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国潮と国風元素。中国の若い世代はなぜ国産品を好むようになったのか?

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明日、vol. 096が発行になります。

 

今回は、国潮現象についてご紹介します。

国潮とは、中国の00后(200年以降生まれ)、05后(2005年生まれ)という若い世代の間で、中国の国産品や中国の伝統文化に関心が集まっている現象のことです。

90年台から00年代にかけて、中国の伝統商品は、海外の製品が大量に入ってくることにより、人気を失い、中には数百年続いた老舗企業が倒産してしまうということも起きました。

しかし、この5年ほど、そのようなレトロな国産品に注目が集まり、倒産した老舗企業が復活をしたり、ブランドがテック企業に買われてリニューアルして評判を得るなどの現象が続いています。

中国の国産品のことは「国貨」と呼ばれますが、このような製品は「新国貨」とも呼ばれます。

 

その象徴的な商品が漢服です。中国の伝統衣装です。「Z世代の新潮流。破竹の勢いの三坑アパレル」(国泰君安証券)によると、漢服の2020年の市場規模は63.6億元(約1130億円)。平均単価は274元(約4900円)。愛好者が516万人で、年平均購入回数は4.5回となっています。アパレル産業の一ジャンルとして無視ができなくなっています。

漢服については、印象に残る個人的な体験があります。15年ほど前、あるパーティに出席をしました。きちんとしたホテルで開催されたビジネス関連の集まりです。そこにある女性が漢服を着て出席をしていました。漢服は当時はまだ珍しく、注目の的になっていました。

ところが、ある男性がやや詰問するような口調で「なぜ日本の着物を着ているのか?」と問い詰めたのです。その男性はきちんとされた方で、排外主義者のような偏った考え方を持っている人には見えません。私が驚いたのは、日本人の私ですら漢服というものを知っているのに、その男性は漢服というものを知らず、日本の和服との区別がついていなかったということです。

揉めごとに発展するようなことはありませんでしたが、聞いてみると、当時は、多くの中国人が漢服というのも見たことがなく、よく知らないということでした。つまり、忘れられた文化だったのです。

 

それが復活をしたのは、テレビドラマとスマホゲームの影響です。王朝の恋愛と権力闘争を描いたドラマや女性向け恋愛ゲームが次々とつくられ、漢服を着たヒロインが登場します。漢服を知らない若い女性には新鮮なファッションに映ったのでしょう。

それを見て、最初は二次元(コミック+アニメ+ゲーム)イベントでのコスプレ衣装として着られるようになり、次第にパーティー服として、室内着として着られるようになり、最近では外出着としても着られるようになっています。

数年前、北京の流行感度の高い地域のひとつである三里屯(サンリートゥン)で、漢服を着て歩いている二人連れの女性を見かけたことがあります。すごく目立っていて、振り返る人もたくさんいましたが、別に珍しくないと言わんばかりに気にしていない人もいます。外出着としての漢服はまだまだ珍しい存在ですが、大都市では時折目にするぐらいには広まっているようです。

 

このような新国貨が産業をも変えています。元々、服飾工場が集まっていた山東省曹県は、今では「漢服の里」と呼ばれています。元々はカジュアルウェアを生産する工場が集まっていた地域ですが、2020年のコロナ禍により多くの工場が生産を停止し、仕事もなくなりました。

これでは倒産をしてしまうと、地元業者が注目をしたのが漢服です。一部の工場では以前から漢服を製造していて、漢服工場は仕事が途切れなかったのです。そこで、多くの工場がカジュアルウェアから漢服製造に転換をしました。漢服は衣類の構造としてはシンプルなので、製造技術の習得も早く、同時に趣味の服であるため単価が高いのが魅力でした。

さらにEC「京東」(ジンドン)でレディース衣類専門店を出店している「昌泰」が伝統的な漢服だけでなく、現代的なアレンジを加えた漢服をデザインし、曹県の服飾工場に製造を委託することで、ヒット商品を生み出しています。曹県では、漢服を製造する服飾工場が600軒を超えています。

 

