中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

スターバックスついに陥落。売上でもラッキンコーヒーが第1位に。薄れゆくスターバックス効果

2023年Q2の営業収入で、ついにラッキンがスターバックスを抜き、名実ともに中国No.1のカフェチェーンとなった。スターバックスは伸び悩んでいる。その原因はスターバックス効果が薄れてきたことにあると餐飲界が報じた。

 

ラッキンが売上でもスターバックスを抜く

スターバックス中国が苦しんでいる。2021年に入ってから業績は下降する一方となり、2022年9月には2025ビジョンとして、300都市9000店舗の布陣に拡大をすることを発表。この計画の眼目は、これまでスターバックスが進出をしていなかった地方都市にも出店をしていくというものだった。

その後、店舗数も増え始め売上も増えつつあるものの、ライバルである瑞幸珈琲(ルイシン、Luckin Coffee)の激しい追い上げに合い、2023年Q2にはついに売上で逆転をされた。

ラッキンは店舗数ではすでにスターバックスを抜いていたが、これでラッキンは名実ともに中国No.1のカフェチェーンとなった。

▲当初は売上の点では、スターバックスに圧倒的な差があったラッキンだったが、店舗出店の加速とココナッツラテのヒットにより、2023年Q3についにスターバックスを抜き、名実ともに中国No.1カフェチェーンとなった。

▲店舗数では2019年にラッキンがすでにスターバックスを抜いた。スターバックスが300都市9000店舗の計画を発表すると、それに呼応するかのようにラッキンは出店を加速、ついに1万店舗を突破した。

 

10年前には存在した「スターバックス効果」

なぜ、スターバックスは苦しんでいるのか。餐飲界は、スターバックス効果が賞味期限切れになったからだと指摘をする。

10年前の2013年に、中央電子台がスターバックスに疑問を呈する報道を行った。ロンドンではスターバックスラテが3.81ドル相当で販売され、北京では4.81ドル相当と、中国の方が高く販売されている。しかし、当時の北京市民の可処分所得はロンドンと比べてはるかに低い。ところが、2013年のスターバックスの財務報告書によると、アジア地域での営業利益は欧州の16.8倍にもなっている。つまり、中国では同じものを高く販売し、大儲けをしているという内容だった。

しかし、この報道に対する市民の反応は、中央電視台も思いもしなかったものだった。多くのネット民が中央電子台の報道を批判したのだ。スターバックスがコーヒーをいくらで売るかはスターバックスの自由であり、それを高いと感じて買わないか、価値があると考えて買うかも消費者の自由であり、経済活動は常にそのバランスの上に成り立っている。それでスターバックスが大きな利益を上げているというのは素晴らしいことで、中央電子台は、スターバックスを批判するのではなく、中国企業がなぜスターバックスのように価値のある製品を提供できないのか、その原因を探るべきだという声が圧倒的だった。

スターバックスは、コーヒーだけを売っているのではなく、上質な空間でコーヒーを楽しむという体験を売っている。スターバックスは、大都市ホワイトカラーの入場券のようなものだという声も大きかった。

 

薄れてきたスターバックス効果

しかし、現在では、このスターバックス効果がかなり薄れている。ネットでは「なぜスターバックスを飲む人が減っているのか」という投稿がたびたび目につくようになり、SNS「微博」(ウェイボー)のある投稿は、3.3億回読まれ、1.5万件のコメントがつくというホットトピックになった。コメントの多くは、「高くてまずい」「革新性がない」というものだ。

他のカフェチェーンと比較をすると高いのは事実だが、まずいかどうかは主観的なものだ。しかし、大都市では規模は小さいものの、「Mスタンド」を始めとする高級カフェチェーンがいくつも登場している。農場から直接コーヒー豆を買い付け、上質なコーヒーを提供している。店舗規模は200店舗前後であり、品質を維持するためには大規模な拡大は難しいが、世界に3万6000店舗を展開し、どの店でも同じ味を提供するスターバックスが、味の点で及ばないのは仕方のないことだ。

大都市のホワイトカラーたちは、より美味しいコーヒーを提供する他の小規模カフェチェーンに流れていき、スターバックス効果が薄れてきている。

▲「なぜ国内では、スターバックスを飲む人が減っているのか」という投稿は3.3億回読まれ、1.5万件のコメントがついた。多くの人がスターバックス効果が薄れてきていると感じている。

 

革新性に欠けると見られるようになったスターバックス

革新性がないというのも事実で、スターバックスはラッキンが登場した2017年から業績が乱高下するようになった。ラッキンは、モバイルオーダー+スタンド店を基本にして、行列のできない人気カフェとして急成長をした。店に行く前にスマートフォンから注文を入れ、決済を済ませておくと、店舗でQRコードを見せるだけですぐに商品が受け取れる。現在では珍しくないモバイルオーダーだが、それを最初にやったのはラッキンだ。

