中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

無人コンビニの次は、無人販売機。止まらない中国の雨後の筍スタートアップ

中国では、無人コンビニ、無人スーパーが続々と開店している。投資資金が集めやすいジャンルだからであり、中には計画倒れになりそうなスタートアップもある。無人コンビニが過当競争となったと見るや、今度は無人販売機のスタートアップが続いている。無人販売機はほんとうに利益が出るのか。騰訊創業が検証した。

 

投資資金を集めやすいシェアリングとO2O

中国で今話題になっている言葉は「シェアリング」と「O2O」だ。シェアリングはシェアリングエコノミーのことで、自転車ライドシェア、自動車ライドシェア、民泊を筆頭に、携帯充電器や雨傘、睡眠カプセルなどさまざまなものが登場している。

O2OはOnline to Offlineのことで、中国では日本での使われ方と少し違っていて、IT技術を積極的に活用した実態店舗のことを指す。無人コンビニ、無人カラオケ、無人バーなどが登場している。

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先行者利益を獲得するためのBuild First、Mend Later

しかし、いずれも、スタートアップが多すぎて、中には泡沫スタートアップとしか思えない杜撰なものも見受けられる。例えば、睡眠カプセルは宿泊所としては避難経路などに問題があるとされ、現在も営業を停止中だ。コンテナ型の無人コンビニも、地面に基礎を打っていない建築物は違法建築になるという指摘を受けるなど、事前に調査をしておくべきことをせずに事業を始めてしまい、つまづいているスタートアップも増えてきた。

なぜ、このような杜撰な例が生じるかというと、中国人特有の「まずやってみて、後から直せばいい」という楽天的、積極的な性格もあるが、今、このシェアリングとO2Oに投資資金が集まりやすいということがある。つまり、早く始めて、業界のリーダーになれば、生き残っていける確率が高くなるのだ。

では、なぜこの2つの分野に投資が集まるのかといえば、他の分野の成長が頭打ちになり、投資効果が得られなくなっているからだ。そのため、シェアリングとO2O関連のスタートアップは、これからもまだまだ登場し続けるだろう。

 

無人コンビニから自動販売機へ

現在、始まっているのが、無人スーパーではなく、無人販売機のスタートアップだ。日本人にとっては珍しくもなんともない、要は自動販売機のことだ。

このようなスタートアップはほんとうに成功するのか。騰訊創業では、記者が各自販機にそれぞれ50時間張り付いて観察をし、客数などをカウント。そのデータを元に、このビジネスがほんとうに利益を出せるのかを計算した。

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騰訊創業が調査をした3つの自動販売機スタートアップ。企業規模の割には、すでに数千万元単位の投資資金が集まっている。

 

1日30杯しか売れないコーヒー

調査したのは、3つのスタートアップ。天使之橙はオレンジジュースの販売機だが、生のオレンジを目の前で絞るというもの。ショッピングセンターに置くことを想定している。珈琲零点吧はコーヒーの販売機で、豆からコーヒーを淹れてくれる。ショッピングセンターの他、オフィスビルにも置かれる。飯美美は弁当の自動販売機で、熱々のおかずが出てくる。主にオフィスビルに置かれる。

騰訊創業が平日24時間、休日24時間の観察を行い、売れた個数を記録、独自に販売データを作った。これによると、コーヒーの成績が圧倒的に悪い。記者は、ライバルが多いからだと分析する。オフィスビルでは、近くにスターバックスがある。価格はスターバックスの半分程度ではあるが、多くの人が「スターバックスのコーヒーの方が美味しい」と考えているため、そちらに行ってしまう。自動販売機は、席が用意されていないというのも痛い。また、ショッピングセンターでは、コンビニで5元のコーヒーが販売されている。やはりそちらを利用する人が多い。

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▲4台の自動販売機を24時間監視、平日と休日に分けて調査した。飯美美は休日は自動販売機も休止する。

 

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▲販売量のまとめ。平日1日と休日1日の合計(飯美美は平日1日分)。ずいぶん、小さな販売数字だが、自動販売機はコストがかからないので、これでも十分利益が出ている。

 

 

オレンジジュースは1日12杯で儲けが出る

騰訊創業では、これだけでなく、それぞれの業界で事情に詳しい人間に取材をし、おおよそのコストを算出し、それぞれの採算ラインを割り出した。

オレンジジュースの場合、1杯のジュースに3個から5個のオレンジ約800グラムが使用され、原材料費は3元程度。また、自動販売機は3年使用し、3.5万元。スタッフは、一人で3台から5台を担当し、人件費は月6000元。ショッピングセンターの場所家賃が1平米2000元。

これを総合すると、1杯のコストは5.6元となり、利益は9.4元。1日12杯から15杯が採算ラインとなる。騰訊創業の調査結果では、これを大きく上回っている。

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▲オレンジジュース自動販売機の天使之橙。生のオレンジを目の前で絞ってくれる。原価は1杯5元程度。

 

コーヒーは1日7杯売れれば儲けが出る

珈琲零点吧では、アラビカ種のコーヒー豆を採用していることを公言していて、最も一般的なアラビカ豆は1kgあたり25元で、1杯のコーヒーに10gを使用する。スタッフは10台を担当することができ、豆と水を補充する。

これから計算すると、1杯のコストは1元となり、人件費、自動販売機コスト、場所コストなどを総合しても、1杯で14元の利益があり、1日7杯程度が採算ラインになる。コーヒーの販売数は少ないが、原価が極めて安いので、十分に利益が出る。

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▲コーヒー自動販売機の珈琲零点吧。1杯分のコストはわずか1元だと推測される。コーヒーは原価が安いので、利益の大きい商品だ。

 

弁当は1日24個が採算ライン

飯美美は、弁当自体は製造を委託していて、それを1個10元で購入している。自動販売機のコストは高く5万元から10万元だと推定される。これで計算すると、1個のコストは10元で、1日24個が採算ラインとなる。騰訊創業の調査では、これも大きく上回っている。

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▲弁当の自動販売機「飯美美」。ちゃんと加熱されて出てくる。

 

意外に採算ラインが低い自動販売機ビジネス

こうして見ると、無人販売機=自動販売機はあまり数が出ていないように見えるが、意外にも固いビジネスであることがわかる。

しかし、現在はいずれもサービスが始まったばかりで、自動販売機の前に宣伝スタッフが立ち、利用を促している。この宣伝が終わってからでも、同じ販売量を維持できるかどうかはわからない。また、現在はライバルがいないが、利益の出るビジネスであるということがわかれば、ライバル自動販売機も登場するだろう。

また、飯美美は騰訊創業が調査対象にしていた無人販売機の近くにある別の販売機が10時間の間に4回も故障し、加熱がうまくいかず、冷たい料理を出していた。これを買わされた人は二度と買おうとは思わなくなるだろう。

 

硬貨不足で普及しなかった自販機。スマホ決済が変えた

騰訊創業の結論としては、確かに無人販売機ビジネスは、泡沫スタートアップではなく、利益の出る堅実なビジネスだという。しかし、今後、規模を拡大し、ライバルとの競争が始まった時に、生き残る努力ができるかどうかにかかっているという。

中国はつい最近まで、自動販売機がほとんど存在しなかった。硬貨の供給量が極端に少なかったので、自動販売機があっても利用されなかったからだ。また、日本のように街頭に置くと、破壊、盗難の恐れもある。それが、アリペイ、WeChatペイというスマホ決済が普及することで、ようやく自動販売機ビジネスが成立するようになった。今後、中国の町では、日本以上に無数の自動販売機で溢れることになるかもしれない。

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