中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ライバル登場で競争が激化し始めた自動運転市場。鍵になるのは高精度地図の存在

世界の自動運転は、米ウェイモーと中国の百度がリードをしている。百度ではすでに複数都市で事実上のロボタクシー営業運行を始めている。しかし、シャオミ、ファーウェイなどの参入により、自動運転市場の競争が激化をしている。この競争の鍵を握るのは高精度地図の存在だと派財経が報じた。

 

進む自動運転ロボタクシー、自動運転乗用車

すでに北京市など複数の都市でロボタクシーの営業を始めている百度バイドゥ)が、自動運転車事業を加速させている。

自動運転の重要な要素である百度地図は、これまで百度の王海峰CTOが責任者だったが、百度智能運転事業群(IDG=Intellignet Driving Group)に移管をされた。これで百度IDGが自動運転技術と百度地図の両方を統括することになり、自動運転事業が加速すると見られている。

また、昨2021年3月に設立した自動車製造子会社「集度汽車」(ジードゥー、https://www.jidu.cn)では、すでにコンセプトロボカー「ROBO-01」を発表している。


www.youtube.com

▲自動車メディア「汽車之家」による試乗体験ビデオ。雨の降っている夜間の試乗。途中で前方で事故が発生し、迂回をするため、手動運転に切り替えることが行われた。

▲まだコンセプトの段階だが、集度汽車ではロボカー「ROBO-01」を発表した。

 

自動運転の鍵になる高精度地図事業

自動運転事業を進めるには地図アプリケーションがきわめて重要になる。その点、百度地図はじゅうぶんに成熟をしてきた。2005年にスマホアプリなどの形でリリースされ、2021年4月の時点で月間アクティブユーザー数(MAU)が3.89126億人となり、これは高徳地図の4.77489億人に次ぐものだ。百度地図以外のテンセント地図、捜狗地図のMAUはいずれも1億人以下であるため、地図アプリは高徳地図と百度地図の2つが主要なものとなる。

https://www.toutiao.com/video/7108686519166370312/

百度地図と高徳地図の比較映像。ルート選択などはかなり違いがある。

 

自動運転の鍵を握る高精度地図

しかし、これはあくまでもスマホアプリの形で、一般の人にルート案内などの機能を提供するためのものだ。百度地図には自動運転に利用できる高精度地図も同時に開発されてきた。この高精度地図の開発のために百度地図は1000人規模のチームに膨れ上がっており、これを百度IDGが統括することになる。当然、高精度地図の開発が強化されることになる。

自動運転車はセンサーで周囲の環境を認知し、AIが運転の意思決定をするが、特殊な天候下、GPS信号が弱い状況などではセンサーの測定にも誤差が生じる。このような時、高精度地図のデータから補正をし、物体までの正確な距離、正確な現在地を知ることができる。アプリの地図は人が見るものだが、高精度地図はAIが見るものになる。

 

高精度地図のトップシェアとなっている百度地図

「智能コネクティドカー高精度地図白書」(中国コネクティッドカー産業創新連盟)では、28社の高精度地図を評価しているが、その中で高品質として認定されたのが、高徳地図、百度地図、易図通、四維図新の4つだった。

調査会社IDCのデータによると、2020年の高精度地図の市場シェアは、百度地図が28.07%、四維図新が21.61%、易図通が16.15%となっている。

百度地図はすでにデータ採集、加工の96%の工程がAIによる自動化が行われ、1.1億kmの道路、1.8億カ所のPOI(地点)、20億枚以上の360度風景写真をカバーしている。

 

ビジネス的にも重要になっている高精度地図事業

この百度地図は、百度の自動運転だけでなく、百度本体にとっても重要なプロダクトになってきている。百度の2022年Q1の財務報告書によると、百度の主要事業であるネット広告収入が157億元となり、前年同期比で4%の下落となった。2021年は12%の成長となったが、2019年は4%の下落、2020年は5%の下落と、ネット広告(検索広告+ディスプレイ広告)は時代の役割を終え、下落基調にある。百度はAIの事業を成長させないと、本体自体が縮小をするということになりかねない危機を迎えている。

しかし、2022年Q1には自動運転関連で80億元の売上を上げるようになった。ロボタクシーなどはまだ大きな売上があがる状況にはなっていないため、百度地図の高精度版を企業などに提供する法人事業が好調に成長しているものと見られる。

百度という会社にとっても、百度地図が重要なプロダクトになってきている。

 

ファーウェイとシャオミが自動運転に参入

百度が自動運転の事業化を加速させているのには、華為(ホワウェイ、ファーウェイ)の存在がある。2020年10月、ファーウェイはHiCarと名付けられた自動運転+コネクティドカーソリューションを発表し、自動車メーカーに提供をし始めている。また、スマホメーカーの小米(シャオミ)も小米汽車を設立し、自動車製造に進出することを宣言している。

百度は長年にわたって自動運転プラットフォーム「Apollo」(アポロ)を開発してきたが、ファーウェイやシャオミというライバルが登場してきている。このようなテック企業との競争が厳しくなってきている。

 

EVメーカーの百度離れも頭痛の種になっている

もうひとつの問題は、新興EVメーカーの百度離れだ。5年前、自動運転プラットフォームの開発は、グーグルのウェイモーと百度のアポロの2つが中心であり、2018年には新興EVメーカーの蔚来(ウェイライ、NIO)、小鵬(シャオパン)、理想(リーシャン)は、アポロの技術導入をし、百度の投資を受けた。

しかし、当時の百度の投資の条件は厳しく、自社で自動運転技術の開発をすることを禁じた他、百度のライバル関係になる滴滴(ディディ)、美団(メイトワン)、アリババ、テンセントなどの技術を利用することを制限した。このため、「蔚小理」と呼ばれる新興EVメーカー3社は、アリペイやQQ音楽、高徳地図といった人気アプリを車載システムに搭載することができなくなってしまった。

そこにファーウェイやシャオミの自動運転プラットフォームが登場をすると、蔚小理がプラットフォームの乗り換えをする懸念も生まれてくる。

これを防ぐためにも、百度はアポロによる自動車製造を早く事業化して、自動車メーカーに広げる必要がある。その露払いとして、まずは百度地図の高精度地図を自動車メーカーに提供して、従来のカーナビの代わりに使ってもらう必要がある。百度地図を広げることが、アポロの成功の鍵となり、百度という企業の次の成長を促す鍵になってきている。

百度地図が自動車メーカーにどこまで広がるか。それにより、中国自動運転の未来の勢力図が見えてくる。