米哈游が開発した「原神」の人気の秘密は、爽快で奥深いバトルにある。しかし、リリース後2年経っても飽きられない理由は、追加のマップとシナリオ、キャラクターの他、細部にわたるつくりこみにある。創業者の蔡浩宇がGDC(ゲーム開発者会議)で語った。
高い水準のMAUを維持し続ける原神
米哈游(miHoYo、ミホヨ)の大ヒットゲーム「原神」が、リリース後2年を超え、その成長にさすがにかげりも見えてきているが、その勢いは衰えない。SensorTowerによる2023年2月の世界のモバイルゲーム売上でもいまだに2位の位置をキープしている。
2020年9月にリリースをされ、2022年9月に初めてMAU(月間アクティブユーザー数)が減少をし、これ以上の成長は難しくなっているものの、一定水準のMAUは確保し続けている。さすがに一時の過熱人気はなくなったものの、根強い支持を得続けている。
その理由は定期的にマップとキャラクターが追加されているからだ。リリース直後から遊んでいるユーザーはさすがにやることがなく、飽きてしまい、原神から離れてしまうこともある。しかし、マップやキャラクターが追加されると、再び遊んでみたくなる。マップとキャラクターの追加で、こうした離脱をしかけているユーザー、休眠ユーザーを掘り起こすことで、高いMAUを維持し続けている。
創業者が語る原神の人気の秘密
GDC(Game Developers Conference、ゲーム開発者会議、https://gdconf.com/)の2021年のコンファレンスで、miHoYoの創業者でありCEOである蔡浩宇(ツァイ・ハオユー)氏がその秘密についてのプレゼンテーション「Genshin Impact: Crafting an Anime-Style Open World」原神:アニメスタイルのオープンワールドをつくる)を行なっている。
解放されたオープンワールドはまだ全体の4/7
原神には7つの都市が用意されている。現在、プレイ可能になっているのはモンド、璃月(リーユエ)、稲妻、スメールの4都市で、今後フォーンティーン、ナトラン、スネズナヤという3つの都市が追加されていくことになる。
また、プレイ可能なキャラクターも毎年17キャラクターペースで追加をされていっている。このような追加があるたびに、離れていたユーザーが戻ってきているため、MAUがいったん落ちても再び上昇をすることになっている。
美しい風景で文化を表現していく
この7つの都市は、それぞれに異なった文化を反映している。モンドは中世の西洋、璃月は中国、稲妻は日本、スメールはアラビアの文化を反映している。これにより、世界中のユーザーを取り込もうという設計だ。
しかし、都市の設計をただ世界の文化風にすればいいというものではない。例えば、当初、璃月の設計ではパンダ、カンフー、三国志という要素があがってきたが、それでは海外のユーザーの心を捉えることはできない。そのような戯画化された要素をいくら積み重ねても、それはカリカチュアされた中国になるだけで、本当のリアルな中国にはならない。
そこで、miHoYoは、中国の美しい風景を盛り込むことにした。中国提灯で飾られた街並み、映画アバターでも知られるようになった張家界の水墨画のような岩山の風景、こういったものを取り入れた。他の都市でも、わかりやすい文化要素を直接取り入れるのではなく、美しい風景として取り込んでいった。
「全人類の美しい風景に対する感性は共通している」と蔡浩宇CEOは言う。美しい風景を通じて、自然にその都市の文化に触れてもらう。それが原神の風景の基礎になっている。
先にキャラクター、それからストーリー
毎年17も追加されていくキャラクターは、原神というゲームの中で最も重要な要素だ。原神は最初から無料プレイ可能なゲームとしてリリースし、キャラクターをIP化し、そこで収益をあげるという収益設計になっていた。そのため、いかに魅力的なキャラクターが創れるかが、原神の成功の鍵を握っている。
一般的な映画やドラマでは、テーマやシナリオが設定され、その中で必要なキャラクターが設計されていく。しかし、miHoYoはまったく逆のやり方をした。最初にキャラクターを設計し、それに合わせてシナリオを考えていくというやり方だ。例えば、「食いしん坊で活動的」というキャラクターが設定されたら、そこから「食材を集める旅に出る」というイベントシナリオを考えていく。このため、ユーザーはシナリオよりもキャラクターに感情移入をし、記憶に残る。これにより、IPとして企業コラボレーションをしたり、グッズを販売した時に、ユーザーを惹きつけることができる。
キャラクター案は全員参加
どのようなキャラクターを設計するかは、特定のチームではなく、全員でディスカッションをするというのがmiHoYoのやり方だ。キャラクターのアイディアを持っていれば、誰でもキャラクター会議に出席をして提案することができる。このようなやり方では、無数の奇抜なアイディアが生まれてきて、その多くはボツになってしまうが、少数の優れたアイディアが、従来のデザイナーによるキャラクター設定の限界を突破することにつながった。
このような議論をした上で、デザイナーチームがそれをデザイン画にまとめ、3Dモデルがつくられていく。
キャラクターの顔は影パターンも作成
原神の世界では、すべての要素が3Dモデルとなっていて、ゲーム内時間で太陽は動いていく。これに合わせて、光源の位置が変わり、光源の強さも変わっていく。建築物にあたる光と影、建築物が地面に落とす影も、時間によってその角度と濃さが変わっていく。
このような光源と影の効果は、自動的に処理ができるようになっている。しかし、問題になったのはキャラクターの顔の影だった。キャラクターは体については精密に3Dモデル化をしているが、キャラクターの顔はアニメスタイルを維持するために3Dモデルを簡略化している。精密に3Dモデル化をしてしまうと、アニメテイストが失われ、キャラクターの魅力が損なわれてしまうからだ。
この2.5Dのキャラクターの顔に影効果を自動処理でつけるとおかしな影のつき方になってしまう。そこでデザイナーは影のパターンを設定して、顔にマスク処理をし、光源がどのような角度にあってもアニメキャラクターの顔として自然になる影のつき方を実現した。
この影に対するこだわりは木漏れ日にも及んでいる。キャラクターが木の影が落ちている場所を歩く時は、木漏れ日に従った影がキャラクターに落ちることになる。
都市周辺の草原の植生にも変化をつける
都市はそれぞれの異なる文化に彩られているが、その都市周辺の草原にも違いを持たせている。地形は8つのレイヤーで構成され、植物の種類、密度などは場所ごとによって異なっている。どこの草原でも同じような風景にならないようにしている。
雲もさまざまな形が用意され、光源(太陽)の位置により、影のでき方、色彩を変えていく。しかも、ゲーム世界の中では風が吹いているため、時間とともに雲は流れていく。
つまり、原神の中の風景は同じように見えても、まったく同じ風景には二度と遭遇をしない。時間とともに太陽の位置が変わっていき、雲も流れていくからだ。
このような細かい設定は、ゲームを遊ぶユーザーはもちろん気がつかない。気がついてはいないが、無意識化では感じており、それが新鮮さを保つことにつながっている。
原神は広大なマップや投入されるキャラクターの数など、物量面ばかりに目が行きがちだが、このような細部へのこだわりがゲームとしての品質を支えている。当然ながら、作業量は膨大にならざるを得ないが、それをやり切ったことが原神のヒットにつながったことは間違いない。