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ラッキンコーヒーの隣りにはクーディーコーヒー。2つのカフェチェーンの因縁を利用した賢すぎるバイラルマーケティング

ラッキンから追放された創業者コンビがクーディーコーヒーを創業した。そのクーディーはラッキンの隣りに出店することが多く、ラッキンへのリベンジだと話題になっている。しかし、賢いバイラルマーケティングだと評価されていると極海品牌監測が報じた。

 

スターバックス陥落。伏兵クーディー登場

中国では、店舗数No.1の瑞幸珈琲(ルイシン、Luckin Coffee)とスターバックスが激しい店舗拡大競争を繰り広げている。スターバックスが2025年までに300都市9000店舗に拡大をする計画を発表すると、ラッキンも対抗して店舗数の再拡大を始め、2023年8月末現在でラッキンは11764店舗、スターバックスは6615店舗と再び店舗数に差がつき始めている。さらに、2023年6月期の営業収入は、ラッキンが8.55億ドル、スターバックスが8.22億ドルと、ラッキンが初めてスターバックスを抜いた。

さらに、ここに庫迪珈琲(クーディー、COTTI COFFEE)が競争に加わってきた。2022年10月に創業でありながら、まだ1年も経っていないのに、すでに5098店舗と急拡大をしている。しかも、クーディーは露骨にラッキンをターゲットにして、対決姿勢を強めている。

スターバックスが2025年までに9000店舗に拡大をする計画を発表すると、ラッキンは出店ペースを加速。1万店舗を突破してしまった。

▲2023年Q2で、営業収入でもラッキンはスターバックスを抜いた。

 

カフェの痛点を解決して成長したラッキン

このラッキンとクーディーの対決は大きな話題になっている。2つのカフェが隣り合っていることも少なくなく、価格設定も似ており、露骨な対決姿勢をとっていることもあるが、2つのカフェには浅からぬ因縁があるのだ。

ラッキンは、陸正耀(ルー・ジャンヤオ)と銭治亜(チエン・ジーヤー)の2人が2017年に創業をし、わずか2年でスターバックスの店舗数を上回り、中国で店舗数No.1のカフェチェーンとなった。

その武器となったのが、当時はまだ誰もやっていなかったモバイルオーダーを全面的に取り入れたことだった。どこのカフェも、注文の行列に並び、コーヒーができるのを立ったまま待っていなけれならない。最悪のユーザー体験だったが、多くのカフェでは「それがカフェのやり方」と考えて改善しようとしなかった。ラッキンはモバイルオーダーを基本にし、先に注文をしてから取りに行けば、待たずに受け取れる。

さらに、スターバックスのサードプレイス戦略(自宅、職場以外の居場所)の逆をいき、テイクアウトを基本にしたスタンド店を展開した。店舗コストが抑えられ、その分をコーヒー豆の品質に振り、「価格はスターバックスの半分でも味は同格」という評価を獲得した。そして、2019年5月には米ナスダック市場に上場した。創業してまだ3年も経っていない成功だった。

 

ラッキンの創業者が創業をしたクーディー

ところが、2020年に不正会計が発覚をした。一部の取締役と株主が、株を売却することで不正な利益を得ようとして営業収入の水増しを行なった。この問題により、ナスダックからは上場廃止となり、銭治亜CEOは退任、陸正耀も資本関係を断つなどの経営責任を取った。しかし、ラッキンのファンたちの心は離れなかった。一時、店舗数を減らしたものの、再び拡大をし、現在では売上高もスターバックスに迫ろうとしている。

不正会計には関与せず、苦労して育てたラッキンを手放さざるを得なくなった陸正耀と銭治亜は、ラッキンの立ち上げに関わった創業チームを再結集して、クーディーを創業した。つまり、クーディーは創業者2人の追い出された古巣に対するリベンジなのだ。

 

