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故宮博物院×テンセント。博物館のデジタル化で行った5つのこと

故宮博物院とテンセントが共同で進めている収蔵品のデジタル化プロジェクトが始まって5年になる。すでにデジタル化が完了をし、WeChatミニプログラムなどを通じて、スマホで収蔵品を鑑賞できるようになっていると文化産業評論が報じた。

 

コロナ禍の打撃の中で進む収蔵品のデジタル化

世界中の博物館が加盟する国際博物館会議(International Council of Museums、https://icom.museum)によると、博物館が受けたコロナ禍の打撃は大きく、2020年の世界トップ100の博物館の来館者数は前年の77%も下落した。

しかし、悪いことばかりでない。収蔵品のデジタル化を行い、閲覧、ライブなどをする博物館も15%以上にのぼるようになった。

故宮博物院とテンセントの共同プロジェクトは2016年から始まっており、すでに5年になる。その中でさまざまな試みが行われてきた。

 

1:若者に受け入れるための新しい表現

共同プロジェクトがスタートした当時、エンターテイメントが得意なテンセントと、若者に伝統文化や歴史を知ってもらいたいという故宮博物院側の意向が合致をして、若者向けのさまざまな新しい表現が模索をされた。収蔵品を素材として、漫画、音楽、ゲームなどが制作された。

故宮:口袋宮匠」はWeChatミニプログラムのゲームで、故宮の中を歩きながら文物の素材となる金属などを集めるというもの。さらにQQスタンプ、漫画なども制作した。さらには故宮博物院が「千里江山図」の一般公開を始めたことを記念して、「丹青千里」という音楽も制作をした。

また、2017年にテンセントは敦煌莫高窟敦煌研究院とも共同プロジェクトを始め、敦煌莫高窟の素材を使って自分でデザインし、スカーフがつくれるWeChatミニプログラムを公開した。自分でデザインをし、199元(約3600円)で購入をすると、オリジナルのスカーフが宅配される。

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故宮博物院のイメージを使い、SNS「QQ」で利用できるスタンプが作成された。


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▲「千里江山図」の一般公開に合わせて制作された音楽「丹青千里」。若い世代が収蔵品に親しむことに貢献をした。

 

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故宮の収蔵品を守るために活躍した民間人を描いた漫画「故宮回声」。

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▲WeChatミニプログラムゲーム「故宮:口袋宮匠」は、故宮の中を歩きながら、美術品をつくる素材を集めていくというものだ。

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敦煌研究院では、壁画のモチーフを組み合わせて、自分でスカーフがデザインできるミニプログラムを公開した。制作したスカーフは199元で購入ができる。

 

2:収蔵品のデジタルデータ化

2017年になると、故宮博物院とテンセントは「連合イノベーションラボ」を設立し、本格的な収蔵品のデジタル化作業に入った。10万点を超える収蔵品を3年で高精細デジタル化するというプロジェクトだ。この作業を終えたことが大きく、故宮の収蔵品は、さまざまな方法でデジタル展開ができるようになった。

2021年12月、深圳市で開催された「第2回文化+科技国際フォーラム」では、故宮博物院の収蔵品を大型裸眼3Dディスプレイでの展示が行われて大きな話題となった。

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故宮の収蔵品10万点はデジタル化が終了し、ミニプログラムからいつでも鑑賞をすることができる。

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▲文化+科技国際フォーラムで公開された大スケールの裸眼立体視展示。故宮のさまざまな収蔵品がダイナミックに展示される。



3:収蔵品修復へのAIテクノロジーの応用

2021年3月には、敦煌研究院とテンセントは、収蔵品をデジタル化する3年間の共同プロジェクトを始めた。しかし、問題となったのは、敦煌莫高窟の収蔵品は壁画が主体であるため、損傷が進んでいるということだ。この修復作業は手作業で行うしかない。

そこで、AIを活用して、スキャンした高精細画像から損傷部分を自動的に検出するシステムを構築した。6種類の損傷を見分け、正答率は90%近くになっている。この損傷データを元に、修復計画を立て、予算や専門家を効率的に配分することで、修復作業が加速された。

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敦煌莫高窟の壁画は損傷が激しい。デジタルデータから損傷部分を検出するAIモデルを構築し、この結果を参考に、修復計画を立てた。修復作業が大きく加速された。

 

4:収蔵物のデジタル展示

収蔵品のデジタル化が完了すると、WeChatミニプログラムを利用して、オンライン展示を始めた。「デジタル故宮」「クラウドトリップ敦煌」の2つのミニプログラムで、それぞれの収蔵品をスマホで24時間いつでも見ることができる。収蔵品は高精細3Dデジタル化されているため、どの角度でも自由に動かすことができる。

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クラウドトリップ敦煌では、敦煌莫高窟の壁画とその解説を読むことができる。

 

5:海外の収蔵品のデジタル展示

2020年の春節、テンセントはWeChatミニプログラム「国宝グローバルデジタル博物館」を公開した。フランスのギメ東洋美術館、米国ニューヨーク市メトロポリタン美術館などと提携し、海外の博物館、美術館に収蔵されている中国国宝級の収蔵品を高精細3Dデジタル化をして、スマホで見られるようにした。3Dであるので角度を変えることができ、テキストと音声の詳しい解説がついている。海外の博物館であるために、気軽に見にいくことはできず、このコロナ禍ではなおさら見ることができない。これをスマホで見られるようにした。

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▲WeChatミニプログラム「国宝グローバルデジタル博物館」では、海外の博物館に収蔵されている国宝級の収蔵品を鑑賞できる。3Dデジタル化されているので、指で角度を変えることができる。

 

他の博物館とも提携を広げるテンセント

博物館は、その国の文化にとって重要な役割を担っているが、そこに行かなければ収蔵品を見ることができない。しかも、保護ケース越しでしか見ることができない。高精細デジタル化を行うことで、どこでも見ることができ、指で角度を変えることができる。学習、研究に大きな効果があるばかりでなく、市民が文化的な収蔵品に親しむということにも大きく貢献する。さらに、収蔵品をIPとしてグッズやコンテンツに展開することで、博物館は利益を得ることができ、維持をし、研究の幅を広げることができる。

テンセントは、今後も故宮博物院敦煌研究院との提携を深めるだけでなく、他の博物館との提携も広げていく予定だ。