EVはエンジン音がしないため、車内が静かであることが魅力のひとつになっている。その代わりに、今度はタイヤが発生するノイズを気にする人が増えている。中国では静音タイヤの開発競争が始まっているとGeek研究僧が報じた。
車はもはや静かな乗り物になった
新エネルギー車、特に電気自動車(EV)のメリットのひとつは静粛性だ。燃料自動車のエンジン音がなくなり、静かなモーター音となったため、車内空間が一気に静かになった。その一方で、タイヤによる騒音が目立つようになっている。
各タイヤメーカーは、燃料車の時代から静音タイヤを開発してきた。しかし、EVが急速普及する中国のタイヤメーカーは、さらに一歩進んだ静音タイヤを販売し始めている。
このような高性能静音タイヤは、中国の専売特許ではなく、テスラ、ボルボ、BMWなどが採用をしている。しかし、欧州の自動車メーカーが高性能静音タイヤはあくまでも高級車向け仕様であると考えているのに対し、中国のタイヤメーカーは量産をして一般向けに普及をさせようとしている。2023年は、高性能静音タイヤが広く普及する年になる可能性がある。
3種類あるタイヤのノイズ
タイヤが発生するノイズは主に3つある。
1)ロードノイズ
タイヤが路面の凹凸を拾って、車内に伝わってしまうノイズ。「ゴー」「ガー」という音が続く。このロードノイズを軽減するのは簡単なことで、タイヤの素材を柔らかいものにすれば軽減される。しかし、その一方で、素材を柔らかくすれば磨耗しやすくなり、タイヤの耐久性が失われる。
2)パターンノイズ
タイヤにはトレッドパターン(溝)が刻まれている。雨天時に雨水を排除したり、グリップ性能を高めるなどさまざまな機能を持っている。この溝が、空気も捉えてしまい、接地をすると空気を溜め込んでしまう。タイヤが回転し、地面から離れる時に、この溜め込んだ空気が放出される。この音がパターンノイズとなる。「シャー」という連続音が続いたり、速度が変わる時に音の周波数が変わるために「ヒュルヒュル」という音がすることもある。
このパターンノイズを軽減するには、トレッドパターンを工夫することになる。しかし、トレッドを小さく浅くすればパターンノイズは小さくなるが、今度は雨天時の雨水の排除やグリップ性能、放熱性、安定性などが失われていく。
3)空洞共鳴音
高速道路の繋ぎ目や路面の突起などを乗り越える時の「パカン」という音。バスケットボールを叩くと大きく乾いた音がするのと同じ原理で、タイヤ全体が共鳴をして大きな音が出る。従来は有効な対処法がないノイズだった。
スポンジを内部に入れ、空洞共鳴音を軽減
高性能静音タイヤの考え方はシンプルで、ポリウレタンスポンジをタイヤの内部に入れるというものだ。特殊な接着剤でタイヤの内部に接着をする。これにより、空洞共鳴音が大きく低減される。
また、スポンジは、ロードノイズやパターンノイズに関しても静音効果があるために、タイヤの性能を落とさずにこの2つのノイズを軽減することができる。
さらに、タイヤの衝撃や振動も吸収されるため、乗り心地もよくなる。
ナノレベルの溝を使い、いつも美しいタイヤ
現在、中国のタイヤメーカーが発売している高性能静音タイヤのうち、高い評価を得て、売れているののは「支点静力S1」「雷神静悦」「東風鷹撃01X」の3つになる。
特に注目をされているのが「支点静力S1」だ。内部にポリウレタンスポンジを入れ、トレッドパターンも工夫をすることで騒音を低減しているだけでなく、見た目も美しく保つ技術が使われている。
新品のタイヤは黒く輝いているが、走行をするとすぐにホコリがついてくすんでしまう。そこで、支点静力S1はタイヤ側面にナノレベルの溝を刻んだ。これにより、ホコリが付着しにくくなり、いつまでも黒い輝きを失わないというものだ。ただし、価格は高価なものになる。
一方、雷神静悦、東風鷹撃01Xの2つは低価格をねらったもので、実勢価格は350元(約6800円)前後になっている。EVオーナーには好評で、広く普及する可能性が出てきている。
ノウハウの塊、エンジンとギア。EVにはそれがない
自動車の技術は、燃料エンジンとギアボックスの技術に関しては、ノウハウの蓄積が重要で、中国が欧米や日本に追いつくことは簡単ではない。しかし、この2つのハードルがなくなったEVでは、中国の新技術開発が目覚ましい。モーター、バッテリーという自動車の基幹部分だけでなく、その他の関連技術に関しても新技術が次々と生まれ、広く普及することが始まっている。