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中国からのインバウンド再開。中国人の旅行観は今どうなっているのか?

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今回は、中国のインバウンド旅行再開についてご紹介します。

 

いよいよ、中国の日本向けの団体旅行が解禁となりました。これで日本のインバウンドビジネスもようやく元に戻ることができ、旅行や観光の関係者の方はほっと一息ついていることではないでしょうか。長いトンネルを抜け出せる兆しが見えてきました。

しかし、一方で、オーバーツーリズムに対する声も出てきています。特に団体行動をする旅行客は周りが目に入りづらくなり、マナー違反をしがちです。そこに、いわゆる”中国人の民度”が加わって、ネットにはひどい言葉を使って否定的なことを書き込んでいる例も見られます。

しかし、オーバーツーリズムの問題は、旅行者側ではなく、受け入れ側の問題であるということを忘れてはいけません。例えば、ディズニーリゾートを始めとする日本の主要テーマパークでは大きなオーバーツーリズム問題は起きていません。なぜなら、人気が高まれば入場制限を行い、チケット価格をあげ、そのお金でエンターテイメントコンテンツの質を上げ、来園者に「高いけれどそれ以上の満足感があった」と思ってもらえるように努力をするという正のスパイラルをつくっているからです。

もちろん、京都のような街全体が観光資源というような場所で、包括的な入場料の設定や入場制限をすることは簡単ではありませんが、観光施設が連携をして、入場制限を行ったり、参観できる施設を曜日ごとに変えることで旅行客を分散させるなど、できることはまだまだあるはずです。富士山なども入山制限を検討しているという報道がありますが、私は、せっかくきてくれた観光客が快適な体験ができるように、ぜひすべきだと思います。むしろ、世界に誇る観光資源である富士山がこれまで規制をしてこなったことが不思議です。入山料も、現在は任意になっていますが、これも義務化して何ら問題ないと思います。

「どなたにも自由に楽しんでほしい」という地元観光関係者の温かいお気持ちは素晴らしいことだと思いますが、それでオーバーツーリズムが起こり、「人混みしか記憶にない」と言って帰る羽目になることだけは絶対に避けなければなりません。どの観光地であっても、重要なのは「一見さんの数」ではなく「リピーターの数」なのです。

 

中国でも国内旅行はほぼ完全復活をし、北京市故宮博物院などは厳しい入場制限をしています。現在、故宮博物院にふらりと行って、チケットを買って参観することはできません。あらかじめ、微信(ウェイシン、WeChat)の故宮博物院のミニプログラムか公式サイトで、予約を取る必要があります。これは故宮博物院だけでなく、万里の長城(八達嶺)、天安門広場国旗掲揚、国家博物館、中国科学技術館など主要な観光施設が同様の予約制を行なっています。

これはオーバーツーリズム対策が主眼ではなく、新型コロナ対策です。中国でもまだまだ新型コロナ陽性者は、数は少なくても一定程度出ているため、人数制限をしてリスクを減らそうというものです。故宮博物院は以前は人数制限がないために、1日80万人が訪れたこともありました。しかし、入場前の荷物検査の行列に2時間ほど並び、今度はチケット購入に1時間ほど並ぶなど、ユーザー体験は最悪でした。そこで、2015年からは1日8万人を上限にする制限をかけるようになりました。

コロナ禍の間は閉鎖をしていましたが、予約制で再開をし、現在は1日3万人に制限をされています。この人数は状況を見て段階的に引き上げられるそうです。

 

この予約をするには、身分証番号の入力が必要で、当日参観をするのにも身分証の提示が必要になります。そのため、ダフ屋や転売屋のシャットアウトもできました。

北京在住の人に聞いてみると、観光客からも北京市民からも歓迎をされているそうです。その人は子どもの頃から北京に住んでいて、幼い頃に故宮には行ったことがありましたが、大人になってからは行っていませんし、行こうとも思わなかったそうです。観光客の長い行列ができているところに並ぼうとは思わなかったからです。しかし、この予約制が話題になって興味本位でWeChatにアクセスしてみると、うまいこと予約ができてしまいました。それで久々に故宮に行ってみたそうです。

荷物検査や予約チケットの確認は必要で行列はできていましたが、小一時間も並ばなかったと言います。さらに、中に入ってみると、人が多くないのでゆっくりと参観することができました。大人になって歴史的な知識も増え、改めて故宮に興味を持つことができたそうです。機会があればまた行きたいと言っています。

 