コーヒーを買うのに行列をし、コーヒーができあがるのにも待たされ、挙げ句の果てに混雑して座る席がないというスターバックスに比べて、ユーザー体験が圧倒的に優れていた。しかも、店舗内装にかける費用が抑えられ、そのコストをコーヒーに使うため、価格の割にコーヒーがおいしい。

この頃、スターバックスは、中国で圧倒的に普及をしたスマホ決済「WeChatペイ」「アリペイ」にも対応せず、現金と国際クレジットカードのみの対応だった。国際クレジットカードを持っている中国人は多くなく、中国人は現金決済をするしかない。当時、スマホ決済がどのくらい広がっているのかを中国人に尋ねると、多くの人が「スターバックス以外どこでも使える」と答えるのが定番になっていた。

さらに、フードデリバリーの対応にも遅れた。対応をしたのは2018年10月と遅く、ラッキンのようなモバイルオーダー対応店を出店したのは2019年のことだった。2019年にはラッキンが店舗数でスターバックスを抜いて、店舗数では最大手カフェチェーンになっている。

▲ラッキンは、スタンド店が基本で椅子すらない店も多い。モバイルオーダーをしておき、テイクアウトするというのが基本で、内装費用が抑えられるため、その分をコーヒーの品質にかけることができる。

 

新メニュー投入数にも3倍の差

また、新商品の投入も中国のスピードに追いつけていない。2022年、ラッキンは140SKU(商品種目)の新製品を投入したが、スターバックスは50程度でしかない。

中国では大量の新メニューを投入することが飲食チェーンの重要な鍵になっている。次に行った時、新しいメニューがない飲食チェーンというのは、その次のリピートが獲得できない。常に新しいメニューがあれば「次はあれを注文してみよう」という記憶に残り、リピートさせるモチベーションが生まれる。しかし、それがない飲食チェーンは、不満があるわけでなくても、飲食店に行こうと考えた時の選択肢に入ってこなくなる。

さらに、大量の新メニューを投入すると、その中からヒット商品が生まれてくる可能性がある。実際、ラッキンの22年末からの成長は、ココナッツラテのヒットによるところが大きい。

 

スターバックスのライバルはスターバックス

餐飲界は、スターバックスの問題は、ラッキンやMスタンドがライバルなのではなく、自分自身がライバルであることに気がついていない点だと指摘をしている。スターバックスは「サードプレイス戦略」を基本にしている。自宅と職場・学校以外に自分の居場所を持つことが人生にとっては重要で、その第3の場所としてスターバックスを利用してもらおうというものだ。そのために居心地のいい空間づくりをしている。

しかし、大都市の若者たちは、どこであってもサードプレイスにできる魔法のツールを持っている。それが公園であろうと、自宅であろうと、職場のデスクであろうと、スマホSNSやショートムービーに触れることで、そこを落ち着ける空間に変えることができる。サードプレイスを求めてスターバックスの店舗に行くのではなく、それぞれの自分のサードプレイスにコーヒーを届けてほしい。そのためにはモバイルオーダーやデリバリーが重要になる。

広東省雲浮市のスターバックス店舗。地方都市に出店した店舗は今のところ好調だが、オープン記念の割引クーポンの効果も大きい。客単価40元弱という地方都市では夕食の価格帯のコーヒーがどれだけ売れるか疑問に感じている人も多い。

▲ラッキンは三線都市以下の地方市場にも出店をしていたが、スターバックスはおろそかになっていた。300都市9000店舗の計画では地方都市の布陣を強化する予定だが、高い客単価が障害になると見られている。

 

中国の飲食業は三年循環、五年周期

中国の飲食業界には「三年循環、五年周期」という言葉がある。3年で顧客が一巡をしてしまい、5年でビジネスモデルが金属疲労を起こしてしまうというものだ。これを打破してチェーンの寿命を伸ばすには、革新により、自分自身を変えていくしかない。

スターバックスは地方都市への出店を始めていて、地方都市店舗の集客は好調だ。大都市ではスターバックス効果が薄れてしまったかもしれないが、地方都市ではまだまだスターバックス効果が強いからだ。現状ではオープン記念の割引クーポンも配布をしているため、地方では行列ができる店舗も出てきているという。しばらくの間は、大都市でのビジネスモデルを地方という下に沈める=下沈市場への進出により、業績は伸びるかもしれない。しかし、40元近い客単価は地方では大きな障害となる。地方では40元あれば夕飯が食べられてしまう価格帯なのだ。地方でのスターバックス効果は長くは続かないと見られている。

結局、スターバックス自身がどこまで自分を革新できるかにかかっていると、餐飲界は指摘をしている。