中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

映画、ドラマはスマホで撮影されネットで公開される。中国の優れた映像コンテンツ

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今回は、中国のネットで発表された映画、ドラマについてご紹介します。

 

日本でも、最近では「テレビを持っていない」ことが、意識の高いライフスタイルであるかのようになってきています。確かにスマートフォンがあれば、テレビはなくてもいいのではないかと思えるようになってきました。テレビよりも、大型のワイヤレス接続可能なディスプレイの方がいいと考えている方も多いのではないでしょうか。

「情報通信白書」(総務省)によると、平日のテレビ視聴時間とネット利用時間は2020年に逆転をして、ネット利用時間の方が長くなっています。

▲平日のテレビ視聴時間とネット利用時間は2020年に逆転をした。「情報通信白書」(総務省)より作成。

 

10代では、テレビ視聴時間が46.0分、ネット利用時間が195.0分と、ネット利用時間が4倍になっています。テレビ視聴時間の方が多いのは50代、60代のみです。休日でも、2022年に逆転が起きています。

▲休日でも2022年にネット利用時間が多くなる逆転が起きている。「情報通信白書」(総務省)より作成。

 

休日は40代以上がテレビ視聴時間の方が長くなっています。つまり、もはやテレビは休日などの時間がある時に見るものになっています。

 

中国ではどうなっているでしょうか。1日の時間をどのように使っているかを調査する「全国利用時間調査」は、5年ごとにしか行われません。そのため、最新のデータが2018年のものになります。

▲中国では2018年の段階で、ネット利用時間が圧倒的に長くなっている。

 

これを見ると、もはやテレビとネットは勝負になっていません。唯一、農村でテレビ視聴時間の方が長くなっているだけです。「第51回中国インターネット発展状況統計報告」(中国インターネット情報センター)によると、2022年末時点での平均インターネット利用時間は週26.7時間=1日228.9分になっています。テレビの視聴時間は減っているでしょうから、間違いなくスマートフォンが視聴の中心で、テレビは見られなくなっています。

 

元々、中国は他国と比べてテレビ視聴時間が長くありません。大きな理由のひとつが、中国は早くから集合住宅が発達をし、都市部には高い建物が多く、放送電波が受信しづらいことです。そのため、いわゆる八木アンテナを立てて地上波放送を受信している家庭は少数派で、都市ではケーブルテレビ、農村では衛星テレビというのが一般的です。

ケーブルや衛星のメリットは、大量のチャンネルが受信できるということです。農村でも数十チャンネル入ることは当たり前でした。チャンネル数が多いということは見られる番組が多いというメリットもありますが、逆に日本の月九ドラマや「8時だよ全員集合」のような誰もが必ず同じ時間にそろって見る国民的番組が生まれづらいというデメリットもあります。視聴者が分散をしてしまうのです。国民的番組と言えば大晦日の「春聯会」のように年に1回の番組やスポーツライブ中継になります。人気のドラマなどはありますが、放映時間がよくわからず、1日2話まとめて放送とか、ひどい局になると朝から連続して放映して、夜までに全話を放映してしまうということもあります。そのため、どの番組がいつ放映されるかもよくわからないのです。

そこで、10年ぐらい前までは、街中のあちこち、農村ですら違法DVD屋がありました。映画やドラマを違法コピーしたDVDを1枚数元で販売していたのです。これを買ってきて自分の都合のいい時間に楽しむというのがテレビの楽しみ方でした。

ですから、当時から「テレビ放送」に頼らない楽しみ方をしていたため、動画配信サービスが始まるとスムースにインターネットに対応をしたスマートテレビに移行をしていくことになりました。

 

しかし、スマートテレビ時代になって、テレビは死のうとしています。中国で有名な中堅俳優・李嘉明さんは、SNSでテレビに対する怒りを投稿し、それが多くのネット民の共感を呼びました。


www.youtube.com

▲有名な俳優が「テレビは3年見ていない」と怒りを爆破させ、多くの人の共感を呼んだ。

 

この中で李嘉明さんはこう訴えています。「以前のテレビはスイッチを入れたらすぐに見れた。買って持って帰ったらすぐに見れた。今は、すべてのことに課金が必要になっている。サブスクだとかVIP会員だとか、みんなは嫌じゃないのか。何千元も出してテレビを買う。それなのに見れない。非常に腹が立つ。普通の人がお金を稼ぐのがどれほど大変かわかっているのか。もう3年もテレビをつけていない」。

それだけではありません。なんと人民日報までテレビのあり方を批判する記事を掲載しました。

 

http://opinion.people.com.cn/n1/2023/0110/c427456-32603563.html#

共産党の機関紙である人民日報まで、テレビの多重課金のあり方を批判する記事を掲載した。

 

人民日報が問題にしたのは、マトリョーシカ会員の問題です。日本の動画配信サービスの多くは、画質や同時に利用できるデバイス数などで、普通会員とプレミアム会員の2種類がある程度ですが、中国の配信サービスでは、プランによって見られるコンテンツに違いがあります。いちばん手軽なプランの価格はものすごく安いためにお得だと思って加入をしたら、実は見られるコンテンツがほとんどなく、プレミアム会員に再加入せざるを得ないということがよくあります。さらに、こども番組を見るには子ども用プランに追加加入が必要、音楽ライブを見るには追加加入が必要などということもあります。

人民日報はこれを「マトリョーシカ」(開けても開けてもマトリョーシカが出てくる)会員と呼び、批判をし、有料視聴という習慣を破壊しかねないと警告しています。

 