しかし、この仕組みにまったく問題がなかったわけではありません。不満を持ったのは旅行社です。旅行社に所属する有資格観光ガイドには、ガイド専用のアカウントがあり、それを使って団体旅行参加者分の予約をすることができます。ところが、当初はすべての観光施設の予約開始時間が午前0時であったため、旅行社では全員を残業させて、午前0時からチケット争奪戦に加わらなければなりませんでした。それでも顧客分の予約が取れずに、団体旅行のスケジュールを組み直すなど大きな負担がかかっていました。

そこで、北京市では、午後5時から午後8時までの間に、各観光施設で予約開始時間をずらせるようにしました。これで旅行社の負担は大きく軽減されました。私も故宮博物院のチケット争奪戦に参加してみましたが、午後8時からのスタートで、だいたい5分から15分程度で完売になります。当初はともかく、現在は「まったくチケットが取れない」という状況ではなくなっています。

 

転売屋もあきらめませんでした。故宮博物院の中には陶瓷館という小さな陶磁器博物館があります。参観するには別料金が必要ですが、歴史ある名品が多く、隠れた名美術館です。この陶瓷館では、関係者に招待券を配布しています。これは横の門から直接陶瓷館に入るれるチケットで、陶瓷館を参観し終わった後は故宮博物院を参観することができます。しかも、紙のチケットであるために無記名で、指定した期間であればいつでも自由に参観をすることができます。この陶瓷館の招待券をダフ屋たちは関係者から買取り、それを閑魚などのフリマサービスで高額転売をしました。故宮博物院の参観料は60元ですが、この招待状は1200元前後、つまり20倍の価格で販売をされていました。

このことが発覚をすると、閑魚では出品者のアカウントを停止(元々、チケット類の出品は認められていません)しました。さらに、故宮博物院では、8月1日から陶瓷館の公開を停止しました。再開日については案内がありません。

 

また、旅行ガイドの中にもダフ行為をする者が現れました。ガイドが専用アカウントを使って、団体旅行やガイドつき旅行の参加者のチケット予約をすることは認めらています。しかし、これを利用して、関係のない人のチケット予約代行をし始めたのです。旅行参加者でもないのに、ガイドつき旅行の客だとして身分証番号などを預かり、チケット予約をして100元以上の価格で販売をしていました。

これも発覚をし、不正行為を行なったガイドは、一定期間、ガイド資格の停止処分となりました。また、そのガイドが所属をする旅行社は格付けを下げられました。格付けを下げられると、公共の観光部門が行う施策への参加優先度が下げられるので、営業的には厳しい処分になります。

この世の中には、最初から完璧なシステムなどありません。北京市は、人数制限をするために予約システムを始め、問題が出ると修正をしたり、対策を打つというやり方で、コロナ感染リスク、オーバーツーリズムなどの問題を解決しようとしています。

 

オーバーツーリズムの問題を解決をするのは簡単ではありません。しかし、受け入れ側ができることはたくさんあります。今、中国からの日本旅行が解禁となり、一気に押し寄せられたら、確かに対応が間に合わないということもあるでしょう。それでも観光地は一歩一歩着実に対応をしていかなければなりません。放っておくと、地元の市民からは苦情が出て、観光客も混雑ばかりで嫌な体験をして、そのうち来てもらえなくなるという誰もが損をすることにもなりかねません。

実際、中国人の旅行感はコロナ前と比べて大きく変わっています。今回、どう変わったかをご紹介したいと思います。一言で言えば、安近短に大きくシフトしています。ただし、これが現在の一時的なものであるのか、恒久的な変化なのかはよくわかりません。たとえば、海外旅行に関しては想像以上に低調で、観光関係者は落胆をしています。これは解禁になったこの時期だから、多くの人が様子見をしているだけなのか、それとも恒久的な変化なのかは、いずれとも断言できません。そこで、今回は、中国人の旅行観がどう変化をしてきているかをご紹介します。

日本は、すでに観光産業が主力産業になっていて、その中でも中国からのインバウンド客は非常に重要なお客様になっています。ここを落とすようなことがあると、日本の観光業も先行きが不安になってきます。今回は、中国人の旅行観がどう変わったかについてご紹介します。

▲2019年の国別訪日外国人の旅行消費額。2019年は中国人の消費額が圧倒的に多かった。中国の訪日解禁により、ようやくインバウンド産業が正常化される。「2019年の訪日外国人旅行消費額(確報)」(観光庁)より引用。

 

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