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簡単ではない自動運転ロボタクシーの事業化。試験運行を始めている6社の事業化戦略とは

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明日、vol. 083が発行になります。

 

今回は、ロボタクシーについてご紹介します。

ロボタクシー、ロボバス、ロボトラックという3分野の自動運転サービスが本格化をしてきました。どの企業も、自動運転サービスは次のような段階を経て、サービスが開始されます。

1)閉鎖区域による試験走行

2)開放区域(公道)による試験走行

3)希望する乗客(モニター)を乗せた試験運行

4)誰でも乗れる試験運行(全面開放)

5)常態運行(無料)

6)営業運行(有料)

現在、ロボタクシーで営業運行(乗車賃を取って乗客を乗せる)の段階に進んでいる企業はありませんが、百度バイドゥ)が常態運行の段階まで進んでおり、営業運行目前となっています。この他、他の企業も公道による試験運行まで進んでいる企業が複数登場しています。

 

ロボタクシーには技術面の難しさもありますが、もうひとつ大きいのがビジネス面の難しさです。ロボタクシーは自動運転技術を利用したタクシーですが、現在のところ、公道を乗務員なしの無人で走ることは許されていません。また、自動運転のL4レベルの技術が開発目標となっているため、完全な無人運転ではありません。L4自動運転は、「一定条件下での自動運転」であって、その条件を外れる場合には人が運転する必要があり、運転可能な人が乗務しなければならないのです。

自動運転の最もわかりやすいメリットは、運転手が不要になるということで、人件費が省けるだけでなく、バッテリーの充電なども自動化できれば、何十時間でも連続して稼働ができるという点にあります。

しかし、運転をしない安全監視員とは言え、人が乗務しなければならないのであれば、このメリットがあまり活かせません。

ロボタクシーの製造コストは、一般の乗用車に比べて数倍にもなります。つまり、安全監視員を乗務させた状態では、人が運転するタクシーと比べて、ビジネス的な競争力がないどころか、むしろ不利なのです。

この問題をどうやってクリアして、お金をとって営業運行を軌道に乗せるか、そこが議論されるようになっています。

 

結論から言うと、ロボタクシー、ロボバス単体のビジネスとして利益を出そうと考えているところはほとんどありません。他の交通機関やサービスと組み合わせることで、サービス全体の価値を高め、利益を出そうと考えているところがほとんどです。

例えば、ライドシェア企業の滴滴(ディディ)は、上海市でロボタクシーのモニター乗客による試験運行を行なっています。滴滴によると、サービス提供都市を拡大していき、2030年までに100万台のロボタクシーを走らせる計画だと言います。

しかし、当然ながら、上海市のどこでも走れるわけではありません。上海市が許可した嘉定区の10km四方のエリアの中だけで、しかも大通りのみです。この地域は上海虹橋空港上海国際サーキットがあるエリアで、道路は広く整備されていて、なおかつ交通量はさほど多くない地域です。

この自動運転可能エリアは徐々に広げられていく予定で、エリアとしては上海市全域に広がることはあっても、通行できる公道には一定の制限をかけざるを得ません。いわゆる「裏道を通り抜ける」というのは、自動運転技術にとってハードルが高いのです。いくら高性能のセンサーをつけ、人工知能が判断をしたとしても、ブラインドになっている路地から急に子どもが飛び出てきたら、止まることはできません。

つまり、ロボタクシーは、人間の熟練した運転手のように細い道を通って家の前まで乗りつけてくれるわけではなく、ある程度の広さのある幹線道路のみを走行するバスとタクシーの中間的な交通ツールにならざるを得ません。

滴滴がこの問題をどのように解消していくかは明らかになっていませんが、タクシー配車、ライドシェア、シェアリング自転車、ハイヤー、バスとさまざまな移動サービスを提供しているので、それらを組み合わせたMaaS(マース)サービスを構築していくと見るのが自然です。ロボタクシーはそのひとつのツールということになります。

滴滴はまだ具体的にどのようなサービスを提供するかはアナウンスしていませんが、多くの人が望んでいるのが「一鍵出行」「一鍵回家」サービスです。ワンタップで出かけられる、ワンタップで家に帰れるというサービスです。

例えば、市内のどこかにいて、地図アプリで「一鍵回家」ボタンをタップすると、自宅までのルート検索がされて、「地下鉄→ロボタクシー→シェアリング自転車→徒歩」などという乗り継ぎルートが表示され、同時に予約が入ります。地下鉄の駅を降りるとロボタクシーが待っている。ロボタクシーがシェアリング自転車ステーションに着くと、利用可能なシェアリング自転車が用意されているという具合です。

ルート検索した時に、必要な交通ツールが確保され、待ち時間なしで乗り換えて移動できるというのがポイントです。それであれば、何種類かの交通ツールを乗り換えしなければならなくても、高い利便性を提供することができます。滴滴はそれだけのサービスを提供できるリソースを持っているので、月額定額制のような移動サブスクも可能になってきます。

このように、ロボタクシーを人間のタクシーのリプレイスではなく、利用シーンを限定したバスとタクシーの中間的存在と割り切ることができれば、環境が整った公道走行のみでも利用価値が生まれます。また、技術開発が進めば、5G通信によるリモート監視や、安全監視員の乗務も不要になる可能性が見えてきます。

 

現在、ロボタクシー事業を積極的に進めているのは、滴滴の他、長年自動運転技術の開発を進めてきた百度があります。また、スタートアップ企業として、小馬智行(シャオマー、Pony.ai)、AutoX、文遠知行(ウェンユエン、WeRide)、元戎啓行(ユエンロン、DeepRoute)などがあります。

面白いのは、最初はどの企業もL4自動運転技術の開発を目指していたのに、それが実用段階まで成熟をしてくると、ビジネス化という課題に直面するようになり、それぞれに戦略が異なってきたことです。それぞれの企業が、それぞれに自動運転技術を活用したビジネス化を目指すようになっています。

中国の一般的な新しいビジネスでは、無数の企業が参入をしてきて、そこで競争が起こり、倒産した企業はより大きな企業に吸収されるという淘汰整理が行われ、最終的に2社、3社が市場を支配するようになるというパターンが多いのですが、ロボタクシーの分野では、それぞれが棲み分けをしていくことになるかもしれません。

そこで、滴滴は先ほど触れましたので、百度と先ほどご紹介した4社がどのようなビジネス化戦略を考えているのかをご紹介します。

 

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