される。また、居住地の地区コミュニティーあるいは勤務先に通知がいき、地区委員や上司から警告をしてもらう。

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▲赤信号時に動く物体を発見すると、4枚の画像と15秒の動画が撮影され、顔部分が特定される。顔認証で、身分証データベースと照合され、個人情報が特定される。

 

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▲深圳市の交差点に設置された大型液晶パネル。違反者の顔写真が一定期間、ここに表示され、多くの人に晒されることになる。

 

プライバシー問題はあるものの効果は絶大

昨年5月から試験運用が始まったこのシステムは、大きな議論を呼んだ。信号無視程度で顔が晒されるというのは、いくらなんでもやりすぎなのではないか、プライバシーの侵害なのではないかというのだ。

しかし、交通警察側は強気だ。なぜなら、違反者は信号無視を軽い違反だと考えているが、実際に死亡事故に結びつく危険な違反であり、このシステムを導入してから、明らかに信号無視が減っている。効果は絶大だというのだ。

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▲深圳交通警察が作成した信号無視違反者公開ページ。名前、身分証番号も一部が公開されている。https://www.stc.gov.cn/facei/

 

ネットでも違反者の写真を公開し始めた新鮮交通警察

深圳交通警察は、さらに効果を上げるため、今度は写真をネットで公開するということを始めた。それだけでなく、氏名、身分証番号に関しても、一部を伏せて公開をしている。

一応、顔に関しては、モザイク処理がされているが、わざとなのか、うっかりなのか、モザイク処理がされていない画像も公開されている。

しかし、以前、監視システムが導入された時と違って、反論する声は少ないようだ。このシステムの効果により、信号無視が激減しているからだ。現在、ネットで違反者情報を公開しているのは深圳市のみだが、同じシステムを導入している他の都市でもネット公開が始まるかもしれない。

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▲実際にネットに公開された写真。信号無視だけでなく、歩きスマホまでしている。氏名、身分証番号も一部が伏せされた状態で公開される。

 

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▲同じく公開された写真だが、なぜか顔にモザイク処理がなされていない。処理を忘れたのか、それとも意図的なのかはわからない。

ミニオンズ マウスパッド 横断歩道 #1078

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人工知能産業に狙いを定め、巻き返しを図る上海市

IT技術の発達により、北京、杭州、深圳の3都市が成長を続ける中で、上海の地位が相対的に低下している。しかし、上海市政府は、人工知能産業に狙いを定め、猛烈な巻き返しを始めたと億欧網が報じた。

 

最先端都市だった上海の相対的な地位低下

じわじわと上海の存在感が低下している。1842年、アヘン戦争後の南京条約で、上海は条約港として開港して以来、常に中国の最先端都市だった。新しいテクノロジー、新しい流行はすべて上海から中国全土に入っていく。現在も、金融と小売業にかけては中国でトップクラスの大都市だ。

しかし、BATと呼ばれる、百度バイドゥ)、アリババ、テンセントのIT御三家企業が成長をし始めると、上海の存在感は相対的に低下していった。百度のある北京、アリババのある杭州、テンセントのある深圳が知能都市として急成長をしたからだ。上海にももちろん、IT系の企業、スタートアップは無数にあるが、BATのような大きく成長した企業がないために、IT関連では魅力の乏しい都市になりつつある。

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「知能上海」で猛烈に巻き返しを始めた上海

しかし、上海市政府も手をこまねいているわけではない。人工知能開発に狙いを定め、猛烈な巻き返しを図っている。具体的には、音声識別、知能ロボット、脳科学、リスクマネジメント、スマート製造、スマートカーなどの応用分野に関連する企業、スタートアップを強力に後押している。

上海市政府は、昨年11月には、「知能上海(AI@SH)」という名称で、2020年までに上海を人工知能開発の先端都市にする計画を発表した。具体的には6つの人工知能応用モデル地区、60の人工知能実用分野、100の人工知能応用モデル分野、10の人工知能プラットフォーム、5つの人工知能工業団地、10の人工知能企業を育て、人工知能産業規模を1000億元(約1兆6700億円)にするという。

