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百度がスマートフォンフォン市場に再参入。AIが指導をしてくれる学習スマホ

百度スマートフォン市場に再参入した。しかし、一般向けではなく、子どもをターゲットにした学習スマホだ。AIが学習指導をしてくれるというもので、保護者からさっそく注目されていると商隠社が報じた。

 

百度も過去にスマートフォンを発売したことがある

検索広告大手の百度バイドゥ)は、常に米グーグルの事業ドメインを見ていて、それを中国で展開することで成長をしてきた。いわゆるタイムマシンモデルだ。しかし、グーグルにあって百度にない重要なものがひとつある。それはスマートフォンだ。グーグルは2016年から自社ブランドのGoogle Pixelを発売しているが、百度には百度スマホがない。

実は、10年以上前、スマートフォンクラウドOSを開発し、複数のメーカーと協働してスマートフォンを発売したことがある。

 

2010年、BATがスマートフォン市場に参入

2009年、中国で最初のスマートフォンと呼ばれる魅族(メイズー、Meizu)「M8」が登場すると、次々とさまざまなメーカーがスマホを発売したが、波導、熊猫、索愛、HTCなどが脱落をしていき、「中華酷聯」=中興(ZTE)、華為(ファーウェイ)、酷派(クールパッド)、聯想レノボ)の4社が生き残った。

その後、小米(シャオミ)がMIUIを開発してスマホ業界に参入すると、ビッグテックであるテンセントとアリババも動いた。

2010年、テンセントはファーウェイと協働してスマートフォン「HiPP」を発売。2年後にはスマートフォンOS「TITA」を発表した。アリババは2011年に、クラウドOS「YunOS」を搭載したスマートフォンを「天語」と共同開発して発売した。

 

消えた百度クラウドOS

BATの一角である百度も動いた。2012年にはクラウドOS「百度クラウドOS」を発表。2012年末に、小米のMIUIのライバルと目されていた「点心OS」を買収。2014年9月には、スマートフォン百度クラウドOSを発表し、インストール台数ではMIUIを抜いた。2年間の間に67のベータ版、6つの正式バージョンを発表し、150機種に対応をし、利用者数は1000万人を突破した。小米のMIUIよりも市場には歓迎されていたのだ。

ところが終わりは突然やってきた。2015年2月、百度クラウドOSのバージョン7を2ヶ月後に公開するとアナウンスをし、多くのユーザーが期待を膨らませていたが、その日になってみると、新しいクラウドOSではなく、ユーザーを失望させる文章が公開された。「内部業務の調整のために、百度クラウドOSは2015年3月11日をもって、更新を停止します」というものだ。

 

資金が豊富すぎてコスト管理が破綻

なぜ市場から歓迎されたものが突然消えたのか。資金の問題だった。2013年、百度は携帯電話メーカーである「百分百」と提携し、合弁子会社「佰易移動」を設立した。百度は3.5億元(約71億円)を投資した。

そして、スマホ「百加V5」を798元という低価格で発売した。これは同スペックの紅米(Redmi)のスマホより1元安い価格で、よく売れ、両社の協業は成功するかに見えた。ところが、2014年4月に発売した「百加V6」は、同スペックの紅米noteの2倍の価格となり、当然ながら販売数は悲惨なものとなってしまった。百加V6は5万台が製造されたが、出荷量は2万台以下であり、しかも内部消費が相当数あったと言われる。

問題は、3.5億元もの投資をしたため、佰易移動は資金が潤沢すぎて、コスト管理がまったくできず、製造コストが常識外に高くなってしまったことだった。百度クラウドOSチームには1億元の予算が割り当てられ、「10年は利益を出さなくても活動が続けられる」と言われたが、2年後には資金が枯渇をした。

製品発表時に2000万元の費用をかけてプロモーションをしておきながら、目立った効果を上げることはできず、佰易移動の従業員は、百度クラウドOSのチームの誰よりも高給をもらい、出張には高級ホテルを使い、打ち合わせは高級料理店で行われた。

このようなコストがすべて百加V6の製造コストに乗っかったため、百加V6はライバルの2倍の価格をつけざるを得なくなってしまった。2015年1月、佰易移動は従業員の給与支払いが不可能になって崩壊をした。しかし、百度クラウドOSの134人のエンジニアはそれでも会社に残って、プロダクトを救おうと努力をしたが、無駄な抵抗となった。以来、百度スマホに手を出すことをやめた。

