中国No.1カフェチェーンのラッキンコーヒーがシンガポールに出店をし、東南アジア市場攻略を始めた。しかし、東南アジアはコーヒー先進国であり、ラッキンは乗り越えなければならない壁がいくつもあると虎嗅が報じた。
地方に進出すると売上成長率は低下をする
中国で店舗数がスターバックスを抜き、No.1のカフェチェーンとなった「瑞幸珈琲」(ルイシン、Luckin’ Coffee)がシンガポールに出店をした。
2022年、ラッキンだけでなく、スターバックスなどのカフェチェーンが中国の地方市場に注目をし、出店を始めている。大都市でのカフェ数が飽和状態に達しているため、新天地を求めたからだ。
しかし、その引き換えに、ラッキンの成長率は低下をしている。2022年の第2四半期から第4四半期までの前年比成長率は41.2%、19.4%、9.2%と下落をしている。これは人気がなくなって業績が低下をしているのではなく、地方店舗は大都市店舗に比べて客数が少なく、客単価も低いためで、織り込み済みのことではあった。しかし、仕方がないと放置するわけにはいかない。
海外でもスターバックスを追い抜くのが目標
そこで、ラッキンは地方進出と並行して海外市場の調査を行った。その結果、東南アジアには北京や上海と消費性向がよく似たコーヒー都市が多いことを発見した。シンガポール、バンコク、ジャカルタ、マニラ、ホーチミン、クアラルンプールでは、すでにスターバックスが進出をしていて、コーヒー文化が定着をしていることもわかった。
ラッキンは、スターバックスが人気だった中国市場で、わずか4年で店舗数をスターバックスを追い抜き、営業収入も追いつこうとしている。地方市場に進出をして業績数字が渋くなったラッキンがやるべきことは、海外のこのようなコーヒー都市で、中国と同じように再びスターバックスを追い抜くことだ。
ラッキンに立ち塞がる東南アジアの壁
そして、4月にはシンガポールのマリーナスクエアとオーチャードロードに出店をした。マリーナスクエアは、都心に近く周りはオフィスビルが多い。オーチャードロードは有名なショッピング地区だ。ラッキンはこの2店舗を中心にシンガポールで店舗展開を行い、東南アジアの他の都市に広げていく計画だ。
しかし、中国市場でのように驚異的な成長を東南アジアでも見せられるかどうかは疑問だ。なぜなら、東南アジア市場には、ラッキンがそう簡単には成長できないさまざまな事情があるからだ。
ラッキンの模倣者がすでに地位を確保している
最も大きいのが、シンガポール地元企業の「Flash Coffee」(https://flash-coffee.com/sg/)で、すでに20店舗を展開している。このFlash Coffeeは明らかなラッキンの模倣者なのだ。アプリによるモバイルオーダー、キャッシュレス決済を基本にし、スタンド店を展開し、店舗コストを下げ、コーヒーの品質にお金をかける。グラブと提携してデリバリーも行う。ラッキンの優れたところをよく学んで、ラッキンよりも先にシンガポールでチェーンを広げている。
どちらがどちらを模倣したなどという主張はまったく意味がない。シンガポールの消費者にとっては、フラッシュコーヒーが先にやっていたことであり、後から入ってきたラッキンは二番煎じにしか見えず、新鮮味を感じない。このフラッシュコーヒーにどう対抗していくのかが大きな課題になる。
海外では高い価格設定
もうひとつは価格設定だ。ラッキンはシンガポールのメディアからは「中国のスターバックス」という形容のされ方をしている。中国では「スターバックスと同じ品質で、価格は半分」という評価を得て、人気を獲得していったが、シンガポールでは価格設定が中級から高級の領域、つまりスターバックスとほぼ同じになっている。
現在、ラッキンの人気ドリンクは「ココナッツラテ」だが、価格は8シンガポールドル(約830円)だ。一方、スターバックスの定番商品「スターバックスラテ」は7.1シンガポールドルで販売されている。現在は、オープンキャンペーンのクーポンなどを利用することで20%以上安く飲むことができるが、価格が正常に戻った時、リピートしてもらえるかどうかはわからない。
東南アジアは、コーヒー先進国
さらに、ラッキンがねらっているのは、シンガポールだけで成功することではなく、シンガポールでの成功を背景に、東南アジア各都市に展開をすることだ。シンガポールの成功をサイフォン効果として利用して、一気に東南アジア各都市に展開をしようとしている。
しかし、東南アジアは、実はコーヒー先進国で、ベトナムとインドネシアは世界有数のコーヒーの産地だ。以前は生産をして輸出をするだけだったが、豊かになった東南アジアの人々はみずからもコーヒーを楽しむようになっている。ベトナムやインドネシアのコーヒー栽培地のそばには、レベルの高いカフェが登場し、味を競うようになり、海外からも飲みにくる人が現れるようになっている。
さらに、東南アジアは、それぞれの国が独特のコーヒー文化を持っている。シンガポールは米国スタイルであり、ラッキンもなじみやすい。しかし、ベトナムのコーヒーはフランスの影響が強く、独特のベトナムコーヒーを生み出している。また、インドネシアでは酸味のあるコーヒーが好まれる傾向がある。
東南アジアには長いコーヒーの歴史がある
つまり、東南アジアはカフェ文化という点では、中国や日本、韓国などから遅れているが、コーヒー飲料という点では本場であり長い歴史を持っている。そこに進出をし、受け入れてもらうというのは、中国の地方市場進出よりも難易度ははるかに高い。
シンガポールのラッキンは、現在は新奇性があり、クーポン戦略による割引もあるために、連日、多くの消費者が押し寄せ人気店となっている。問題は通常営業になった時だ。リピーターを養成できるかどうか。中国で成功したラッキンが海外に進出するのは当然のことと中国では見られているが、意外にも東南アジア市場の攻略は簡単ではない。ラッキンの運営力が試されることになる。