さらに、「人」「工」「知」「能」の4つの政策を実行する。「人」では人工知能関連の人材育成、「工」では人工知能関連の企業、スタートアップを後押し、「知」では人工知能応用分野を後押しし、「能」ではビジネス化を支援する。

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上海市で昨年開催された世界人工知能イノベーションサミット。上海市人工知能に狙いを定め、戦略的にこのようなイベントを開催している。

 

虹橋、中山公園、臨空に人工知能開発拠点

この計画はすでに着手されている。昨年11月には上海市長寧区は、携帯電話メーカー「ファーウェイ」、携帯電話キャリア中国聯合通信」と共同して、虹橋人工知能バレーを設立する計画を発表、人工知能開発のモデル地区とし、これを中山公園、臨空地区にも広げ、合計3地区を上海の人工知能開発の中心地にする計画だ。

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上海市長寧区政府とファーウェイ、中国聯合通信は共同して、虹橋地区を人工知能開発モデル地区にすることに合意した。今後、中山公園、臨空などでも同様のプロジェクトが展開される。

 

すでに成果は現れ始めている

その成果はすでに現れ始めている。億欧シンクタンクが公開した「中国人工知能産業発達都市ランキング2017」によると、1位は北京だったが、上海が2位に食い込んできた。スコアが上がったのは、人工知能関連のスタートアップの企業数が図抜けて多かったからだ。

億欧シンクタンクは、上海の代表的な人工知能関連スタートアップを50選び、公表しているが、すでに株式公開を果たした企業も7社ある。まだまだラウンドA投資以前の企業が多いが、ラウンドB、ラウンドCの企業も増え、「雨後の筍のように創業しては消える」段階は過ぎ、上海の人工知能産業に厚みが出てきている。

中国の都市間競争では、北京、深圳の順調な成長、杭州の急成長が目立つ一方で、上海と香港の相対的な地位低下も目立っている。しかし、上海はいよいよ巻き返しを始めた。地力があり、金融機能も発達している都市だけに、IT分野でも成長の潮流に乗る可能性は極めて高いと見られている。

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▲上海の代表的な人工知能関連スタートアップ50社の投資ラウンド。ラウンドA企業が多いが、ラウンドB以降も多く、株式公開をした企業も7社ある。創業ブームは過ぎ、産業の厚みが増していることがわかる。

 

1億人が観戦した準決勝。盛り上がる中国eスポーツ

昨年、ビデオゲーム「リーグオブレジェンド」の世界大会が北京で開催され、中国だけで、準決勝は1億人が観戦をした。中国は早くからこのeスポーツ中継を始め、昨年後半から爆発的な盛り上がりを見せるようになっていると36クリプトンが報じた。

 

中国のeスポーツ市場はすでに1兆円越え

中国で、昨年からeスポーツ市場が爆発的に伸びてきている。eスポーツとは、ビデオゲームで歴戦のプレイヤー同士が対戦する様子を会場で観戦、ネット中継で観戦をするというもの。中国音数協会が公開した「2017中国ゲーム産業報告」によると、中国のゲーム産業の規模は約2000億元(約3兆3500億円)。そのうちの700億元(約1兆1700億円)がeスポーツによるものだという。eスポーツが本格的に盛り上がり始めたのは、2017年後半なので、2018年の収支統計はここから大きく数字を伸ばすことになる。

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2004年からスタートした中国eスポーツ中継

この分野の草分けは、2004年に設立をした遊戯風雲だ。ゲーム専門の配信サイトで、ゲームの攻略、実況の番組の他、eスポーツ大会の中継などが配信される。主力の番組視聴は有料となっていて、これが収益の源になっている。

しかし、設立当初は、視聴者数も少なく、収益は上がらず、なかなか軌道に乗らなかった。eスポーツ責任者の沈偉栄の月給は5年間、3000元(約5万円)のままだった。2013年になり、ようやく遊戯風雲の収益が上がり始め、月給は上がったが、それでも6000元(約10万円)にすぎない。現在、沈偉栄の年収は億を超えているのではないかと言われる。