同じような新国貨がいくつも生まれています。有名なのは1931年に創業した化粧品メーカー「百雀羚」(バイチュエリン)です。ハンドクリームが最も有名で、現在でも創業当時とほぼそのままのレトロなパッケージで販売されています。レトロさだけでなく、天然素材のみを使っているという点が受け入れられています。

百雀羚も、80年代から00年代までは、海外の高級化粧品が入ってきたため、「おばあちゃんが使うハンドクリーム」というイメージになり、売上は低下をしていき、いつ倒産してもおかしくない状態が続きました。しかし、2010年代半ばから売上が回復するようになり、2019年にEC「ピンドードー」に出品したことで火がつきました。

百雀羚はこのチャンスをとらえ、SNSの消費者のメッセージを分析するチームを設置し、ライブコマースなどの手法も取り入れ、若い女性の定番商品としての地位を固めつつあります。

 

同じく1927年に創業した靴メーカー「回力」(ホイリー)も国潮により復活をしたブランドです。老舗のスポーツシューズメーカーで、サイドに赤いF字型のラインが入っているのが特徴です。

一時は広く普及をしましたが、経済が豊かになるとともに忘れられていきました。中年にとっては「小学校や中学校の体育の時間に履いていたダサい運動靴」のイメージです。そんな運動靴よりも、誰もがナイキやニューバランスを欲しがり、回力は一度倒産をしています。投資資金を得て一度復活していますが、それもうまくいかず再び倒産。

それが国潮により、三度目の正直で、ナイキやニューバランスと並ぶ定番ブランドのひとつになりました。中年にとってはダサい運動靴であっても、若い世代にはレトロでおしゃれなスニーカーに映っているのです。

 

このような国潮の広がりは、商品だけではありません。若い世代の国内旅行でも、中国の近代遺産をめぐる旅行が好調です。博物館、美術館などの人気も高まるなど、体験の領域でも国潮が起きています。「国産品からヒット商品が出ている」という小さなトレンドではなく、ここ5年から10年は続く、大きなトレンド、傾向であることは間違いありません。

勘違いをしてはならないのは、「海外製品を拒否する」という排他的なナショナリズムのような感覚はまったくないということです。2020年には、米国トランプ政権の下、米中貿易摩擦が起き、ファーウェイやTikTokが排除されるという現象が起きました。これと結びつけて、中国市民は報復的に海外製品を拒絶しているという見方もする人もいますが、当の若い世代の中国人たちにはそんな感覚はありません。ごく少数、そんな人もいるかもしれませんが、実際に若い中国人にこの見方を話してみると、だいたい爆笑して「日本人、考えすぎ」という反応をします。

日本でも、歌舞伎や大相撲、古典落語、和服といった日本伝統の芸能や文化に親しんでいる若い人はたくさんいます。その人たちは、別に海外が嫌いだから日本の伝統芸能にハマっているわけではありません。素直に、面白いからハマっているだけで、アート好きや洋楽好きと同じ目線で日本の伝統を好きになっています。それと同じです。

ただ、自国の伝統文化に触れるということは、その体験を通じて、自分のルーツを確認したり、自国に対する畏敬の念を湧き起こしてくれる面があって、他の趣味とはまた異なる味わいがあり、それがますますハマる要因になっている面はあると思います。しかし、それは海外排斥といったような心の狭いナショナリズムとはまったく別次元のものです。

 

しかし、この国潮現象は、日本のビジネスにとっては頭の痛い問題です。若い世代が国産品を好むということは、相対的に海外製品である日本製品が売れなくなるということです。実際、日本の自動車、家電製品、化粧品、衛生用品などはブランドとして確立をし、人気を集め、爆買い現象を起こし、越境ECでも好調な売上を誇っていましたが、その多くが、伸び悩みを見せるようになっています。

国産品の人気が高まっているといっても、海外製品がまったく売れないというわけではありません。この国潮の中で、日本製品を売るには、まず中国人が国産品のどのような面に注目をして選んでいるのかを知る必要があります。

そこで、今回は、この国潮現象が起きている理由を探り、若い世代の中国人がなぜ国産品を選ぶのかを考えてみたいと思います。

 

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