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電動自転車の発火事故が増え続けている。発火事故が減らない4つの理由

季節が暖かくなり、気温が上昇すると、電動自転車の発火事故が増え始める。安全技術は進んでいるのに、なぜ発火事故は増え続けるのか。それには4つの理由があると電動車的那些事児が報じた。

 

増え続ける電動自転車の発火事故

季節が暖かくなるとともに、電動自転車の発火事故が増えてきている。国家消防救援局の統計によると、2023年には電動自転車の発火事故は2.1万件発生し、前年に比べて17.4%も増加をした。割合で言えば、電動自転車は3.5億台あるため0.006%にすぎないが、それでも1万台あたり0.6台になり、しかも駐輪場の場合は他の電動自転車にまで延焼をするなど大きな火災事故になるために、大きな問題となっている。

さらに、悩ましいのが、室内にバッテリーを持ち込み、あるいは電動自転車ごと持ち込み充電をし、そこで火災が発生をするケースだ。集合住宅の多い中国で、住宅火災は人の命に関わる大事故になる。

▲電動自転車のバッテリーを自宅で充電し、火災事故が発生した場合、集合住宅の多い中国では大火災事故に発展するケースが多い。

 

電動自転車が発火をする4つの原因

中国の電動自転車は、自転車というより低速スクーターに近い。電動アシストではなく、電力で自走をすることができ、ペダルは一応ついているが、ほとんどの人はペダルを使わない。リチウムイオンバッテリーが搭載され、満充電で30kmから100km程度走れるさまざまなタイプの電動自転車が発売されている。

この電動自転車の火災事故が多いことから、リチウムイオンバッテリーの安全性に問題があると考える人が多い。確かにリチウムイオンバッテリーは正しく使わないと発火をする危険性があるが、現在では安全対策が進んでいる。それなのになぜ火災事故は増え続けるのか。その原因は4つある。

リチウムイオンバッテリーの火災は、燃えるではなく、爆発するに近い。破裂をした箇所から、炎がジェット噴流として吹き出し、あっという間に延焼をすることになる。

 

原因1:違法な再生リチウムイオンバッテリ

リチウムイオンバッテリーは、それまでに使われていた鉛蓄電池に比べて、エネルギー密度が高く、小さく軽くできる。ただし、問題は価格が高いことで、鉛蓄電池の2倍以上する。そのため、中には違法に再生されたリチウムイオンバッテリーを使う人がいる。

この再生品の元は電気自動車(BEV)だ。BEVは容量が80%を切ると、バッテリーを新しいものに交換する必要があるが、その古くなったバッテリーが電動自転車の違法再生品に転用されている。

交換されたBEVのバッテリーが工場の機器などにリユースされるケースは多い。しかし、その場合は、劣化度や安全性の確認を行ない、問題のあるバッテリーセルを除外して使うのが原則だ。しかし、安い再生バッテリーでは、それだけの技術がなかったり、そもそも気にしていない業者もいる。

このように劣化が進み、セルごとにバラツキがある再生バッテリーを使っていると、バッテリーの損傷が進み、火災事故につながる。

▲従来型の鉛蓄電池(右)とリチウムイオンバッテリー(左)。ほぼ同じ容量だが、リチウムイオンバッテリーは小型化できる。そのため、近年の電動自転車にはほぼリチウムイオンバッテリーが使われるようになっている。

 

原因2:違法改造バッテリーの横行

電動自転車には国家基準があり、最高時速は25km以下、総重量55km以下などの規制がある。しかし、より早く走りたい、より長く走りたいということから、バッテリーの出力電圧をあげるなどの改造をする人や、改造を請け負ってくれる業者がいる。当然ながら、バッテリーに対する負荷は高まり、火災事故が発生するリスクが高まる。

 

原因3:劣化したバッテリーを使い続ける

電動自転車のバッテリーは使い方にもよるが、3年ほどで交換時期がやってくる。多くの人は充電できる容量が少なくなることが体感できるため、新しいバッテリーに交換をするが、もったいないからと使い続ける人がいる。電動自転車は、多くの人が毎日充電する使い方をしている。スマートフォンが2日に1回程度になろうとし、電気自動車は週に2回から3回の充電であるため、電動自転車のバッテリーは劣化が早く進む。バッテリーの容量が減るということは、その分、内部で損傷が起きているということで、発火リスクの高い電池を使い続けることになる。これが火災の要因となっている。

 

原因4:充電スタンドを使わない

多くのマンションでは、市民の利便性と安全性の観点から、駐車スペースに電動自転車の充電スタンドを配備するようになっている。正規のバッテリーを使い、この充電スタンドで充電をする場合はまったく問題がない。

しかし、充電スタンドでの充電料金は家庭用電源で充電するよりも割高になる。1回の充電で2元から3元かかり、家庭用電力で充電する場合の2倍以上になる。そのため、バッテリーを外して、あるいは電動自転車ごと室内に持ち込み、充電をする人もいる。

それでも適切な充電器を使えば問題はないが、このような節約思考の人たちは、充電器も規格にあっていない安価なもので代用しようとする傾向がある。そのため、火災事故が発生するリスクが高まる。

消防局では、室内での充電で火災事故が発生した場合は、人の命に関わる大事故になる可能性があるため、電動自転車の充電は屋外で行なうように啓蒙活動を進めている。しかし、それでも室内で充電する人は、違法な充電器、違法なバッテリーを使っているケースが多く、これが火災事故が増える原因になっている。

▲マンションの駐輪場には、充電設備を備えているところが増えている。正規バッテリーを使用し、このような充電スタンドで充電する分には火災の不安はほぼない。しかし、違法なバッテリーを使ったり、自室で規格の合わない充電器で充電する人もまだ多い。

 

政府は規制を強化する

違法な再生や改造バッテリーを取り締まることで、火災事故は大きく減らすことができる。工業情報化部は「電動自転車リチウムイオンバッテリー安全技術基準」を公開し、安全検査の方法を定め、これに合格しないバッテリーは使用ができないようにした。また、「安全使用年限」の表示も求められるようになった。

違法改造したバッテリーはこの安全検査を通過できず、再生バッテリーでは安全検査を通過したもののみが流通するようになる。また、交通警察でも取締りを行なうことで、安全検査を通過していないバッテリーを使っている電動自転車を一時的に使用禁止にすることができる。この安全基準は2024年11月1日にから施行をされるため、電動自転車の火災事故は今年以降、減っていくことが期待されている。