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街の果物屋さんが新小売戦略。オンライン売上30%の「百果園」

アリババが提唱している新小売戦略。実体店と宅配ECを巧妙に組み合わせた「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)が好調だ。他企業も同様の新小売業態に参入しているものの苦戦をしている。その中で、街の果物屋さんとして知られる「百果園」が新小売戦略に成功している。その秘訣は、実店舗を起点にしていることだと打靶商学院が報じた。

 

新小売戦略を成功させている街の果物屋さん

百果園の店舗だけを見ると、ただの街の果物屋にしか見えない。しかし、全国に2400店舗を展開し、店舗売上40億元(約660億円)、宅配EC売上20億元(約330億円)という、隠れた「新小売」(ニューリテール)チェーンに成長している。ネット会員はすでに400万人を突破する。

新小売とはアリババが提唱し始めた新しいビジネスモデルで、ECサイトと実体店舗を融合して、両者の「いいとこ取り、悪いとこ捨て」を図ろうというもの。ECサイトはすでに成長の限界に達していて、これ以上の成長を望むには、日用の生鮮食料品を販売するしかない。しかし、生鮮食料品は品質のばらつきが大きいので、現物を見ずにECで購入する人は少ない。

アリババが展開する新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)では、半径3km以内に最短30分配送する。消費者は、専用アプリから宅配注文することも、店舗に行って自分で買うこともできる。店舗に行くことにより、生鮮食料品の品質を知ることができるので、安心して宅配注文ができるようになる。

フーマフレッシュでは、60%が宅配EC注文であり、単位面積当たりの売上は同規模既存スーパーの3.7倍という成功を収めている。

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▲見た目はちょっと小ぎれいな街の果物屋さん。しかし、売上の1/3が宅配ECという新小売戦略に成功している。

 

「店舗+直販サイト」では新小売ではない。融合がカギ

多くの小売業が、店舗展開もしながら、同時に直販宅配ECサイトも展開している。これと新小売は似て非なるものだ。直販サイト方式では、店舗とは別に配送センターから出荷をする。そのため、生鮮食料品の場合、店舗に置いてある商品と同じ品質であるかどうかはわからない。また、遠方の配送センターからの配送になるので、30分配送などという短時間配送が難しい。さらに、多くの場合、直販宅配と店舗で価格が異なったり、配送料が必要になったりする。このような理由で、店舗で買う人でも宅配ECを利用しようとする人は少ない。

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▲百果園のシンボルともなっているスイカの彫刻ディスプレイ。

 

品質の標準化を徹底したことで、EC注文が可能になった

百果園も当初は、店舗運営と宅配運営を別に行っていたが、2016年に運営を一本化した。そこからわずか2年で、宅配EC会員数400万人を突破するところまで成長した。

その成功の理由は、まさしく新小売戦略に沿ったものだった。まず、百果園は以前から果物の品質の徹底した標準化を行なっていた。これが百果園の店舗の魅力ともなったが、新小売化するときにも大きなメリットとなった。

百果園が行った標準化は、「産地の標準化」「鮮度管理の標準化」「品質管理の標準化」だ。

百果園は、国内に200以上の農場を有していて、そこから90%の果物が供給されている。また、輸入果物に関しても米国、英国、アルゼンチンなどの16カ国の企業と契約をし、直接輸入をしている。

さらに、すべての果物をデータ入力し、品種、倉庫での保存期間、天候などの情報から、販売期限を設定。これを過ぎたものは店頭から撤去することを徹底している。また、百果園は「四度一味一安全」をアピールしている。「糖度、鮮度、脆度、きめ細かさ」「香り」「(農薬などの)安全性」だ。これをただアピールするだけでなく、この基準によって、商品を最低でも5等級に分類し、価格を変えて販売をしている。高級果物によっては18等級に分類しているものもある。

ここまで徹底しているので、宅配ECからでも安心をして注文ができるのだ。

f:id:tamakino:20181003191203p:plain百果園の店内。果物の品質を標準化し、細かく等級に分けてあるため、スマホからでも安心して注文できるようになった。

 

店舗を起点にネット会員をプロモーション

もうひとつは、あくまでも店舗を起点にビジネスを構築していることだ。ネット会員を獲得するには、さまざまなプロモーションを行う必要があり、中国のネット会員の場合、一人の会員を獲得するコストはだいたい100元(約1600円)程度だと言われる。ところが、百果園の場合、獲得コストは2元(約30円)以下なのだという。その秘密は、あくまでも店舗を起点にしていることだ。

百果園の宅配ECの会員は、SNSやプロモーションサイトから流れてくる人が50%いるが、残りの50%は店舗からなのだ。つまり、店舗で宅配EC会員のプロモーションを行い、専用アプリのダウンロードを勧める。決め手となるのは、重たいスイカなどを大量に買ったお客さんに「宅配もできますよ。価格も同じです。配送料も不要です」というトークだ。品質は目の前で確認している、店舗の果物が配達される、自分で重たいものを買って帰る必要はない。多くの人が、これでネット会員になっていく。

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店舗は倉庫兼ショールーム

アリババのフーマフレッシュも、まずは店舗にきてもらい、品質を知ってもらった上で、「重たいものを持ち帰ることなく、宅配できる」というところから会員を獲得していく。新小売戦略においては、店舗が重要な戦略拠点であり、そこは倉庫でありショールームであるのだ。