中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国でサイゼリアが受ける理由。価格はファストフード並みで、体験はレストラン並み

中国のサイゼリヤが好調だ。2024年にはコロナ前の営業収入を上回ると見込まれている。その理由は、価格がファストフード並みでありながら、体験はレストランであることにあると界面新聞が報じた。

 

中国で好調なサイゼリヤ

飲食チェーンのサイゼリヤが中国で好調だ。2023年度の財務報告書によると、営業収入は前年から27%増加をし、営業利益は約17倍になった。2024年度の営業収入は15%増の2110億円、営業利益は81%増の131億円を見込み、これが達成できると、コロナ禍前の2019年度を上回ることになり、サイゼリヤのコロナ禍は終わる。

一方で、日本国内の業績は赤字が続き、増収増益の原動力となったのはアジア事業だ。中国では現在約450店舗を展開し、フランチャイズではなく、すべて直営店となっている。

▲中国のサイゼリヤが好調だ。価格が安いのに、座ってゆっくりと食事を楽しめることが受けている。

 

価格はファストフード、体験は洋食レストラン

サイゼリヤが中国で受けている理由は、その価格の安さが中国消費者の価格相場感にあっていることだ。多くのメニューが20元以下であり、サイドメニューは10元以下、客単価は47元で、これは大都市のファストフードの価格帯になる。

一方、ライバルであるピザハット(ピザの宅配ではなく、ピザレストランとして展開している)の客単価は、だいぶ下げてきて76元。サイゼリヤは、ファストフード価格ながら、落ち着いてテーブルで食事ができるレストランとして人気になっている。

▲日本と同じように低価格で提供されている。ファストフードの価格帯になる。

 

標準化しやすい洋食、標準化が難しい中華

サイゼリヤの強みは、調理の標準化だ。セントラルキッチンで調理をした半完成品を店舗に配送し、店舗で仕上げをして提供をする。これは日本のファミリーレストランでは当たり前のことだが、中国の飲食チェーンはこの標準化が遅れている。

遅れているというより、標準化できない事情があるのだ。中華料理の命はアツアツであることだ。現場でつくり、すぐに食べるのがいちばん美味しいと感じてもらえる。また、調理をしているところが見えることも重要で、それがいい加減な食材を使っていないことの証明になるとともに、目も楽しませてくれる。必要がなくても大きな炎をあげて調理をすることで、来店客は食事に対する期待感が高まるのだ。

中華料理はこの現場調理が基本であるために、なかなか標準化ができない。現在、多くの中華飲食チェーンがレトルト食材などを利用する試みを始めているが、消費者からの評判はいいとは言えない。

一方、西洋料理は、適温で食べるものであり、つくりたてのアツアツにこだわる度合いが中華料理ほどではなく、標準化を進めやすかった。サイゼリヤでは、農家と契約をして専用食材を供給してもらっているが、それも「優れた食材をつくる農家と契約する」という考え方ではなく、「店舗から逆算してお客さんの求める食材をつくってくれる農家」と契約をしていく。近年ではトマトの新品種「プチぷよ」のサラダなどがヒットをしている。

このような工夫で、ただ安いだけでなく、美味しい料理を提供することで、中国の消費者の心をつかんだ。

 

一級商圏ではなく二級をねらう戦略

出店戦略にも工夫がある。サイゼリヤ路面店ではなく、ショッピングモール内に出店する戦略をとっていて、一線都市(大都市)を中心に展開している。しかし、面白いことに、一級商圏と呼ばれる中核的な商業エリアは避け、二級商圏と呼ばれる中心からやや外れたショッピングモールを中心に展開をしている。北京で言えば、高級ブティックが集まる三里屯やビジネス街である国貿CBDには出店せず、西単華威、崇文門新活館などの中心を外したショッピングセンターに積極出店する。

中核的な一級商圏は、確かに客流は多いが、東京で言えば銀座にあたる場所で、遠方からやってくる人たちで賑わっている。そういう場所ではカジュアルでリーズナルブルな飲食店に入るよりも、せっかくきたのだからと考え、少し高めの飲食店に入る傾向がある。

一方で、二級商圏は、ビジネス街にも隣接しているが、住宅圏や学生街にも隣接をしていて、その地域の消費者を集めている。そのような場所で求められる飲食店は、日用の食事であり、現在は中華を含むファストフードが圧倒的に強い。その中で、サイゼリヤは座ってゆっくり食事ができながら、価格はファストフード並みという点が受けている。

2024年度は中国、香港、台湾のアジア事業で21%増の760億円を見込み、積極的な店舗展開も進めている。日本国内事業も黒字化が見えてきていることもあり、サイゼリアの見通しは明るいものとなっている。