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▲遊戯風雲サイト。ゲーム実況、攻略番組、試合中継など、世界でも最も古いゲーム動画配信チャンネルのひとつ。http://m.gamefy.cn

 

Twitch買収に動いた遊戯風雲

このeスポーツ分野が浮上したきっかけが2011年に、米国の動画配信サービスJustin.tvから分離独立したゲーム専門の配信サイトTwitchだった。しかし、設立当初のTwitchを利用していたのはコアなゲームファンで、現在ほどの爆発力、収益力はなかった。

まったく同じようなコンセプトのサイトが米国に登場したことを知った遊戯風雲の沈偉栄は、2012年に米国を訪問し、Twitchの買収交渉に臨んでいる。Twitch側もこの話に乗ってきて、提示した価格は300万元(約5000万円)というものだった。しかし、この頃の遊戯風雲の年間売り上げは100万元(約1600万円)程度。サイトの買収額としては割安であるものの、資金が用意できないことから、遊戯風雲は断念をした。

しかし、結果論だけから見れば、遊戯風雲は、借金をしてでもTwitchを買収しておくべきだった。2年後の2014年には、Twitchの月間アクティブユーザーは4000万人を超え、アマゾンによって9.7億ドル(約1000億円)で買収されることになるからだ。

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▲アマゾンに買収されたゲーム動画配信チャンネルTwitch。日本語化をされ、日本でもファンが増え始めている。http://twitch.tv

 

蘇寧電器、京東がプロチームを設立

eスポーツとは、元々はゲーム開発企業によるプロモーションだった。テンセントのようなゲーム開発企業が、自社のゲームを広めるために、賞金付きの大会を催す。そこにゲームユーザーが参加し、遊戯風雲のような配信サイトが中継をするというものだった。

しかし、現在では、その段階を超え、プロリーグが設立される状態に達している。最も規模が大きいのが、テンセント傘下の米ライアットゲームズが開発したMOBA「リーグオブレジェンド」だ。MOBAとはマルチプレイヤー・オンライン・バトル・アリーナの略。プレイヤーが多数同時に参加し、ゲーム内のフィールドで戦いをする。

この2017年の世界大会が、北京市の国家体育館で開催された。中国ではすでにプロリーグが結成されている。蘇寧電器、京東などの企業は、自社のイメージアップのために、有力チームを丸ごと買収している。自社のチームを持ち、大会に出場させている。チームのメンバーは、チームからの給料で生活を立てるプロゲーマーということになる。

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▲リーグオブレジェンドのプレイ画面。1キャラクターを1人が操るチーム戦が基本。さまざまな攻撃手法が用意されているが、どちらが勝ったかはわかりやすく、観戦は女性や初心者にも人気がある。

 

リーグオブレジェンド世界大会準決勝は観戦者1億人

この世界大会には、北米、欧州、東南アジアなどの各地区大会を勝ち上がってきたチームも出場した。しかし、圧倒的に強かったのは中国と韓国のチームだった。中国RNGと韓国SKテレコムチームの準決勝は、中国での視聴者数が1億人近くになり、それまでのeスポーツ国内観戦者数の記録を塗り替えた。

しかし、中国にとって残念なことに決勝戦は、SKテレコムと韓国サムスンギャラクシーチームとなり、中国での観戦者数は、1/4ほどの減ってしまった。

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▲リーグオブレジェンドの2017年世界大会で、準決勝まで進んだ中国RNGチーム。中国プロリーグに所属し、世界でもトップクラスの強豪。ヒューレットパッカードがスポンサーになるなどの他、中国の富豪の子弟からの寄付金、援助金などで運営をしている。

 

女性や初心者を惹きつけ、中国eスポーツ市場はいまだに成長中

中国でのeスポーツ人気は、衰える兆しがまったくない。なぜなら、アジアでは韓国、東南アジア、さらには北米、欧州で根強い人気を獲得し、続々とプロチームが登場しているからだ。

