中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

スマホ普及で変わる春節。変わらない春節

中国で最も重要な伝統行事「春節」。旧正月のことだが、中国人は1月1日よりもこちらの春節を重要視し、実家に帰り、家族親戚とともに新年を祝う。しかし、この伝統にもスマートフォンECサイトなどの影響が現れ始めている一方、伝統にこだわりを見せる面もある。調査会社「企鵲智酷」は、春節の過ごし方を調査した「2018中国ネットユーザー春節消費娯楽調査研究報告」を公開した。

 

毎年民族大移動をする旧正月春節

今年の2月16日は、中国の旧正月春節だった。中国では、1月1日よりも、春節が新たな1年の始まりとされ、前日の2月15日から1週間が連休となり、春のゴールデンウィークとなる。都市住人の中には、最近では、この連休を利用して海外旅行に行く人が増えているが、やはり王道は田舎に帰り、実家で家族親戚とともに新年を祝うという過ごし方だ。そのため、この期間、鉄道駅、長距離バスターミナルは大混雑となる。

f:id:tamakino:20180322203438j:plain

春節の帰省で、民族大移動が起きる。どの駅、どの長距離バスターミナルも、日本人の想像をはるかに超える大混雑となる。

 

若い世代ほど帰省する傾向。7割が帰省

春節は次第に伝統行事から離れ、春の大型連休となり、海外旅行に出かける人も増えている。しかし、王道は実家に帰り、家族親戚とともに新年を祝うという過ごし方だ。報告書によると、実家を離れた都市で仕事をしている人のうち、年に少なくとも3回以上実家に里帰りすると答えた人が68%にも上った。また、春節期間中、帰省をした人は63%に上った。

しかもこの習慣はなかなか廃れそうもない。世代別のアンケートでは、若い世代ほど「帰省する」と答える人が多かったのだ。70世代とは70年代生まれのことで、40歳代の人のこと。この年齢になると、混雑する春節時に帰省をするのがしんどいということもあるが、00世代(10歳代)の場合は、7割以上が帰省すると答えている。

f:id:tamakino:20180322203417p:plain

春節に帰省をする人は、00世代(2000年代生まれ、10代)で約7割。若いほど帰省をする。中年になると、生活基盤が都市にできてしまうことと関係していると思われる。

 

ECサイト利用率は低い。問題は遅配

春節の前には様々な買い物をしなければならない。前日には、家族全員で餃子を作る風習があり、さらにはお年玉の袋や正月の飾り物などなどを買う。このような買い物もECサイトを利用する人が多いのかと思えば、圧倒的に実体店舗を利用する人が多い。

地方の農村の場合、ECサイトで注文すると、混雑などで配送時期が確定できないことが多い。飾り物などは春節前にすませておく必要があるため、確実に購入できる実体店舗を利用する人が多いのだと思われる。また、年末に家族で買い物にいくこと自体がひとつの娯楽になっていることもある。

ただし、若い世代ほどECサイトの利用率が上がっているので、この習慣も次第にECサイトを利用する人が増えていくのだと思われる。

春節の買い物でECサイトを利用して、遅配を経験したことがあると答えている人は75%にも上る。春節時の物流問題が解決できれば、ECサイトの利用率は一気に上がるかもしれない。

f:id:tamakino:20180322203421p:plain

春節の準備のための買い物をECサイト、実体店舗のいずれでするかという問いに対する回答。意外に実体店舗が多い。買い物自体を家族と一緒に楽しむ習慣があることと、ECサイトの遅配が問題になっている。

 

新年の挨拶はSNSが圧倒的

新年の挨拶は、近所であれば訪問をして、遠方であれば電話というのが以前の習慣だった。しかし、スマートフォン時代では遠方への挨拶は様変わりしている。WeChatなどのSNSメッセージアプリを利用するのが一般的になっている。また、文字ではなく、楽しい絵柄のスタンプを使うことも若い世代を中心に広がり、スマホで挨拶がすでに主流になっている。

f:id:tamakino:20180322203426p:plain

▲新年の挨拶は、大昔は郵便カード、昔は電話だったが、今ではスマートフォンSNSでというのが主流になった。

 

スマホゲームや動画で過ごす春節

春節の過ごし方も大きく変わっている。以前は、家で家族とともにテレビを見る、外出して友人と食事をする、映画館に行くというアナログ的な過ごし方が主だった。現在でも、そのような過ごし方は主流だが、そこにスマホゲーム、スマホ動画が加わっている。

ただし、家族と離れて1人でスマホで遊ぶというわけではないようだ。誰かがスマホでゲームをしたり、動画を見ても、その周りに家族が集まり、みんなで楽しむ。そういう楽しみ方が主流だという。スマホは小さな多機能テレビとして楽しまれているようだ。

f:id:tamakino:20180322203430p:plain

春節での過ごし方。テレビ、友人と会食といった日本のお正月とよく似た過ごし方が上位にくるが、スマホゲーム、スマホ動画も増えている。

 

家族で旅行する習慣も増えつつある

実家でのんびりする春節の過ごし方もあるが、近年高まっているのが旅行だ。それも家族ごと旅行するパターンが増えている。つまり、実家に帰って両親と春節を過ごすのではなく、両親を伴って旅行に行き、実家以外の場所で春節をすごす。全体の12.2%が旅行に行くと答えている。

この12.2%のうち、91.0%は国内旅行、3.5%が香港、マカオ、台湾への旅行。海外旅行は5.5%となっている。

春節の旅行は、他の大型連休の旅行と違い、父母を伴う大人数になる傾向がある。そのため、各旅行会社は春節旅行の販売に力を入れている。

f:id:tamakino:20180322203434j:plain

▲いかにも春節らしいイメージ写真。家族、親戚、友人、ご近所が集まって、ひたすら食べて飲む。この伝統はIT時代になっても変わらない。

 

伝統は変えないからこそ伝統であり続ける

IT技術の急速な発展、急速な普及で、中国人の生活は猛スピードで変わっていっている。紙幣や硬貨は姿を消し、スマホ決済になった。買い物はECサイトが主流になりつつある。仕事も、ほぼすべての業種でIT技術を利用している。

しかし、意外にも春節の過ごし方にIT技術の影響は少ない。「お正月は実家でのんびり」「友人親戚と楽しく飲み食い」といった伝統的な過ごし方がまだまだ主流だ。時代がどうなろうとも変わらないもの。それを大切にする中国人の伝統観が春節には生きている。

 

tamakino.hatenablog.com