IT技術の発達により、北京、杭州、深圳の3都市が成長を続ける中で、上海の地位が相対的に低下している。しかし、上海市政府は、人工知能産業に狙いを定め、猛烈な巻き返しを始めたと億欧網が報じた。
最先端都市だった上海の相対的な地位低下
じわじわと上海の存在感が低下している。1842年、アヘン戦争後の南京条約で、上海は条約港として開港して以来、常に中国の最先端都市だった。新しいテクノロジー、新しい流行はすべて上海から中国全土に入っていく。現在も、金融と小売業にかけては中国でトップクラスの大都市だ。
しかし、BATと呼ばれる、百度(バイドゥ)、アリババ、テンセントのIT御三家企業が成長をし始めると、上海の存在感は相対的に低下していった。百度のある北京、アリババのある杭州、テンセントのある深圳が知能都市として急成長をしたからだ。上海にももちろん、IT系の企業、スタートアップは無数にあるが、BATのような大きく成長した企業がないために、IT関連では魅力の乏しい都市になりつつある。
「知能上海」で猛烈に巻き返しを始めた上海
しかし、上海市政府も手をこまねいているわけではない。人工知能開発に狙いを定め、猛烈な巻き返しを図っている。具体的には、音声識別、知能ロボット、脳科学、リスクマネジメント、スマート製造、スマートカーなどの応用分野に関連する企業、スタートアップを強力に後押している。
上海市政府は、昨年11月には、「知能上海(AI@SH)」という名称で、2020年までに上海を人工知能開発の先端都市にする計画を発表した。具体的には6つの人工知能応用モデル地区、60の人工知能実用分野、100の人工知能応用モデル分野、10の人工知能プラットフォーム、5つの人工知能工業団地、10の人工知能企業を育て、人工知能産業規模を1000億元(約1兆6700億円)にするという。
さらに、「人」「工」「知」「能」の4つの政策を実行する。「人」では人工知能関連の人材育成、「工」では人工知能関連の企業、スタートアップを後押し、「知」では人工知能応用分野を後押しし、「能」ではビジネス化を支援する。
▲上海市で昨年開催された世界人工知能イノベーションサミット。上海市は人工知能に狙いを定め、戦略的にこのようなイベントを開催している。
虹橋、中山公園、臨空に人工知能開発拠点
この計画はすでに着手されている。昨年11月には上海市長寧区は、携帯電話メーカー「ファーウェイ」、携帯電話キャリア「中国聯合通信」と共同して、虹橋人工知能バレーを設立する計画を発表、人工知能開発のモデル地区とし、これを中山公園、臨空地区にも広げ、合計3地区を上海の人工知能開発の中心地にする計画だ。
▲上海市長寧区政府とファーウェイ、中国聯合通信は共同して、虹橋地区を人工知能開発モデル地区にすることに合意した。今後、中山公園、臨空などでも同様のプロジェクトが展開される。
すでに成果は現れ始めている
その成果はすでに現れ始めている。億欧シンクタンクが公開した「中国人工知能産業発達都市ランキング2017」によると、1位は北京だったが、上海が2位に食い込んできた。スコアが上がったのは、人工知能関連のスタートアップの企業数が図抜けて多かったからだ。
億欧シンクタンクは、上海の代表的な人工知能関連スタートアップを50選び、公表しているが、すでに株式公開を果たした企業も7社ある。まだまだラウンドA投資以前の企業が多いが、ラウンドB、ラウンドCの企業も増え、「雨後の筍のように創業しては消える」段階は過ぎ、上海の人工知能産業に厚みが出てきている。
中国の都市間競争では、北京、深圳の順調な成長、杭州の急成長が目立つ一方で、上海と香港の相対的な地位低下も目立っている。しかし、上海はいよいよ巻き返しを始めた。地力があり、金融機能も発達している都市だけに、IT分野でも成長の潮流に乗る可能性は極めて高いと見られている。
▲上海の代表的な人工知能関連スタートアップ50社の投資ラウンド。ラウンドA企業が多いが、ラウンドB以降も多く、株式公開をした企業も7社ある。創業ブームは過ぎ、産業の厚みが増していることがわかる。
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