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低価格はやはりECの核心競争力。低価格戦略に戻る京東、取り残されるタオバオ

EC「京東」が戦略を見直し、初心に戻って低価格戦略を強化する。一方、ライバルのタオバオは出遅れ、他のECに比べて価格が高いことや、利用者によって価格が異なることがSNSなどで問題になり始めていると人人都是産品経理が報じた。

 

低価格は小売業の絶対正義

小売業者にとって、「低価格」は絶対の正義だ。消費者の中には「付加価値のある商品、質の高いサービスが得られるのであれば、必要なコストは支払う」と言う人は多いが、実際にはそのようには行動しない。誰もが低価格の方に流れていく。

EC「京東」(ジンドン)の創業者、劉強東(リュウ・チャンドン)は、2022年に社内メールで次のように語り、低価格路線を強化することを宣言した。

 

価格は1だが、品質とサービスは0

低価格は、ECの核心競争力であるばかりでなく、すべての小売業の変わることのない競争力の根幹だ。私たちは顧客に対して3つの要素を提供することができる。価格、品質、サービスの3つだ。しかし、価格は1であり品質とサービスはいずれも0だ。低価格という競争力を失ってしまうと、品質とサービスの競争力は0になってしまう。

現在、私たちの企業文化は徐々に失われていき、家電製品の販売で成功するとともに、私たちは次第に傲慢になり、自惚れてしまい、私たちが相場価格を決められると勘違いをして、低価格という競争力を失いつつある。このままでは早晩、私たちは第2の蘇寧になってしまう。

私たちは、年に数回の企業文化と経営理念の学習会を開催しなければならない。「低価格は私たちが成功できた最も重要な武器であり、これからも成功をするための唯一の武器である」ということを忘れてはならない。

 

タオバオはほんとうに低価格No.1なのか

京東は、コストや業務効率などの再点検を始め、低価格路線を取り戻し、自分たちの意識を再び消費者に戻そうとしている。

伝統的ECと呼ばれるアリババの淘宝網タオバオ)と京東のうち、京東が低価格路線に戻ろうとする今、タオバオは取り残された形になり、月間アクティブユーザー数が減少するというタオバオ離れも始まっている。

安安さん(仮名)は、以前からお掃除ロボットを手に入れたいと考えていて、昨年2022年の11月11日の独身の日セールで、有名なタオバオ達人、李佳琦(リ・ジャーチ)のライブコマースで、エコバックスのT10omniを、88元の会員特典クーポンを利用して3699元で販売されていたのを見て購入した。さらに、タオバオのさまざまなクーポンを利用し、結局3356元で買うことができた。

しかし、その後、SNS「小紅書」(シャオホンシュー)を見て驚いた。同じ商品が、抖音ECで購入すると3399元、京東でも3399元で購入できることが報告されていたのだ。しかも、クーポンなしの価格なので、抖音や京東で買い物をしていてクーポンを取得していれば、もっと低価格で買うことができる。

安安さんは、タオバオの顧客センターに連絡をした。なぜなら、タオバオでは、他のECよりも高かった場合は、差額分を返金するという仕組みがあったからだ。タオバオは、そのルールを宣伝し、「低価格ECのNo.1」をうたっていた。しかし、顧客センターの担当者によると、この差額返金ルールが適用されるのは、セールの割引価格ではなく、正規価格で購入した場合のみで、安安さんのようにセールで購入し、クーポンを使った場合は適用されないとのことだった。

憤慨した安安さんは、商品を返品した。しかし、使用したクーポンは戻ってこない。もうタオバオを使うのはやめて、最初から抖音や京東で買い物をしようと決めたという。

▲小紅書には「タオバオは安くない」「価格が人によって異なる」という記事が大量に投稿されている。

 

旗艦店でもプラットフォームにより価格が違う

同じような問題が、タオバオで多発をしている。韓国コスメのチョンギダンの7点セットが、抖音のライブコマースで1390元で販売され、22個の試供品なども付けられていたが、タオバオでは1660元で、ついている試供品も少ない。

ファーウェイのP50Proはタオバオでは5309元だが、拼多多では4459元、京東では4719元、抖音では4409元だった。

このような「タオバオが高い」現象は、SNSで数多く報告されている。

多くの人が疑問に感じているのが、旗艦店での価格に差があるということだ。小売業者の販売価格が違うのであれば、いろいろ事情があって価格が異なるというのはわかる。しかし、メーカーやブランドの旗艦店がタオバオや拼多多など複数のプラットフォームに出店していて、その旗艦店の販売価格が異なっているのだ。

