中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

1億人が観戦した準決勝。盛り上がる中国eスポーツ

昨年、ビデオゲーム「リーグオブレジェンド」の世界大会が北京で開催され、中国だけで、準決勝は1億人が観戦をした。中国は早くからこのeスポーツ中継を始め、昨年後半から爆発的な盛り上がりを見せるようになっていると36クリプトンが報じた。

 

中国のeスポーツ市場はすでに1兆円越え

中国で、昨年からeスポーツ市場が爆発的に伸びてきている。eスポーツとは、ビデオゲームで歴戦のプレイヤー同士が対戦する様子を会場で観戦、ネット中継で観戦をするというもの。中国音数協会が公開した「2017中国ゲーム産業報告」によると、中国のゲーム産業の規模は約2000億元(約3兆3500億円)。そのうちの700億元(約1兆1700億円)がeスポーツによるものだという。eスポーツが本格的に盛り上がり始めたのは、2017年後半なので、2018年の収支統計はここから大きく数字を伸ばすことになる。

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2004年からスタートした中国eスポーツ中継

この分野の草分けは、2004年に設立をした遊戯風雲だ。ゲーム専門の配信サイトで、ゲームの攻略、実況の番組の他、eスポーツ大会の中継などが配信される。主力の番組視聴は有料となっていて、これが収益の源になっている。

しかし、設立当初は、視聴者数も少なく、収益は上がらず、なかなか軌道に乗らなかった。eスポーツ責任者の沈偉栄の月給は5年間、3000元(約5万円)のままだった。2013年になり、ようやく遊戯風雲の収益が上がり始め、月給は上がったが、それでも6000元(約10万円)にすぎない。現在、沈偉栄の年収は億を超えているのではないかと言われる。

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▲遊戯風雲サイト。ゲーム実況、攻略番組、試合中継など、世界でも最も古いゲーム動画配信チャンネルのひとつ。http://m.gamefy.cn

 

Twitch買収に動いた遊戯風雲

このeスポーツ分野が浮上したきっかけが2011年に、米国の動画配信サービスJustin.tvから分離独立したゲーム専門の配信サイトTwitchだった。しかし、設立当初のTwitchを利用していたのはコアなゲームファンで、現在ほどの爆発力、収益力はなかった。

まったく同じようなコンセプトのサイトが米国に登場したことを知った遊戯風雲の沈偉栄は、2012年に米国を訪問し、Twitchの買収交渉に臨んでいる。Twitch側もこの話に乗ってきて、提示した価格は300万元(約5000万円)というものだった。しかし、この頃の遊戯風雲の年間売り上げは100万元(約1600万円)程度。サイトの買収額としては割安であるものの、資金が用意できないことから、遊戯風雲は断念をした。

しかし、結果論だけから見れば、遊戯風雲は、借金をしてでもTwitchを買収しておくべきだった。2年後の2014年には、Twitchの月間アクティブユーザーは4000万人を超え、アマゾンによって9.7億ドル(約1000億円)で買収されることになるからだ。

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▲アマゾンに買収されたゲーム動画配信チャンネルTwitch。日本語化をされ、日本でもファンが増え始めている。http://twitch.tv

 

蘇寧電器、京東がプロチームを設立

eスポーツとは、元々はゲーム開発企業によるプロモーションだった。テンセントのようなゲーム開発企業が、自社のゲームを広めるために、賞金付きの大会を催す。そこにゲームユーザーが参加し、遊戯風雲のような配信サイトが中継をするというものだった。

しかし、現在では、その段階を超え、プロリーグが設立される状態に達している。最も規模が大きいのが、テンセント傘下の米ライアットゲームズが開発したMOBA「リーグオブレジェンド」だ。MOBAとはマルチプレイヤー・オンライン・バトル・アリーナの略。プレイヤーが多数同時に参加し、ゲーム内のフィールドで戦いをする。

この2017年の世界大会が、北京市の国家体育館で開催された。中国ではすでにプロリーグが結成されている。蘇寧電器、京東などの企業は、自社のイメージアップのために、有力チームを丸ごと買収している。自社のチームを持ち、大会に出場させている。チームのメンバーは、チームからの給料で生活を立てるプロゲーマーということになる。

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▲リーグオブレジェンドのプレイ画面。1キャラクターを1人が操るチーム戦が基本。さまざまな攻撃手法が用意されているが、どちらが勝ったかはわかりやすく、観戦は女性や初心者にも人気がある。

 

リーグオブレジェンド世界大会準決勝は観戦者1億人

この世界大会には、北米、欧州、東南アジアなどの各地区大会を勝ち上がってきたチームも出場した。しかし、圧倒的に強かったのは中国と韓国のチームだった。中国RNGと韓国SKテレコムチームの準決勝は、中国での視聴者数が1億人近くになり、それまでのeスポーツ国内観戦者数の記録を塗り替えた。

しかし、中国にとって残念なことに決勝戦は、SKテレコムと韓国サムスンギャラクシーチームとなり、中国での観戦者数は、1/4ほどの減ってしまった。

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▲リーグオブレジェンドの2017年世界大会で、準決勝まで進んだ中国RNGチーム。中国プロリーグに所属し、世界でもトップクラスの強豪。ヒューレットパッカードがスポンサーになるなどの他、中国の富豪の子弟からの寄付金、援助金などで運営をしている。

 

女性や初心者を惹きつけ、中国eスポーツ市場はいまだに成長中

中国でのeスポーツ人気は、衰える兆しがまったくない。なぜなら、アジアでは韓国、東南アジア、さらには北米、欧州で根強い人気を獲得し、続々とプロチームが登場しているからだ。

すでにeスポーツ人気は、ゲームファン以外の人にも認知されるようになり、中国の地方都市の中には、競技場、ネットインフラ、宿泊所などを整備し、eスポーツによる町おこしに着手しているところまで現れ始めている。

中国には卓球、サッカー、バスケットボールなどのプロリーグがあるが、卓球以外は今ひとつ人気が出ていない。サッカー、バスケットボールでは、海外の有名選手を招聘して人気回復を狙っているが、スポーツ好きの人は、ネットを使った中継で海外の試合を見てしまうのだ。

この隙間に、eスポーツはうまく入り込んだ。特に、eスポーツの観戦者は女性の比率が多いこともポイントだ。ルールを理解するのに時間がかかるスポーツに比べて、MOBAはキャラクター同士の戦いなので、理解がしやすい。派手な演出があり、ストレスが発散されるなどの理由から、コアなゲームファンだけでなく、女性や初心者も惹きつけている。このeスポーツ人気。まだまだ成長しそうだ。

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