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中国版新幹線は2035年までに約7万km。中国経済の時限爆弾とも言われながらも進められる大型整備計画

国家鉄路によると、中国版新幹線「高鉄」は、2035年までに、現在の3.79万kmから約7万kmまで延伸するという。一方で、国家鉄路はすでに79兆円もの借金をしながら、さらに大型の建設計画を打ち出している。高鉄が中国社会の発展に寄与したことは間違いないが、中国経済の時限爆弾にもなりかねないという批判も起きていると超感科学が報じた。

 

基建狂魔と呼ばれるほど伸び続ける中国版新幹線「高鉄」

中国版新幹線「高鉄」(ガオティエ)の総延長は3.79万km。日本のフル規格新幹線7路線の総延長が2765kmなので、日本の約14倍になる。2010年の段階では5000kmだったものが、2015年に1.98万kmとなり、現在3.79万km。2035年には、約7万kmに伸ばし、人口50万人以上の都市にはすべて高鉄を通す計画だ。あまりの延伸ぶりに、中国国内からも「基建狂魔」と呼ばれているほどだ。

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▲高鉄の建設計画図。すでに主軸部分(赤)にリニア高速列車を走らせる計画も提案されている。この図で、台湾の台北市まで延伸していることが台湾で大きな話題になっている。

 

コロナ禍により旅客数は前年割れが続く

しかし、コロナ禍の影響で、鉄道旅客数は、2020年1月から前年割れが12カ月続き、2021年2月にようやく前年を超えた。と言っても、前年の2020年2月は、コロナ禍により前年よりも87.2%も減少した最悪の月で、コロナ禍以前の2019年2月と比較すると、-50.8%となる。通常の半分程度しか戻していない。

それでも、中国国家鉄路集団(CR)が2035年延伸計画を公表したのは、コロナ禍も終息していない2020年8月。まさに基建狂魔だ。

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▲高鉄のここ2年の旅客数。2020年は前年割れが続いて、2021年の2月にようやく前年超えとなった。しかし、2019年から比べると、多少戻った程度にすぎない。

 

世界一の高速鉄道網は、借金額も世界一

国家鉄路の財政状況も最悪の状況になっている。2020年Q3の財務報告書によると、2020年1月から9月までの利益は、787.11億元(約1.3兆円)の赤字。運営コストが約610億元で、これがそのまま赤字になっている。

それでも大型の延伸計画を進められるのは、莫大な借入金だ。現在、国家鉄路は4.75兆元(約79兆円)もの借入金がある。高鉄は、世界一の高速鉄道網だが、借入金もおそらく世界一だ。

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▲疾走する高鉄。総延長は3.79万kmとなり、2035年には7万kmに延伸し、人口50万人以上の都市をすべて結ぶことになる。

 

灰色のサイになると国内からも批判の声

時速350kmの高速路線の建設コストは1kmあたり1.29億元(約21.5億円)、時速250kmの低速路線の建設コストは0.87億元(約14.4億円)になる。仮に、今後の延伸部分がすべて低速路線だとしても、これから2.8兆元(約47兆円)の建設費が必要になり、延伸をすれば、その分運営コストも比例をして増えることになる。

すでに、中国国内からも、このまま延伸計画を進めると、高鉄は、中国の「灰色のサイ」になりかねないという声があがっている。灰色のサイとは、おとなしく見えるので軽視されがちだが、一度暴れ出すと誰も手をつけられなくなるという意味で、市場で軽視される大きなリスクを指摘するときに使われる。もし、国家鉄路が借入金をきれいに返済をして、収支バランスを取ろうとすると、高鉄の乗車料金は飛行機のファーストクラス並みになってしまうかもしれない。

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▲高鉄網の整備により、国内の人の移動が活発になり、中国社会を発展させたことは疑いようがない。国家鉄路はこれからも莫大な借金をしながら、高鉄網を整備していく計画だ。

 

中国社会を大きく変えた高鉄網

しかし、高鉄が中国の経済成長に大きく寄与したことは確かだ。高鉄の車両、線路設備、駅舎などの建設によって、製造業、建設業は潤っただけでなく、技術力も大幅に上昇した。

さらに、上海と蘇州、杭州のような大都市と周辺都市が1時間程度で結ばれ、中核都市群が形成されつつある。さらに、中核都市群を4時間程度で結ぶリニア鉄道網の計画も構想されている。いくら赤字が出ようとも、いくら借入金が増えようとも、高鉄の延伸が止まることはないと見られている。