すでにeスポーツ人気は、ゲームファン以外の人にも認知されるようになり、中国の地方都市の中には、競技場、ネットインフラ、宿泊所などを整備し、eスポーツによる町おこしに着手しているところまで現れ始めている。

中国には卓球、サッカー、バスケットボールなどのプロリーグがあるが、卓球以外は今ひとつ人気が出ていない。サッカー、バスケットボールでは、海外の有名選手を招聘して人気回復を狙っているが、スポーツ好きの人は、ネットを使った中継で海外の試合を見てしまうのだ。

この隙間に、eスポーツはうまく入り込んだ。特に、eスポーツの観戦者は女性の比率が多いこともポイントだ。ルールを理解するのに時間がかかるスポーツに比べて、MOBAはキャラクター同士の戦いなので、理解がしやすい。派手な演出があり、ストレスが発散されるなどの理由から、コアなゲームファンだけでなく、女性や初心者も惹きつけている。このeスポーツ人気。まだまだ成長しそうだ。

League of Legends (輸入版)

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定着するか、中国式自動販売機「無人商品棚」

商品を棚に置き、利用客に自分で決済をしてもらうという富山の置き薬方式のミニコンビビジネスが中国で競争が激化している。すでに50社以上のスタートアップが登場し、既存企業の参入も相次いでいると人人都是産品経理が報じた。

 

硬貨が少なく、自動販売機がなかった以前の中国

中国では、ごく最近まで自動販売機というものがほとんど存在しなかった。というより、自動販売機がこれをほど多いのは日本ぐらいなのだとよく言われる。その理由は治安だ。商品と釣銭を入れた金庫でもある自動販売機は、容易に持ち去られてしまう危険性がある。また、こまめに巡回をして売上を回収し、商品を補充するというオペレーションも、日本人にとっては当たり前の仕事だが、外国ではそうではない。遅れ、ぬけなどを防止する仕組みを作らなければならないし、場合によっては、巡回スタッフが商品や売上をポケットに入れてしまう危険性すらある。自動販売機は極めて日本的なビジネスなのだ。

中国では、さらに、硬貨の発行枚数が極めて少ないという問題があった。コストの関係から、硬貨はあまり流通してなく、その代わり、小額紙幣が用意されている。人民元の下の単位である1角(=0.1元、約1.6円)まで紙幣が発行されている。そのため、自動販売機を置いても、釣銭の用意が難しくなり、利用者も硬貨がないので使えないということになる。

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上海市の地下鉄駅に設置されている自動販売機。以前は、自動販売機はほとんど存在しなかったが、スマホ決済が普及したことで、自動販売機が続々と登場している。

 

スマホ決済の普及で登場した無人商品棚

これを変えたのがスマホ決済だ。スマホ決済であれば、通貨は関係なく支払いができる。現在は、スマホ決済対応の自動販売機をあちこちで見かけるようになっている。

自動販売機とともに増えてきたのが無人商品棚だ。日本でも、高層のオフィスビル内に、無人のミニコンビニが設置されるようになってきているが、基本的には同じものだ。セルフレジ方式で、電子マネーで支払いをする。現在、50以上のスタートアップ企業、大手企業が参入し、30億元以上の投資資金が流れ込んでいると言われる。

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無人商品棚関連のスタートアップはすでに50社以上がある。すでに撤退を決めて、業態転換を図る企業も出てきている。

 

オフィス内に置かれるミニコンビニ

無人商品棚には、開架式と閉架式の2種類がある。開架式とは文字通り、棚に商品を直接並べてしまおう方式だ。商品のバーコードを自分で読み、決済をする。その気になれば簡単に万引きできてしまう方式なので、企業のオフィスなどに置かれる。これは中国でも以前からあったオフィス内のミニコンビニビジネスの進化版だ。オフィスに飲料や菓子類を置いておき、お金は脇のボックスに入れておく。巡回スタッフが回ってきたときに、売上を確認、回収し、商品を補充するというものだ。これをバーコード、スマホ決済にしただけだが、詳細なデータがリアルタイムで取れることになり、補充すべき商品の種類、点数も事前にわかるようになる。また、売上金の回収も不要になるので、巡回スタッフの作業は大幅に軽減された。

