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値上げが続く飲食の中で、喜茶と奈雪的茶が大胆な値下げ戦略。その結果は?

世界的なエネルギー価格、食材価格の高騰の中で、飲食チェーンの値上げが相次いでいる。その中で、喜茶と奈雪的茶の2つの中国茶ドリンクチェーンは大胆にも値下げに踏み切った。客数を回復し、地方都市での販売を拡大しようというものだ。しかし、かえって業績を悪化させることになったとCBNData消費駅が報じた。

 

値上げをするチェーンと値下げをするチェーン

多くの飲食店が、複数の理由から値上げをせざるを得なくなっている。大きな原因は、食材価格の世界的な高騰やエネルギー価格の高騰だ。さらに、コロナ禍により、飲食店の客数が減少をしており、利益率をあげる必要にも迫られている。

しかし、中国茶カフェチェーンは難しい判断を迫られてきた。2019年からタピオカミルクティーなど中国茶ドリンクのブームが起き、そのブームに翳りが見えた段階でコロナ禍を迎えた。そのため、これ以上の値上げをするとさらに客数が減ってしまい、経営が立ちゆかなくなる可能性もある。

茶顔悦色(チャーイエユエスー)や古茗(グーミン)などのチェーンは、昨2022年初めに各商品を1元程度の値上げに踏み切った。しかし、喜茶(シーチャー、HEY TEA)と奈雪的茶(ナイシュエ)は逆に値下げに踏み切った。他チェーンとは逆をいき、客数を確保しようとした。この値下げ戦略はどの程度うまくいったのだろうか。

▲高級感のある中国茶カフェ「奈雪的茶」は、業績回復のために値下げに踏み切った。

 

量を減らして値下げ=実質的な値上げ

すべての原材料費が高騰する現状の中で単純な値下げは、経営を悪化させるだけのことになる。喜茶と奈雪的茶は、値下げというよりも価格帯を下げたと言った方が正確だ。

例えば、喜茶のメニューのひとつである「多肉葡萄」は、25元から19元に値下げされ、さらに再度18元にまで値下げされた。しかし、容量は650mlから500mlに減り、なおかつトッピングのミルクチーズの量も減らされた。ミルクチーズの量を以前と同じ量にしたければ、追加トッピングを注文する必要があり、それには10元がかかる。

つまり、実質的な値上げなのだが、工夫をしてメニューに表記される価格を下げている。

 

客数を取り戻し、地方に拡大するための”値下げ”

これは、メニューに表記される価格を下げて、安く見せて、客数を取り戻したいというだけでなく、これ以上、各中国茶カフェチェーンが成長をするには、下沈市場=地方都市市場に拡大をしていく必要があり、メニューの価格帯を下げる必要もあった。

下沈市場のドリンクチェーンの圧倒的なチャンピオンは、蜜雪氷城(ミーシュエビンチャン)で、ソフトクリームは3元、レモン水は5元、多くのドリンクが10元以下の価格になっている。下沈市場では、20元を超えるドリンクは歓迎されないため、メニュー価格を10元台に落としておく必要がある。

▲各中国茶カフェチェーンの都市階級別分布。奈雪的茶と喜茶は、「一線」「新一線」「二線」都市中心の高級感のあるチェーンだったため、値下げをすることは地方都市市場に進出するためにも必要なことだった。

 

客単価が下がり、客数も減った

喜茶の2022年1月と9月の客単価を比較すると、どの規模の都市でもほぼ5元程度下がった。値下げの影響がそのまま出ている形だ。

一方、客数や販売数はどうなのか。客単価が下がっても、それを補う以上の客数が得られれば、喜茶の値下げ戦略は成功したことになる。

しかし、うまくいっていないようだ。奈雪的茶の財務報告書によると、2021年と2022年の比較では、客単価が43.5元から36.7元に低下をし、店舗あたりの販売数も1日488.9件から346.2件に低下をしている。主要都市の最終的な売上は、20%から45%も低下をするという厳しい結果になった。当然、利益も大幅に低下をし、上海の34店舗の平均利益率は-22.1%、つまり赤字という非常に厳しい状況になっている。

他の中国茶カフェと同じように小幅な値上げをしていたらどうなったかはわからないが、少なくとも値下げ戦略は大失敗に終わったことになる。

▲喜茶の客単価の比較。値下げをしたのだから客単価が下がるのは当然。しかし、客数まで下がってしまった。

▲奈雪的茶も各都市の店舗の売上が大きく下がり、利益率も大きく低下をし、深刻な状況になっている。

 

最大の問題はブランドポジションを曖昧にしてしまったこと

喜茶と奈雪的茶は、身動きができない穴にはまってしまった。ここから再度値上げをして以前の状況に戻そうとすれば、さらに客離れが進むことになる。

さらに、ブランドのポジションを曖昧にしてしまった。喜茶と奈雪的茶は、中国茶界のスターバックスであり、「上質なドリンクを適正な価格で」提供するチェーンだった。そのため、従来は下沈市場(三線都市以下)には力を入れてこなかった。一方、茶顔悦色、古茗などのチェーンは最初から、大都市市場と下沈市場の両方に対応できるように客単価が20元を切るような設計をしていた。そのため、値上げをしても大都市では「価格が安めの中国茶カフェ」として市場を拡大する余地を残している。

さらに、下沈市場には蜜雪氷城という客単価が10元を切るような強力なチェーンが地位を確保している。

客単価が20元台の喜茶と奈雪的茶は、大都市では「量や品質を落として安くしたチェーン」に見られ、下沈市場からは「価格が高いチェーン」に見られてしまう。高級でもなく格安でもない。喜茶と奈雪的茶は難しい局面を迎えている。