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フードデリバリーが広がらない理由は衛生問題。封緘がどのくらい使われているか調べてみた

フードデリバリーは若者層には浸透したものの、中高年にはなかなか広がらない。その理由は衛生問題だ。現在は、多くの飲食店が封緘を使うようになっている。どのくらい使われているのか、北京商報が調査をした。

 

中高年に浸透をしないフードデリバリー

中国の都市で忙しそうに走り回るフードデリバリーの配達員=騎手(ライダー)。黄色いジャケットの美団(メイトワン)と青いジャケットのウーラマの騎手が、電動自転車や電動バイクで出前の食品を配達している。どの都市でも、フードデリバリーというサービスが定着していることが実感できる。

しかし、デリバリーサービスは利用者の年齢に大きな偏りがある。iiMediaの調査によると、利用者の90%は40歳以下の若い世代であり、41歳以上の中高年の利用が進んでいない。

▲iiMedia Researchによるフードデリバリー利用者の世代分布。20代、30代に集中し、中高年には浸透していない。

 

中高年は飲食店に行きたい

中高年がデリバリーを利用しない理由は複数ある。ひとつは配達料を払って届けてもらうよりも、自分で飲食店に行く習慣が身についているからだ。

中高年にとって、食事は栄養補給だけでなく社交でもある。一人で食べに行くのであっても、なじみの店舗の店主と挨拶をしたり、世間話をする。それが楽しみのひとつになっている。

もうひとつは、デリバリーの中国語名「外売」(ワイマイ)は、元々デリバリーを指す言葉ではなく、飲食店のお持ち帰りを意味する言葉だった。店の中ではなく、店の外に売るという意味だ。店舗に行って、料理を注文し、お持ち帰りを頼めば容器に入れてくれる。店が混雑している時や、自宅で人が集まり食事をしたい時はこの外売を利用する。デリバリーの最初のアイディアは、この外売の受け取り代行というものだった。

中高年にとって、外食は店で食べるにしろ、自宅で食べるにしろ、自分で行くというのが基本になっている。散歩気分で歩いて行き、店主と世間話を交わす。それが楽しみになっているため、デリバリーを利用するという動機が生まれない。

 

衛生問題に対する不安が残っている

もうひとつが食品安全の問題だった。デリバリーが急成長をしたのは2015年。美団とウーラマが激しいシェア争いをし、焼銭大戦と呼ばれるクーポン合戦が繰り広げられた。消費者はクーポンを使うとタダ同然で注文ができるため若い世代が飛びついた。騎手には配達件数に応じて報奨金が支払われるため、他の職業よりも儲かると多くの人が騎手になった。

しかし、急成長はさまざまな問題を引き起こした。そのひとつが衛生問題だった。当時は、配達途中に騎手がつまみ食いをしたのではないかと疑われる事象がSNSに数多く報告された。また、当時は飲食店側も不慣れなところがあって、配達中にパッキンの蓋が開いてしまい、料理が散乱してしまうことも起こった。中には、それを手で戻して配達してしまう騎手もいて、異物混入問題が起きたこともある。

美団、ウーラマともに、誰でも簡単に働けるギグワークから直接雇用を増やし、研修を行い、報酬体系を配達件数という量ではなく、顧客評価という質に転換する対応を進めてきた。しかし、中高年にはこの時のイメージがいまだに残っており、なんとなく不安に感じている人が多いのだ。

 

北京市ガイドラインで封緘を推奨

2022年4月、北京市市場監督管理局は「ネット飲食サービス安全管理規範」というガイドラインを公表し、この中でデリバリー食品は封緘をしなければならないと定めた。封緘は食品を開けてしまうと千切れてしまうタイプのものが多く、万が一、騎手が配達途中に袋を開けた場合は、それがわかるというものだ。

これはあくまでガイドラインであり、守らなくても罰則はない。そこで、ガイドラインが公表されて1年余り、北京商報の記者が、封緘はどこまで進んだのかを取材した。

▲北京商報では、実際にデリバリー注文をして、封緘の状況を調査した。

 

3種類に分けられた封緘の状態

すると、封緘の状況は3つにわけられることがわかった。ひとつは、飲食店側が専用の封緘を用意し、飲食品のパッキンや袋全体に封緘をするというものだ。シールには広告をつけたり、QRコードで割引クーポンが取得できるなどの工夫をしている。ケンタッキーフライドチキン、Coco都可、西貝面村、茶百道などが採用をしている。

もうひとつは、より簡便な方式で、紙袋に食品を入れ、口の部分にレシートをつけホチキスやテープで止める。騎手が痕跡を残さないように開けることは不可能ではないが、よほど丁寧にやらないと、紙袋が破れたり剥がれたりしてしまい、一定の封緘効果がある。張亮麻辣湯、小谷姐姐、馬永記などが採用している。

3つ目は、レジ袋を簡単に縛っているだけで封緘をしていないケースだ。揚国福麻辣湯、阿呆炒飯などだ。

▲大手飲食チェーンでは、オリジナルの封緘を使い、そこを広告スペースとしても活用している。

▲ビニール袋をしばり、それに封緘するパターンも多い。個人店舗などに多い。

▲封緘をレシートを貼るシール代わりに使ってしまっている。ビニール袋を開けようと思えば開けられる状態になっている。

 

個人商店では封緘そのものをしていないケースも

大手チェーンは封緘をきちんと使っているが、小規模チェーン、個人商店などではまだ封緘を採用していないケースが目立つ。京津冀三地消費者協会は独自調査を行い、封緘を使用していない飲食店がまだあることを問題視し、500万枚の封緘をつくり、デリバリー企業に贈呈をした。デリバリー企業を通じて、封緘を使っていない飲食店に配布をしてもらうためだ。

▲フードデリバリー企業「ウーラマ」では、飲食店に封緘を配布している。

 

コストよりもオペレーション上の問題が大きい封緘

飲食店にとっては、封緘の製造コストもかかることになるが、問題は手間だという。封緘をしてしまうと、料理を後から追加で入れることもできず、内容を確認することもできなくなってしまう。封緘を外すには、袋ごと取り替えるしかない。注文ミスを起こさないようにするためには、オペレーションも確立しなければならない。

「比格ピザ」(ビッグピザ)の創業者、趙志強CEOは、北京商報の取材に応えた。「封緘は配達中に食品が汚染されるリスクを減らし、食の安全を確保することができ、デリバリー企業と飲食店への信頼を高めることができます。それだけでなく、万が一食品安全問題が起きた時には、一定程度、当事者の責任を明らかにすることができます」。

同様の封緘ガイドラインは、北京以外の他都市でも進んでいる。デリバリー企業は、中高年にどう浸透していくかが成長の鍵になっている。その時、食品安全の問題は避けて通れない。