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農村から都市を包囲する戦略。中国独特の地方戦略で成功する企業たち

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今回は、「農村から都市を包囲する」戦略についてご紹介します。

 

中国のビジネス界では、この「農村から都市を包囲する」という言葉がよく登場します。資金力に限りのあるスタートアップ企業、中小企業が、主戦場となっている市場をあえて避け、競争の激しくない市場でサービスの体制を整え、力を蓄えてから主戦場になっている市場に参入をしていくということを指します。

特に2010年以降のテック業界では、投資環境が急速に整い、整いすぎて過剰に投資資金が集まる状況になったこともあって、新サービスの競争はしばしば資本力の競争になることがあります。いわゆる「焼銭大戦」と呼ばれるもので、大量のクーポンを発行し、大量のサービスを投入し、一気にシェアを握ってしまおうというものです。

そのため、資金力のないスタートアップ企業や遅れて参入をした企業は、なんらかの知恵を絞らなければ食い込んでいくことができません。そこで、焼銭大戦となりやすい主戦場を避けて、サブ市場で力を蓄えてから、主戦場に再参入するという戦略を取ることが多いのです。

中国の場合、購買力のある大都市が主戦場となることが多く、購買力の弱い地方市場や農村がサブ市場となることが多くなります。このような企業の戦略が「農村から都市を包囲する」と表現をされることになります。

 

この「農村から都市を包囲する」戦略は、毛沢東が政権を奪取するために示した大戦略で、この発想がなければ中国共産党が新中国を建国することはできなかっただろうと言われるほど重要なものになっています。

共産思想というのは簡単に言えば私有財産の否定ですから、資産を持っている人は当然嫌がります。当たり前です。持っている貯金や財産をすべて吐き出して、社会全体の共有財産にするというのですから、資産家にとっては共産主義者も強盗も区別がつきません。そのため、共産党は資産を持っていない人の支持を取り付ける必要があります。

欧州の場合は、それが都市労働者でした。工場などで働き、ぎりぎり生活できる以外のお金は搾取をされてしまうような人々です。このような資産を持っていない人にとっては、お金持ちから資産を没収して社会の共有財産にし、食事や医療など生きるのに必要なコストがすべて無料化されるというのですから、共産主義者は神様のように見えたでしょう。

しかし、中国ではこのような手法はうまくいかないと毛沢東は考えました。なぜなら、当時の中国の工業はまだ未発達で、都市労働者など数えるほどしかいなかったからです。もうひとつの問題は、中国共産党だ紅軍だと言ってみたところで、寄せ集めの部隊で練度は低く、武器も不足しているという弱小兵力だったということです。資金力もあり統制もされている国民党軍と直接対決したら、ほぼ確実に負けてしまうことになります。

そこで毛沢東が目をつけたのが農村です。農民は地主によって搾取をされていました。紅軍は地主の家におしかけ、脅して土地を放棄させ、農地解放を行なっていきました。地主といっても個人宅にすぎませんから、小さな部隊が押し入っただけでも制圧できます。小作農は作物を上納しなくてよくなり、お腹いっぱい食べられるようになるのですから共産党を支持するようになります。中には共産党に入党したり、紅軍に従軍する者も現れます。

こうして、地主から略奪したお金で軍備を整え、賛同した農民で兵力を増やし、紅軍は都市を包囲する形で根拠地を広げ、最終的に都市に侵入をし、国民党軍を制圧し、新中国を建国することになります。

 

この毛沢東のエピソードは、ビジネスにも大きな示唆を与えてくれています。

1)力不足の間は、競争の激しいレッドオーシャン市場を避ける

2)教科書通りの市場をねらうのではなく、状況を調査し、最適の市場を見つけ、そこをねらう。毛沢東にとっての教科書(欧州の状況)では、共産党の最適顧客は都市労働者ということになっていました。しかし、毛沢東は農業が中国最大の産業であること、地主による農民への搾取の方が苛烈であることなどから、農民を最適顧客に定めました。

3)ブルーオーシャン市場でシェアを高め、力を蓄え、体制を整える。毛沢東は農村から支援を受け、武器を整え、農民の余剰人口を紅軍に組み入れていきました。また、新中国建国の18年前にあたる1931年には中華ソビエト共和国臨時中央政府を樹立し、主席に就任しています。名目だけの政府だとは言え、政権の形を整えていきました。

4)メイン市場に参入をする手法を確立する

1945年から、都市を拠点にしていた国民党に対して、毛沢東は最終決戦となる国共内戦を始めます。国民党軍は米国の支援を受けていたため、毛沢東はこれを非難して、国民党のイメージを低下させます。その一方で、自分たちはこっそりとソビエト連邦から武器支援を受け、降伏をした日本軍の兵器を鹵獲し、軍事力を高め、勝利を勝ち取ります。

つまり、力(資本力やサービス品質など)で劣るスタートアップ企業、中小企業は、「自力で最適市場を発見し」「力を蓄え、体制を整備し」「メイン市場に参入する手法を確立する」という3つのことを行い、最終的にシェアを握るという戦略が、農村から都市を包囲する戦略です。

 

これは言葉や考え方の上だけのことではなく、多くの企業がこの戦略により成功をしてきました。現在、三大ECのひとつに挙げられるソーシャルEC「ピンドードー」、フードデリバリーでトップシェアの「美団」(メイトワン)、シェアリング自転車でトップシェアの「ハローバイク」、店舗数トップとなったコンビニ「美宜家」(メイイージャー)などがいずれもこの戦略を意図的に、あるいは致し方なく採用してきました。

今回は、この4社が、農村から都市を包囲する戦略をどのように活用してきたかについてご紹介をします。

 

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