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加盟費0元にしたラッキンコーヒー。加盟店に優しい運営がブランドを守りながらの拡大を可能にしている

ラッキンコーヒーの店舗拡大が止まらない。今年2023年中に1万店舗の大台を突破するのは確実と見られている。その原動力になっているのが加盟店の増加で、加盟店の増加の理由は加盟費用を0元にするという思い切った施策を行ったことにあると無冕財経が報じた。

 

地方出店を加速するラッキンコーヒー

スターバックスと中国の瑞幸珈琲(ルイシン、Luckin’ Coffee)が地方都市への進出を始め、県城と呼ばれる県級の地方都市でコーヒーブームが起きている。カフェが出店をすると、どこも長い行列ができる状態になっている。もちろん、地方都市ではカフェそのものがまだ珍しいため、一時的な現象であるとみられているが、地方都市へのカフェ定着にとっては大きな成果だ。

そして、かつて「開店狂魔」とまで呼ばれたラッキンは、コロナ禍で店舗数が一時停滞をしたものの、再び地方都市を中心に大量出店を始めている。2022年には2194店もの新規出店を行った。新規出店数第2位のラッキーカップが1521店舗、スターバックスは681店舗なので、店舗数ではスターバックスを引き離そうとしている。創業時の目標だった「2021年末までに1万店舗」は、コロナ禍や不正会計問題などがあり達成できなかったが、この調子であれば、今年2023年中に1万店舗を達成するのはほぼ確実だと見られている。

▲ラッキンコーヒーは直営店のみで店舗数を拡大してきたが、不正会計問題やコロナ禍により停滞。それを解消するために加盟店開放を行った。さらに、加盟費用を0元にし、加盟店数が急増している。さらに直営店の出店も加速させている。

 

コロナ禍の店舗数減少をフランチャイズで乗り切る

この大量出店の原動力となっているのがフランチャイズだ。ラッキンは、当初、直営店のみでの展開をしていたが、不正会計問題やコロナ禍で業績が停滞をすると、すぐに加盟店開放を行った。コロナ禍では、直営店を減らさざるを得なかったが、その分を加盟店の新規出店で補った形だ。

2021年に新型コロナの感染拡大への不安が薄れると、加盟店の新規出店数も増加をし始め、さらに地方進出では直営店の新規出店も増やしている。直営店と加盟店の両輪で、店舗数を急激に伸ばしている。

▲モバイルオーダー、スタンド店という新しいコンセプトで人気を博しているラッキンコーヒー。店舗数ではスターバックスを抜いて、中国No.1のカフェとなっている。

 

加盟費用0元を打ち出す

しかし、加盟店というのは、土地や店舗などを所有しているオーナーが、加盟店費用を支払って、加盟店を運営するというものだ。当然、オーナーは利益が見込めなければ加盟をしない。ラッキンは、加盟店オーナーに加盟をしやすくしなければならない。そこで、ラッキンが打ち出したのが「加盟費用0元」だ(売上に対する一定割合のロイヤリティ費は必要になる)。

この「加盟費用0元」は、中国のフランチャイズチェーンでは、ひとつのトレンドになりつつあり、多くのチェーンが「加盟費用0元」を打ち出し始めている。

▲主なチェーンの初期費用。ラッキンコーヒーは他のドリンクチェーンと比べて初期費用は安くはないが、単価が高いため、初期費用は他チェーンよりも短期で回収しやすい。

 

加盟店オーナーが気にするのは初期費用回収期間

加盟店オーナーにとって、最も気になるのが、初期費用回収期間だ。最初に投資をした初期費用がどのくらいの期間で回収できるかを最も気にする。

店舗の収支が黒字になるか赤字になるかはやってみないことにはわからないところがある。赤字が続くのであれば、損切りをして撤退をするしかない。しかし、初期費用が回収できていない間に撤退をすることは大損をすることを意味し、それだけは避けたい。しかし、初期費用が回収できた後であれば、いつ撤退をしても損をすることはない。初期費用回収後であれば、営業継続/撤退を、オーナーの判断でできるようになる。そのため、多くのオーナーが初期費用回収期間は短ければ短いほどいいと考えている。

そのようなオーナーに対して、「加盟費用0元」は非常に響き、多くのオーナーが加盟店になってくれる。

 

ロイヤリティ料率も段階的適用

ただし、ラッキンは加盟店費用は0元にしたものの、トータルの初期投資は36万元前後と、他のカフェチェーン、中国茶カフェチェーンと比べて決して安いわけではない。コーヒーの品質と洗練された内装を重視するラッキンでは、コーヒー関連の設備費用と店舗内装費がどうしても高くつくからだ。

それをラッキンはロイヤリティを段階適用することで補っている。一般的なチェーンでは、毎月の売上に対して定率のロイヤリティが徴収をされる。チェーンは、このロイヤリティと加盟店に販売する原材料費で利益を得ている。

ラッキンでは、粗利が月2万元以下の場合、ロイヤリティは徴収しない。そして、2-3万元では10%、3-4万元では20%、4-8万元では30%、8万元以上では40%のロイヤリティを徴収する。つまり、「儲かったら、ロイヤリティをいただく」方式であり、これが加盟店オーナーの心理的ハードルを下げている。

 

フランチャイズがアコギでなくなった3つの理由

近年のフランチャイズチェーンは、ラッキンだけでなく、どこも「加盟費用0元」やロイヤリティの料率を下げるなど、加盟店に優しい運営にシフトをしている。昔のように、儲からない商売を押し付けて、ロイヤリティだけをむしり取っていくというあこぎなチェーンは少なくなっている。

その理由は3つあると言われている。

ひとつは、原材料費を一括仕入れ、一括製造することで、安価に提供する技術が進展し、加盟店に対する原材料の販売で利益が出せるようになってきたことだ。多額のロイヤリティを徴収しなくても、チェーンの経営が安定するようになった。

2つ目は、オーナーの心理的ハードルを下げることで加盟しやすくし、出店しやすくすることがチェーン全体にとって利益になることだ。チェーンにとって、店舗そのものが広告塔であるため、店舗数は多ければ多いほど有利になる。

 

加盟店に利益をもたらせば、自動的に不正も減る

3つ目は、加盟店に利益が出る仕組みにすることで、ブランドが守りやすくなることだ。加盟店のオーナーはビジネスで加盟店を運営している。利益が出なければ、利益が出るような工夫をする。その典型的な工夫が、原材料をチェーンから仕入れるのではなく、もっと安い原材料を市場から調達をしてしまうというものだ。当然、品質は落ち、場合によっては衛生問題や健康問題につながりかねない。もう一つの典型的な工夫が、チェーンとは関係のない商品の販売を始めてしまうことだ。カフェであれば、独自仕入れした飲料やスイーツを勝手にメニューに入れて販売をしてしまう。

このような行為は、フランチャイズ契約違反だが、利益の出ない加盟店はやむにやまれずやってしまう。そこで、チェーンはエリアマネージャーを派遣し、違反行為をしていないかどうか監視しなければならない。

しかし、加盟店が儲かっているチェーンではこのようなことは起こらない。加盟店オーナーも、儲かってさえいれば、違反行為をしようとは思わない。

つまり、加盟店に利益が出るような運営をすることで、チェーン全体の品質やブランドが守れることになる。

ラッキンは、ただやみくもに出店をし、加盟店を増やしているのではなく、このような運営をしながら、店舗数を増やし、同時に品質やブランドを守っている。今年2023年もラッキンの店舗拡大は止まりそうにもない。