地域密着系中華ファストフード「南城香」が3元の朝定食を始めて、大きな話題となっている。誰もが不思議に思うのが、3元でどうやって利益を出しているのかということだ。南城香では、朝食により流量を獲得し、他の部分で利益を出すことを考えていると職業餐飲網が報じた。
おかわり自由で60円の朝定食登場
北京市に3元(約60円)の朝定食が登場して話題になっている。この定食を提供しているのは、1998年創業で北京市に150店舗を展開する中華ファストフード「南城香」(ナンチャンシャン、http://nan.499n.com/)。3元を払うことで、八宝粥、ピータン粥、牛乳のみなど7種類の朝食メニューを選ぶことができる。注文はセルフ方式で、好きなものを取り、レジで精算する。いわゆる学食や社員食堂方式だ。しかも、おかわり無料だ。
現在、8店舗でテスト中だが、朝食メニューを提供する店舗が増えていて、最終的に全店舗で提供をする予定だ。
コロナ禍で消えた個人朝食店
中国では、朝食は自宅ではなく、飲食店で食べる習慣がある。そのため、お粥をはじめとしたその地域、地域の朝食メニューが充実をしている。その多くは、個人の飲食店で、店の前にテーブルとパイプ椅子を並べ、通勤前に寄ってさっと食べてさっと出勤するというパターンが多い。しかし、大都市では、この朝食を食べる場所が激減をした。
朝食メニューはそもそも利益が小さい。多くの朝食店が、利益よりもなじみのお客さんのために開いているようなところが多く、それがコロナ禍とコロナ禍以降の物価上昇で営業が難しくなった。店主の高齢化も進み、閉店をする朝食店が増えている。
また、このような個人飲食店の朝食店は、中には非常に美味しくて安く、その地域の名店と知られている飲食店もあるが、現実は、その多くが品質は低く、テーブルなどが汚れていても気にしないなど、安いだけが魅力で、ホワイトカラーにとっては行きづらい店になっているケースが多い。そのため、ホワイトカラーは、KFC(ケンタッキーフライドチキン)やマクドナルドといった大手ファストフードの朝食メニューや、コンビニで買った朝食メニューをオフィスで食べるということが多くなっている。しかし、ファストフードの朝食は衛生的で美味しいものの、20元から30元と高い。つまり、大都市では朝食難民が一定数いたのだ。
南城香は、このブルーオーシャンに目をつけた。
デリバリー騎手に割引提供。それが大きな宣伝効果に
南城香は中華ファストフードだが、地域密着をウリにしている。主要メニューは、ワンタン、チャーシュー丼、羊肉串で、朝はワンタン、昼はチャーシュー丼、夜は羊肉串が人気メニューになる。ショッピングモールやオフィス街ではなく、住宅地を選んで出店し、近隣の住民を顧客としている。
そのため、価格と味だけでなく、地域に溶け込む工夫をしている。それも目立った活動をしてアピールするのではなく、目立たないところでの工夫を積み重ねている。例えば、南城香に対する近隣住民からのデリバリー注文が非常に多い。店舗あたりのデリバリー件数では、全国トップレベルになっており、デリバリー企業「美団」(メイトワン)のランキングでも常連となり、それが大きな宣伝効果になっている。
南城香では、南城香のデリバリーを配達した騎手には、社員割引と同じ40%引きで食事を提供している。また、スマートフォンの充電、電動自転車の充電なども無料提供をしている。デリバリー騎手は、昼や夕方のピーク時には配達をし、その間の午後や深夜の時間帯に自分の食事をとることになる。南城香では、ピーク時にはお客さんでいっぱいだが、その間の時間帯には制服を着たデリバリー騎手が多数食事をとっている。この光景が、南城香にとっては、デリバリーの大きな広告効果をもたらしている。また、デリバリー騎手も南城香の配達は、早く、丁寧にするようになる。
このような工夫をすることで、近所の住人からは、「南城香のデリバリーは早く届いて温かく、容器から漏れているなどのトラブルも少ない」という評判を得ることができ、デリバリー注文が増え続けている。
利益を先に考えたらイノベーションは起こせない
しかし、誰もが疑問に思うのは、セルフ方式とは言え、3元食べ放題の朝食は、元が取れるのだろうかということだ。南城香の平均客単価は28元、一般的な朝食店の相場は15元程度だ。これで3元でおかわりし放題なのだから、大損をしてしまうのではないか。
南城香の創業者・汪国玉は、こう語っている。「朝食メニューについて、南城香は利益を出せないとか、損をしているとか言う人がいますが、そのような考え方では、イノベーションは起こせない」と言う。
朝食メニューのうち、複数用意されているお粥やスープは店舗でつくっているが、大きな保温容器に入れ、来店客が自分で盛り付けをしてもらう方式だ。ホテルなどの朝食と同じ方式で、必要なスタッフは、厨房とレジだけになり、フロアスタッフの仕事は空いたテーブルの清掃ぐらいになる。非常に小さなスタッフ数で回せるのだ。
さらに、朝食メニューといっても、定食になっているわけではない。3元のメニューはお粥だけ、牛乳だけであり、時間がない人はそれだけ食べて出勤をするかもしれないが、多くの人がサイドメニューを追加注文する。現在、朝食の客単価は10元近くになっている。それでも、他の朝食店の相場から考えると安い。
また、食べ放題にしていても、大量消費されることはないことがテスト運営からわかっている。考えてみれば、出勤前の忙しい時間帯に、お粥を何杯もおかわりする人はそうはいないはずだ。
フルセルフ方式導入への実験
汪国玉氏によると、朝食メニューのねらいは「流量の獲得」であるという。インパクトのある「3元の朝食」で人の耳目を引き、店舗に多くの来店客がいることが広告となり、地域の人に南城香のことを意識してもらう。それで、食事やデリバリーで利用してもらう。
さらに、朝食メニューではセルフ方式を採用しているが、その他の時間帯は一般の飲食店と同じようにセミセルフ方式になっている。テーブルのQRコードをスマホで読み取り、表示されるメニューから店内モバイルオーダーをすると、スタッフが料理を運んできてくれる。食事が終わったら、レジで精算をするというものだ。
このセミセルフ方式はまだまだ効率化できる。精算はモバイルオーダー時にオンライン決済をしてしまうことができるし、料理もセルフで受け取る方式にすることができ、それを実施すれば人件費はさらに下げられる。しかし、それは接客品質の低下につながりかねない。
一方で、3元の朝定食であればフルセルフ方式にしても、多くの来店客が納得をしてくれる。南城香は、3元朝食を行うことで、セルフ方式の模索をしており、なおかつ来店客の教育にもなっている。朝食のセルフ方式を軸に、その他の時間帯のスタッフコストも下げていくことが可能になる。
朝食で流量を獲得し、昼食以降で利益を出す
現在の課題は、朝食メニューの品質向上だという。より質の高い食材を確保し、味を高めていく。「3元朝食でこんなに美味しい」という印象を来店客に持ってもらうことが重要になってきている。そこで、流量を確保し、昼食、午後の間食、夕食、夜食で利用してもらう。地域の顧客のマインドシェアを獲得し、デリバリー注文をしてもらう。南城香は、3元で昼食を出しても、その宣伝効果により、他の部分でじゅうぶんに利益が出せると考えている。