 

再び、百度スマートフォン市場に再参入

しかし、2023年、百度は再びスマホ市場に参入をした。百度が最初にスマホ市場に参入した10年前、市場は競争が激しく、誰が覇権を取るのか見えない状態だったが、少なくとも市場全体は力強く成長をしていた。しかし、現在は2023年Q1の世界のスマホ出荷台数は前年比-14%と厳しいものになり、2013年以来最悪の時期を迎えている。なぜ、百度はこの最悪の時期にスマホ市場に参入をしようというのか。

答えは、百度スマホは、従来のスマホとは別のカテゴリーの製品だからだ。

▲小度が発売した学習スマートフォン。さまざまな参考書、ドリルなどが学習でき、AIの先生が学習進度の管理をしてくれる。



スマートスピーカーで成功した百度

2017年、スマートスピーカーが世界中で一気に普及をした。アマゾンエコーが人気となり、中国でも京東、小米、レノボ、科大訊飛など100社以上がスマートスピーカーを発表した。百度も2018年にスマートスピーカー「小度」(シャオドゥ)を発売する。

しかし、この時にはアリババの「天猫精魂」が59%、小米「小愛」が35%のシェアを占め市場はすでに固まっていた。そのため、百度は差別化をしなければならなかった。2018年に百度は国内初のディスプレイつきスマートスピーカー「小度在家」(現在の小度スマートディスプレイ)を発売した。当時、小度の景鯤CEOは、音声は人が情報を最も早くアウトプットできる形式であり、視覚は人が情報を最も早く取得できる形式であると述べた。

このスマートディスプレイはヒット商品となった。2018年Q1には百度のシェアはほとんど0に等しかったのに、2018年Q3には第3位のシェアとなった。2019年には1730万台を出荷し、トップシェアを獲得した。

1年後、小米、アリババもスマートディスプレイを発売し追従をしたが、小度在家がこのカテゴリーをリードしていることは変わっていない。

▲小度は、百度の音声アシスタントやAIの技術を活かした教育用タブレットの販売が好調だ。この延長線上で、学習スマートフォンの販売を始めた。

 

学習用として成功をした小度学習機

しかし、2021年以降、スマートスピーカー市場そのものが緩やかに縮小している。2021年は3515万台で6.8%減となり、2022年は2631万台で25.1%減となった。

小度は打開策を考えなければならくなった。そこで注目されたのが、小度のユーザーの多くが家庭内の子どもであったということだ。小度の景鯤CEOによると、50%から60%が家庭内の子どもだと言う。すると、「学習」「教育」というキーワードが浮かびあがってくるが、すでに教育デバイス分野には「歩歩高」「小覇王」「読書郎」などのブランドがあり、「科大訊飛」「有道」なども参入をしていた。スマートスピーカーに参入した時と同じように、小度には再び差別化が必要になった。

そこで、小度が教育機器としてのスマートディスプレイに持ち込んだのが「目の健康」と「AI」だった。

2022年に発売された「P20」は、著名な眼科医と共同開発をし、アンチブルーライト、アンチグレアなど20もの目の健康保護のメカニズムが搭載されている。また、AIにより、「座る姿勢の修正」「音声対話操作」「学習カリキュラム生成」などの機能を持っている。

これにより、小度学習機は2021年Q4から2022Q2のあいだ、学習用タブレット市場でトップシェアを獲得している。

▲小度が発売しているペン型電子辞書。印刷された英単語をペンでなぞると、その訳語が表示される。

 

学習機能が搭載されたスマートフォンで再参入

小度は、この他に辞書ペンの販売も好調だ。教科書などの文字をなぞると、辞書が引けるというものだ。目の健康を考えたディスプレイ、AIによる学習カリキュラム、さらにAIによるネットの安全などの機能を考えると、小度が子ども用「学習機能付き安心スマホ」の領域に手を出すのは当然と言えば当然なのだ。

スマートフォンの市場は、買い替え期間が長くなることにより低迷をしているが、百度の学習スマートフォンはまったく別の市場で、シェアを獲得する可能性がある。

▲小度では、学習スマートフォンは、6つのデバイスの機能を兼ね備えていると宣伝している。スマートフォン、スマートウォッチ、翻訳機、音楽プレーヤー、単語カード、電子辞書の機能がすべて入っている。