それだけではありません。中国の最新式のテレビは、スイッチを入れて起動すると、まず30秒ほどの広告が流れます。その広告が終わらないとコンテンツを見るどころか、操作もできないのです。

もちろん、コンテンツを探す画面にはバナー広告が入り、動画視聴中にも会員ランクによってインストリーム広告が入ります。このような広告だらけになってしまったのは、スマートテレビが、「テレビ製造メーカー」「操作プラットフォーム運営企業」「動画配信企業」の3つが相乗りをした商品だからです。それぞれがそれぞに利益を得るために広告を投入します。テレビはどんどん売れなくなっているので価格を下げるしかなく、そのためにも投入する広告量が増えていきます。もはや広告表示ディスプレイといっても過言ではなくなっています。

そのため、少しリテラシーのある人は、スマートフォンとワイヤレス接続ができる大型ディスプレイやプロジェクターを購入して、スマホでコンテンツを探して、それを投映して見るようになっています。

ひとつの産業が死ぬまでには時間がかかるため10年、20年かかるでしょうが、テレビという商品は死に、テレビ局はコンテンツ制作スタジオになっていくしかありません。実際、地方からテレビ局の閉鎖、倒産が始まっています。中国は現金を世界に先駆けて廃止する国になると思いますが、テレビも世界に先駆けて廃止をし、有効活用されていないテレビ用の電波枠を通信に転用していくことになると思います。

 

一方で、スマホの世界ではコンテンツの質が上がり続けています。スマホで映画やドラマを見るという習慣も根付いてきました。きっかけはコロナ禍です。コロナ禍により映画館が休業となり、すでに制作済みの映画が公開できなくなってしまいました。そこに目をつけた抖音(ドウイン、TikTok)は、未公開になっている「ロスト・イン・ロシア」などの映画を買取り、抖音上で無料公開をしました。新規会員を獲得するためです。さらに、各配信サービスは著名アーティストのコンサートの映像などを有料配信し、ここで、「スマホで長尺コンテンツを見る」「お金を払ってコンテンツを見る」という習慣が一気に定着をしました。

また、当初は、映画館やテレビを想定して制作されたコンテンツを転用して、スマホでも配信をしていましたが、だんだんと最初からスマホで公開されることを前提としたコンテンツが登場するようになっています。しかも、クオリティが非常に高いものになっています。

今回ご紹介したい質の高いコンテンツは4つあります。

 

1)アップル新春ショートムービー

アップルが中国の著名映画監督と俳優を起用して、5分から30分ほどの映画を制作し、毎年春節の時期に公開をしています。2018年から6年連続で行っており、映像的にも内容的にも非常にレベルが高いため、毎年大きな話題になります。しかも、この映画は、すべてiPhoneで撮影されています。

 

2)「大英博物館からの脱走」

今年の8月、「大英博物館からの脱走」という3回の連続ドラマが大ヒットをしました。各回は3分から9分という短いものですが、4.1億回が再生されました。しかも、このドラマを制作したのは、映画学科を卒業はしているとはいうものの、一ブロガーの煎餅果仔さんです。本人が、仲間の女性の夏天妹妹と出演しています。つまり、ほとんど手作りに近い連続ドラマなのです。

 

3)「竪屏美学」

2019年、中国で巨匠として知られる映画監督であり、夏冬2回の北京五輪の開会式の総監督を務めた張芸謀チャン・イーモウ)は、抖音映画祭に4本の小品を出品しました。驚くことに、この動画は横長ではなく、スマホ用に縦動画として構成されていました。

そして、多くの人が驚いたのは、チャン・イーモウが縦動画の構成手法を完成させていたことです。動画を横長から縦長にすることで、画面構成の方法論だけでなく、ドラマの展開にも大きく影響をしてきます。チャン・イーモウはこの時69歳になっていましたが、自身の中でスマホ動画を研究し、縦動画のあるべき姿を追求し、それまで培ってきた映像理論を再構築させていたのです。この4つの小品は、映像を学ぶ人が必ず研究をする教科書のような存在になっています。

 

4)「土味三国」

安徽省阜陽市新建村の鮑小光さんは、子どもの頃から三国志が大好きで、北京に行って役者になろうとしましたが、夢破れて故郷に帰ってきました。それでも夢を捨てることができず、村人に手伝ってもらって三国志のドラマをスマホでつくり始めました。これが大ヒットをして、再生回数は累計40億回を突破しています。お金はかかってなく、演技も素人ですが、熱量だけはプロのドラマに負けていません。まったくの素人集団でも、鑑賞に耐えるコンテンツを制作できることを証明しました。

 

アップルの新春ムービーと竪屏美学は、プロ中のプロがスマホ向けにつくったものです。一方「大英博物館からの脱出」と「土味三国」は経験のない素人がつくったものです。レベルの高いプロから素人まで、同じようにスマホで撮影して、スマホ向けに配信をしているというのも非常に面白いところです。中国では面白いコンテンツが誕生する場所がテレビからスマホに移りつつあります。

今回は、このようなコンテンツのうち、みなさんにも見ていただけるものをご紹介します。日本語字幕がついているものはほとんどありませんが、多くのコンテンツが視覚情報を中心に展開をするため、あらすじがあらかじめわかっていれば、セリフがわからなくても見ることができます。しかも、多くが5分から15分程度であるため、軽い気持ちで楽しめます。しかし、そのクオリティは、テレビドラマや劇場映画に劣りません。お時間のある時に、ぜひ楽しんでみてください。新しい映像表現が生まれる場所というのは、もはや映画やテレビのスタジオではなくなっているということが実感できるかと思います。

 

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