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トラフィックプールとは何か。ラッキンコーヒーのマーケティングの核心的な考え方

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今回は、ラッキンコーヒーのマーケティングついてご紹介します。

 

「瑞幸珈琲」(ルイシン、Luckin)が、店舗数だけではなく、2023年Q2(自然年)の売上でもスターバックスを追い越したという話はみなさんすでにご存知だと思います。両社ともQ3(7-9月期)の業績発表がされたばかりですが、ラッキンは986.8百万ドル、スターバックス(中国)は840.6百万ドルと差が開きつつある状態です(後ほど売上推移のグラフをお見せいたします)。

このラッキンの創業者と創業チームが「庫迪」(クーディー、COTTI COFFEE)という新しいカフェチェーンを立ち上げ、中国内でも創業1年で5000店舗を突破し、日本でもすでに2店舗を展開するという素早い動きを示しています。東京の池袋西口(旧北口)と本郷に出店をしています。さすが、ラッキンの創業チームだけあって、オーダーモデルは非常によくできています。

まず、アプリからの注文ではモバイルオーダーとデリバリーが可能です。アプリは携帯電話番号だけでアカウントが登録でき、決済方法はApplePay、GooglePay、アリペイ、PayPalなどを選ぶだけです(クレジットカードも利用できますが、最初はカード番号を登録しなければなりません)。デリバリーは現在地にピンが立つので、公園などで受け取りたい時はそのまま注文することができます。自宅やオフィスではピンの情報でとりあえず注文をしておき、後から正確な住所を補完することが可能です。この辺りの「アプリを入れてからすぐにオーダーできる」簡単さを実現しているのは、非常に中国的です。

日本のアプリは、いまだにアカウント名とパスワード、さらには住所や年齢などまで入力をしないとアカウントがつくれず、ApplePayなどに対応しているサービスもまだ少ないため、クレジットカード番号を入力しなければなりません。使い始めるまでに疲れてしまい、途中で嫌になってしまいます。

これはクレジットカードがキャッシュレス決済の中心になっていることによる弊害です。クレジットカード番号を入力するため、流出事故を防ぐためにそれなりのセキュリティ対策を行わないと、事故が起きた時に事業者側の責任が問われます。そのため、パスワードや二要素認証を使い、なりすまし利用ができないようにしなければなりません。しかし、アリペイ、ApplePay、GooglePayのような外部の決済システムを利用すれば、決済のたびに決済側で顔認証や指紋認証などで本人確認をするため、アプリのセキュリティは簡素化できます。もし、悪人が他人の携帯電話番号で勝手に注文をしたとしても、決済ができないので事故になりません。

特に、モバイルオーダーを使うようになるのは、店舗に行ってみたらものすごく長い行列ができていて、さすがに並びたくないということがきっかけになることが多いのです。その時、店内のポスターなどでモバイルオーダーに誘導をし、なおかつ店内に無料WiFiがあれば、アプリをインストールしてくれる確率は非常に高くなります。この導線では、店舗内かその近辺で立ったままスマートフォンを操作することになりますから、登録内容を極力少なくして、すぐに使えるようにすることが必須なのです。

人混みの中で、クレジットカードを取り出して、その番号を入力するなどということはしたくありません。日本ではApplePayかGooglePayに対応することが必須です。性別や年齢、職業などというデータを取りたいのであれば、後で取ればいいのです。「情報を補完していただければコーヒー1杯無料クーポン進呈」などとプッシュすれば、多くのユーザーが喜んで入力しますし、リピートをさせるきっかけにもなります。

日本のサービスはこういう「ユーザーのシナリオ」のような部分で雑なものが多いように感じます(核心チームがアプリを設計するのではなく、開発会社に委託をしてしまうのが原因だと思います)。さすがクーディーは中国のチェーンだけあって、この辺りは賢く設計されています。

 

ただし、商品に関しては難しいものを感じました。ウリになっているのは日本では珍しいココナッツラテとアメリカーノエスプレッソのお湯割り)で、味は間違いなく合格点ですが、図抜けた印象に残る味かというとそこまではいきません。いわゆる「普通に美味しい」という感じです。カフェとしては美味しい部類であることは間違いありませんが、問題は価格です。ココナッツラテが570円、アメリカーノが450円、アレンジコーヒーは600円台になります。現在はオープン記念で180円または100円の価格なので行列ができている状態ですが、通常価格に戻すとかなり厳しいのではないかと思います。

