施設や都市のデジタルツイン化が進んでいる。ドローン測量により、建築物のデータ化が手軽になったからだ。図僕軟件はデジタルツインをウェブ、モバイル、VRなどで操作できるシステムを開発した。デジタルツインが手軽に扱えるようになることで、観光施設の管理などに大きく貢献をすると期待されている。
仮想空間の中で設計から試験まで
現実の世界を仮想空間の中に再現をするデジタルツイン。工業製品の多くはCAD(Computer Aided Design)の中で設計される。ゼロから設計モデルを制作することもあるが、組み立て設計では、それぞれの部品メーカーからCADデータをもらい、CADの中で組み立てを行うこともある。
CADの中でできるのは組み立てだけではない。さまざまな試験が行える。動作試験を始め、耐性試験や物理シミュレーションなどが可能になる。自動車や航空機であれば空力的なシミュレーションも可能になる。
従来は、設計図で設計を行い、試作品を使って、現実世界の中で試験を行い、問題箇所を修正するということをしなければならなかった。それが、仮想空間の中で設計から試験までが行えるようになってきている。
建築物や都市を仮想空間に再現するデジタルツイン
この発想を工場、建築物、都市にまで拡張したのがデジタルツインだ。現在、建築物のデータ化は、外観に関しては、ドローン撮影などの空中撮影からほぼ自動化ができるようになっている。さらに建築図面などから内部構造データを作成することで、仮想空間に建築物がそのままそっくり、双子のように再現ができるようになる。
これだけでは、ただの3Dモデルにしかすぎない。ここに現実世界に設置されたセンサーから情報を重ね合わせることで、さまざまなことができるようになる。例えば、テーマパークが全体のデジタルツインを作成し、現実の園内に設置されたセンサーから人流を把握し、デジタルツイン上に表現をすることができる。混雑をして人流が滞っているような箇所が発生した場合に、スタッフを派遣したり、誘導掲示を変更することで、混雑を解消することができるようになる。
ウェブ上でデジタルツインが操作ができる
図僕軟件(トゥープー)は、このデジタルツインをウェブやモバイル、VRなどで操作できるツールHT for Webを販売している。HTML5上で動作させることで、PCやスマートフォンからデジタルツインの操作が可能になる。
従来は、デジタルツインのような重たいデータを扱うには、専用のアプリケーションが必要になったが、ウェブで可能になることにより、利用のハードルが大きく下がる。
その図僕が故宮博物院(紫禁城)のデジタルツインを作成し、デモとして公開している。
故宮のデジタルツインは、センサー情報も集約
故宮は敷地72万平米、建築面積15万平米と広大で、ここに70以上の建築物があり、部屋数は9000を超える。このすべてが仮想空間の中に収められている。
この3Dデータ空間の中を移動するだけでも、クラウド旅行として意味がるが、HT for Webのメリットはここから先にある。故宮のさまざまな箇所に設置された防犯カメラ、センサーの情報を集約して、ウェブ上で可視化されるだけでなく、さまざまなシミュレーションが行えるようになる。
観光客を空いているトイレに誘導する
最もわかりやすいのはトイレ案内だ。故宮は古い施設であるために、来訪者数に対してトイレの数が少ない。しかも、多くの観光客が太和殿から北門にかけての中心線に集中をする。このルートにあるトイレはいつも行列をすることになる。一方、東西に外れる部分は観光客も少なく、トイレは空いている。トイレ利用のギャップが起きていて、観光客に不満を与えている。
トレイには入り口のセンサー、個室ドアの開閉センサーなどが設置されていて、利用状況をリアルタイムで把握ができるようになっている。また、入り口に防犯カメラを設置し、画像解析をすることで行列の人数も把握することができる。
これをデジタルツイン上に重ね合わせることで、トイレの使用状況、混雑状況が一覧できるようになる。それだけではなく、故宮内の案内掲示を液晶ディスプレイなど表示内容を変えられるものにしておけば、トイレ案内の表示を、混雑しているトイレから空いているトイレに変えることで、トイレの混雑を緩和することができるようになる。
デジタルツイン内では、このような表示変更は、トイレ状況、人流、表示ディスプレイ位置などから計算をさせることで自動化が可能だ。
人流をヒートマップで可視化し、適切な避難誘導を
故宮内に設置された人流センサー、あるいは防犯カメラ映像からの画像判別により、人流のヒートマップを作成することができる。このような密集地域では、トラブルの発生確率も上がるため、整理スタッフを効率的に派遣することができるようになる。
特に重要なのが避難経路だ。万が一火災などの事故が起きた場合、観光客は避難経路の指示に従って、外に脱出をすることになる。しかし、故宮は広く、どこの避難口が近いのかは、瞬時に判断ができない。また、火災現場が避難口方向にあった場合は、かえって危険を増やしてしまうことになる。
このような状況では、多くの人がパニックになり、ちょっとしたきっかけで非合理的な行動を取り始め、火災の規模はたいしたことがなくても、避難者による圧死など人災が起きてしまう可能性すらある。
デジタルツイン上では、火災発生箇所、人流ヒートマップなどから、適切な避難経路を自動計算させることができる。これに基づき、スタッフが誘導をしたり、避難掲示を変更して、安全に避難誘導ができるようになる。
デジタルツインによる管理は、故宮だけでなく、商業ビル、工場、鉄道駅、観光地、地区、都市などにも有効だ。今後、デジタルツインによる運営管理が広がっていく可能性がある。