ラッキンの近隣をねらって出店するクーディー

このクーディーとラッキンの骨肉の争いは、SNSでも大きな話題になっている。なぜなら、クーディーはラッキンの隣りに出店をすることが多いからだ。

これはたまたま隣りにあった店舗がSNSで話題になったということではなく、クーディーの明らかな戦略だ。現在、北京市には20店舗のクーディーが出店をしているが、その40%はラッキンの店舗から50m以内にあり、30%は100m以内にある。平均距離は114mになる。これは他の都市でも同様で、さすがに「隣り」とまでは言わなくても、近接した場所に出店をしている。

しかも面白いことに、クーディーの全店舗の66%がラッキンの店舗から200m以内に位置しているのに対し、スターバックスに対しては43%の店舗、ラッキーカップに対しては23%、マナーに対しては11%しか200m以内に位置していない。明らかにラッキンのそばに出店をしているのだ。

SNSにはラッキンとクーディーが隣り合っている写真が多数投稿されている。この例では、クーディーの店舗に「ラッキンの創業者が8.8元でコーヒーをご馳走いたします」という皮肉な横断幕が掲げられている。

 

ラッキンをアンテナとして利用するクーディー

これはクーディーの創業者が、ラッキンから追い出されたという恨みが深く、ラッキンをつぶしにかかっているのだろうか。SNSではそういう意見を表明して面白がっている人もたくさんいる。

しかし、マーケティングの専門家たちはそうは見ていない。ビジネスを個人の復讐に使っても、誰も得をしないからだ。そうではなく、これはクーディーの賢いバイラルマーケティンだと見ている。

ひとつは、クーディー対ラッキンという図式を描くことで、新興のクーディーの認知率が一気にあがる。「面白そうだから、飲み比べてみよう」と考えてクーディーにやってくる消費者は多く、SNSではどちらのコーヒーが美味しいかが話題になっている。

もうひとつは、スタートアップ企業にとって大きく荷の重い仕事を省くことができることだ。それは市場調査だ。出店をするには、そこに出店をしたとしたら、どのくらいの客がきてくれるかをあらかじめ調べておかなければならない。この調査には大きな膨大な手間がかかる。カフェなどない場所にカフェがあったらどのくらいの客がくるかということを考えなければならないのだから、高い専門知識を必要とする調査になる。特に人も資金も限りがあるスタートアップ企業にとっては荷が重い。そこで、多くのスタートアップは精度の低い調査に基づき出店をし、実際の売上を見て市場を理解し、失敗をした店舗は閉店をし調整をしていくという高い代償を払うことになる。

ところがクーディーはこの代償を支払う必要がない。市場調査をするには、価格帯もコンセプトも似ているラッキンの客数を数えればいいのだ。すでに営業をしている店舗の客数を数えるという、これ以上ない正確な市場調査が可能になる。

これにより、クーディーは短期間に大量の出店をすることができている。

▲クーディーの店舗の66%が、ラッキンコーヒーの店舗が200m以内にある位置に出店されている。他ブランドが200m以内にある店舗割合は小さく、明らかにラッキンの近くに出店をしている。

 

空白になっている二線都市をねらう

しかし、このようなコバンザメのような戦略では、ラッキンに追いつくことはできるかもしれないが、ラッキンを追い越すことはできない。そこでクーディーは二線都市の出店に力を入れている。なぜなら、スターバックスとラッキンは一線都市、新一線都市が中心で、ラッキーカップ三線都市が中心となっており、二線都市が空白地帯になっているからだ。

つまり、一線都市、新一線都市ではラッキンに密着し市場調査を省き、二線都市では市場調査の少ないリソースを集中させて出店をしている。これにより、急速出店が可能になっている。

カフェ競争は、さらにケンタッキーフライドチキン(KFC)が9.9元という低価格で参入し、コンビニも参入をしている。カフェ競争が戦国時代のような様相を呈し始めている。

▲ラッキン、スターバックス、ラッキーカップの都市級別店舗比率。地方中核都市である二線都市が空白地帯になっている。