日本人は、スターバックスやブルーボトルのような「快適な場所でコーヒーを飲みたい」というニーズが強く、スターバックスが400円前後であることを考えると、クーディーのイートイン感覚、ピックアップ店舗感覚のコーヒーはかなり割高に感じるのではないでしょうか。

あるいは、中国のラッキンやクーディーのように、さまざまなクーポン施策を打ち続け、定価で飲む人などいないという状況をつくりだそうとしているのかもしれません。だとしたら、日本のカフェ業界に大きな波乱を起こす台風の目となる可能性もあります。しかし、オープン記念が終わってあっさり定価に戻してしまうのであれば、かなり苦しい状況になるかと思います。

 

日本でのクーディーがどのような展開になるのかはまだわかりませんが、ラッキンがカフェのあり方を大きく変えたことは間違いありません。ところで、なぜラッキンはスターバックスを追い越すほどにまで成長することができたのでしょうか。理由はいろいろあります。コーヒーの品質が高く美味しいということ。中国でもまだ珍しかったモバイルオーダー+ピックアップorデリバリーという新しい消費スタイルを打ち出したことの2つが主な理由で、そのことは、「vol.009:潜在顧客を掘り起こし、リピーターを育成するモバイルオーダー」「vol.114:スターバックス中心のカフェ業界に激震。テーマは下沈市場。郵便局や蜜雪氷城も参戦」などでもご紹介してきました。

しかし、3つ目の大きな理由がマーケティングです。ラッキンのマーケティングについては、以前のメルマガでクーポン戦略として断片的にご紹介してきましたが、ラッキンでは「流量池」(トラフィックプール)という新しい概念を使って、新しいマーケティング手法を確立しています。

これは基本的には今までご紹介してきた私域流量(プライベートトラフィック)の延長線上にあるものです。私域流量については、「vol.068:私域流量を集め、直販ライブコマースで成功する。TikTok、快手の新しいECスタイル」「vol.137:私域流量の獲得に成功しているワイン、果物、眼鏡の小売3社の事例。成功の鍵はそれ以前の基盤づくりにあり」「vol.164:お客さんは集めるのではなく育てる。米中で起きている私域流量とそのコミュニティーの育て方」などでもご紹介していますが、SEO対策をして検索エンジンからトラフィックを得る、デジタル広告を出してウェブからトラフィックを得るという公域流量(パブリックトラフィック)を獲得する手法が限界に達し、ブランドは自力で自分のトラフィックを獲得しなければならないという考え方でした。

ラッキンのトラフィックプールの考え方は、この私域流量の考え方をもう一歩推し進め、獲得した私域流量を自分たちのフィールドにプールをしていくというものです。もちろん、トラフィックを一箇所に留めておくことはできないため、さまざまな手法を使って、高頻度でアクセスさせるということが主眼になります。

 

マーケティングとは本来、自社の商品やサービスが売れる仕組みをつくる仕事ですが、往々にして広告戦略やキャンペーン戦略を立案する仕事だと、狭く捉えられがちです。本来は、商品を売れるようにしなければならないのですから、商品開発にも関わりますし、店舗設計にも関わりますし、販売手法にも関わります。開発陣が売れない商品を開発しようとしているのであれば、マーケティングの専門家として異論を唱えたり、議論をする必要があります。

ラッキンは、この本来のマーケティングを初期からきちんとやってきた企業です。マーケティングの力によって成功する格好の事例になっています。そこで、今回は、ラッキンのトラフィックプールという考え方はどういうものであるか、そしてラッキンがどのようなマーケティングをしてきたのかをご紹介します。

 

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先月、発行したのは、以下のメルマガです。

vol.197:マインドシェアの高い生活ブランドはどこか?中国に定着できている海外ブランドは?

vol.198:中国ECの過剰な消費者保護施策。消費者を守ることがECを成長させた

vol.199:映画、ドラマはスマホで撮影されネットで公開される。中国の優れた映像コンテンツ

vol.200:インドネシアTikTok Shoppingが禁止。浮かび上がった国内産業vs中国のせめぎ合い