消費者は、旗艦店であれば、どのプラットフォームでも同じ価格だろうと考えて購入を決めてしまう。しかし、別のプラットフォームの旗艦店を見れば、もっと安く買えるかもしれないのだ。

SNS「小紅書」に投稿されたタオバオの価格の比較画像。同じ化粧品がある人には39.9元で販売されていたが、別の人には34.9元で優待割引で29.9元になっていた。タオバオでは利用情報などから価格を変えるダイナミックプライシングの仕組みが広がっている。

 

上昇するタオバオの実質的な店舗運営コスト

理由は簡単で、タオバオの店舗運営コストが高くなっているからだ。タオバオは保証金を支払う必要はある(退店時に返却される)が、出店料、販売手数料が無料であるため、低コストでEC店舗を開くことができる。しかし、これはあくまでも店舗を開くことができるだけだ。

実際に販売をして利益を出そうとしたら、タオバオ内に広告を出したり、セールなどのイベントに参加をし、検索順位を上げていく必要がある。このようなことには当然コストがかかる。さらにライブコマースをする必要もあるが、ライブコマースの販売品には販売手数料なども必要になる。

さらに、消費者の目を引いて購入をしてもらうには、商品写真も魅力的なものでなければならない。自分でスマホで撮影をして魅力的な商品写真にするには、相応のノウハウが必要であり、多くの場合、プロのカメラマンに依頼をし、なおかつフォトショップで修正をかける必要がある。さらには、店舗独自でクーポンを発行する必要もある。

出店料、販売手数料は無料でも、現実に商品を販売して利益をあげるには、相応のコストがかかるようになっている。

一方、拼多多では、オンライン口コミの力で販売をするため、販売手数料は取られるものの、運営コストがほとんどかからない。多くの出品業者が、拼多多ではタオバオの半分程度のコストで運営ができると感じているという。これが価格にも反映されることになっている。

 

タオバオはクーポンを駆使することが前提

一方、「タオバオは高くない」と主張する人たちもいる。タオバオでは、通年にわたってさまざまなセールが行われていて、大量のクーポンが発行されている。このようなクーポンとセールをうまく組み合わせれば、他のプラットフォームよりも安く買えるというのだ。

しかし、このクーポンに疲れてきている人たちも増えている。自分が欲しいと思った時には買わずに我慢をして、セールを待たなくてはならない。しかも、複数のクーポンを組み合わせる必要がある。クーポンの中には、併用できない組み合わせがあるために、まるでパズルのように組み合わせる必要がある。

それで、何百元も安くなるのだったらともかく、他のプラットフォームよりも数元安くなる程度だ。だったら、他のプラットフォームを使って、欲しい時に、安心できる低価格で買ってしまった方がいい。

このようなゲームのような消費体験は、中国の経済が拡大をしていた2010年代には好まれた。毎年、見たことがない新商品が登場し、欲しいものがどんどん増えていく時代には、クーポンを組み合わせ、11月11日の午前0時に、タオバオにアクセスをして、大量に商品を購入すること自体がエンターテイメントになっていた。しかし、もはや中国の消費市場も成熟をしている。何でもかんでも欲しいわけではなく、自分の欲しいものは自分でわかる時代になっている。そのような時代、買い物も楽にサッと済ませたいと考える人が増えているのだ。

特に若い世代は、このような手間のかかるクーポンゲームを避ける傾向が生まれている。一方、中高年の間ではまだまだクーポンゲームは人気がある。タオバオはこの10年で、消費者が高年齢化しているとも言われている。

 

伝統的ECは再び価格競争へ

京東は伝統的ECでありながら、創業者の劉強東は、この時代の変化に気がついているようだ。そのために、低価格に戻る宣言をしている。しかし、巨大組織となったアリババは、この変化に気がついているかもしれないが、巨大になりすぎて舵切りに手間取っている。

その間に、タオバオからの流出が始まってしまった。この流出はまだSNSで話題になる程度の規模でしかないが、本格的な流出が始まると、策を講じてもその流れは止められなくなる。タオバオは変化をしなければならない事態に直面をしている。