中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国人はシェア経済が苦手なのか。停滞するシェアビジネス

カーシェアリングビジネスの凋落ぶりの報道が続いている。ライドシェアの中国版ウーバー「滴滴出行」でも、女性客が暴行事件に巻き込まれるなどの事件が続いている。中国は、IT技術をいち早く投入して、社会実験をしながらビジネスとして確立することを得意としていた。しかし、シェア経済のように「利用者のマナー」が絡むものについて苦戦をしているとEV知道が報じた。

 

サービス停止状態に近い北京のToGo

カーシェアリングビジネスが問題噴出であるという報道が続いている。小規模の事業者が撤退、倒産するのは、淘汰整理という必然のプロセスだが、大手と言われるToGoなどの事業者にも問題が生じている。

報道によると、利用者が北京市内でToGoのシェアカーを利用しようと専用アプリを開いたところ、ほとんどのステーションで利用できる車が0になっている。アプリでは実際に利用されている車もリアルタイムで表示されるが、その台数も少ない。わずかに利用できる車を利用しようとしても、「ガソリンが空」「現在運用停止中」などの表示が出て利用できない。現実には、サービス停止と変わらない状態になっているという。

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▲記者が実際に使ってみたToGoアプリ。ステーションはたくさんあるが、ほとんどの利用可能台数が0か1になっている(左)。利用可能な車も詳細情報を開くと、ガス欠(中)、前の利用者が駐車カードを持ち去ったため駐車場から出られないため利用不可(右)など利用できない車がほとんどだった。

 

有望視されていたカーシェア市場に暗雲

カーシェアリング市場は、2018年には37億元(約615億円)規模に達すると予測されていた。今後5年間は毎年50%前後の成長を続け、2020年には120億元(約2000億円)規模に達し、企業価値1000億元(約1兆6000億円)を突破するユニコーン企業が登場すると予測されていた。現状は、この予測がまったく信じられなくなっている。

カーシェアリング企業の多くは、EV(電気自動車)を採用していて、中国が国を挙げて推進しているEVシフトの大きな弾みになると考えられていた。さらに、カーシェアリングは、私有からシェアへの転換を図るシェアリング経済の弾みにもなる。この両方で、カーシェアリングのつまづきが大きな影響を与えそうだ。

現在、シェアリング経済関連の190社に対して、1159.56億元(約1兆9000億円)の投資資金が集まっているが、カーシェアリング関連の投資は764.59億元(約1兆2700億円)で、シェアリング経済全体の投資の2/3を超える。投資家の間でも、シェアリング経済への見方が大きく変わる可能性がある。

 

問題は「ずさんな運営」と「利用者のマナー」

EV知道は、ここまでカーシェアリング企業が問題続出なのは、一言で言ってずさんなビジネス設計と利用者の民度の低さにあると断言している。経済成長に伴って、中国人の公共マナーは驚くほど改善されてきたが、人の目がない車内ではまだまだ改善されていないというのだ。

EV知道は、カーシェアリングの問題点を5つ挙げている。

 

1)投資資金だけでは運営資金が賄えない

カーシェアリング企業は大量の投資資金を集めているが、そもそもが大量の運営資金、修理費用、メンテナンス費用、保険費用などを必要とするため、投資資金だけでは足りていない。追加投資を得るか、速やかに黒字化する必要があるのに、シェアを拡大することに集中をしていて、投資資金がショートし始めている。

 

2)利用者のマナーが悪すぎる

管理が行き届いていないため、車体に傷がある、車内から嫌な臭いがするということが少なくない。さらに、ゴミも散乱していることがある。特に、中国特有の状況として、スイカやカボチャの種の殻が散乱している。中国では、スイカやかぼちゃの種を炒って、歯で種を割って中身を食べる習慣がある。現在でも、おやつとして食べられている。この殻が散乱してしまい、細かいために掃除をしてもなかなか取りきれない。

 

3)管理と責任の所在が明確にされていない

利用者が交通事故を起こした場合、利用者とカーシェアリング企業の責任分担が明確にされていないので、どちらが修理費用などを支払うかでトラブルが続出している。最近、天津市の浜海新区で、GoFunのシェアカーがガードレールに貫通するという大事故が起きたが、利用者は、車両を放置して、そのまま逃げてしまった。この車両の撤去費用、修理費用をどうするかで、GoFunと利用者の間でトラブルになっている。

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天津市で起きた重大事故。運転手は命に別状がなく、そのまま現場を離れてしまった。撤去作業などを誰が負担するかで、利用者とGoFunの間でトラブルになっている。

 

4)駐車場が圧倒的に足りていない

中国の都市はどこでも駐車場不足に頭を悩ませている。そのため、シェアカーが歩道などに勝手に駐車してしまう現象が相次いでいる。シェアリング自転車の成長期にも、歩道などに乱雑に駐輪される現象が社会問題となったが、自転車の場合は、ボランティアがどかして通行スペースを確保するということができた。しかし、自動車の場合はそうはいかない。解決が難しい問題になっている。

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山東省煙台で発見された「シェアカーの墓場」。実際は公共駐車場なのだが、まったく整備されていないため、車が捨てられているようにしか見えない。タイヤも持ち去られている。

 

5)料金体系が複雑で、追加料金が高い

多くのカーシェアリング企業の料金体系が複雑になっている。少しでも多くの会員を獲得するため、最低料金を安く見せるために、料金体系が複雑なものになっている。これが「使ってみたら、想像したより高かった」という利用者の反発を招いている。

例えば、ToGoのショート利用では、1時間単位で料金が計算されるが、1分でも1時間と計算され、8時間をすぎると1日として計算される。すべてが繰り上げ計算になっているのだ。

また、他のカーシェアリングでは、1日に利用する距離をあらかじめ200kmまで、300kmまで、制限なしの3種類から選べるようになっていて、短距離の設定にするほど、時間料金が安くなる仕組みになっている。ところが、200kmの設定にしておいて、実際の乗車距離が200kmを超えた場合は、1kmあたりの超過料金が必要となり、かなりの割高料金になる。

さらに評判が悪いのがキャンセル量だ。利用24時間前以前であっても、基本料金の20%のキャンセル料、24時間以内では50%のキャンセル料というのが一般的。

 

良質の行動を引き出すデザイン感覚がない中国

EV知道は、「ずさんな運営」と「中国人のマナーの低さ」の問題を指摘しているが、日本のカーシェアリングは、マナーよく使った人にポイント付与などのインセンティブを与える工夫をしている。また、米国のライドシェア「ウーバー」や民泊「Airbnb」では、相互評価の仕組みを取り入れ、マナーの悪い提供者、利用者は自然に排除されていくデザインになっている。いずれも、良質の行動を引き出すデザインをしていて、これがシェアリングエコノミーの成否の鍵となっている。

ところが、中国のライドシェア「滴滴出行」やカーシェアリングでは、このような「良質の行動を引き出すデザイン」がほとんど用いられていないか、形骸化している。EV知道もこの点を指摘していない。ひょっとしたら、中国人の発想の中には「デザインを工夫することで、良質な行動を引き出すことができる」という発想がないのかもしれない。だとしたら、シェアリング経済は、中国の大きな弱点になる。

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▲街に自転車が溢れて大騒ぎをしたシェア自転車も、現在では駐輪スペースが設置され、マナーよく使われている。それでも、ボランティアが常に違法駐輪自転車を移動している。自転車は人手で移動できるのでなんとかなっているが、自動車の場合、そう簡単には解決できない。