また、商品棚そのものはさほど大きくする必要はなく、どこにでも設置できるので、追加設置、場所移動なども簡単だ。さらに、手間がかからないので、商品の販売価格を安く抑えることができる。

ただし、やはり万引きが容易な仕組みなので、設置場所に限りがある。企業オフィス内ぐらいしか設置場所がなく、学校や図書館におかれている例もあるが、やはり損失が出てしまいうまく運営できないようだ。また、商品棚が小さいために、商品の補充頻度が高くなる。 

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▲哈米科技。瀟洒なデザインの棚を作り、差別化を図っている。またオリジナルのPB商品も多い。オフィス内設置の開架式。

 

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▲七只考拉。7匹のコアラの意味。オフィス内の開架式。

 

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▲毎日優鮮便利購。左はただの冷蔵庫で、閉架式商品棚とは違い、自由に開けられる。オフィス内設置の開架式。

 

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▲領蛙。オフィス内の開架式。すでにコンビニチェーン「便利蜂」に買収された。

 

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▲猩便利。大型店舗が多く、コンビニが不足している地方都市での展開を狙っている。

 

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▲果小美。オフィス内の開架式。

 

自動販売機に近い閉架式の無人商品棚

閉架式は、コンビニの飲料冷蔵庫のような形状のものが多い。多くの場合、電子決済のQRコードを読み込ませて個人認証をすると、扉が開くようになり、電子タグのつけられた商品を棚から出すと決済が行われる仕組みだ。

個人認証をしないと扉を開けられない仕組みなので、駅、百貨店、ショッピングモールなどにも設置することができる。しかし、多くは、オフィス街のコンビニが出店していない地域、あるいは高層オフィスビルなど、「コンビニにいくのが面倒」と考えるビジネスマンを狙っている。一方で、商品棚や電子タグのコストがかかるので、価格を安くすることが難しい。

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▲WINMART GO。閉架型の無人商品棚。個人認証をすると扉が開けられる。電子タグスマホ決済で支払いをする。ショッピングモールなどに置かれる。

 

多様な業種から参入する中国の新ビジネス

無人商品棚は、スタートアップだけでなく、大手企業の参入も相次いでいる。特徴的なのは、様々な業種の企業が参入をしていることだ。一般的に考えたら、このような事業は、コンビニ流通を握っているところが参入しやすいように見える。実際、日本の場合は、ほとんどコンビニ企業が参入をしている。

しかし、中国の場合は、さまざまな業種からの参入が続いている。無人商品棚ビジネスを始めるには、ITシステム、商品棚製造、物流、食品仕入れ、巡回といったさまざまな要素が必要で、その要素に関わる企業が続々と参入してくるのだ。出自の異なる背景を持った企業は、当然、その考え方も違う。異なる発想がひとつの分野で競い合い、そして消費者の支持を得られなかった企業が撤退をして、1つか2つの企業だけが生き残る。このプロセスが中国経済を強くしている。

無人コンビニと同じように、無人商品棚もすでに過当競争になり、整理のステージに入っていると言われる。これから多くの企業が撤退、倒産をすることになる。しかし、生き残ったサービスは全国に展開をし、定着をすることになる。

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▲既存企業の参入も続いている。コンビニ企業ではなく、異業種からの参入が多い。

 

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▲豊e足食。母体企業は宅配便の順豊。宅配配送ルートを利用して、商品補充を行なっている。オフィス内設置の開架式。

 

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▲豹便利。母体企業はセキュリティソフト開発の猟豹移動。オフィス内の開会式だが、IT企業のブランド力を生かして、シェアオフィスなどに導入していく。

 

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▲餓了麽NOW。出前サービスの餓了麽が母体。オフィス内の開架式。商品補充などは、出前配送員がオフピーク時に行う。

 

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▲蘇寧小店。母体企業は家電小売の蘇寧電器。大型店舗が多く、コンビニが不足している地方都市での展開を狙っている。

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