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遠回りで高い中国版新幹線はこれ以上いらない?それでも建設計画が進む「高鉄」

中国版新幹線「高鉄」の総延長は4.2万kmだが、7万kmまでの延伸計画が進んでいる。利用者の間では、近年の新路線は遠回りをすることが多く、飛行機よりも乗車料金が高いという不満も起き始めている。それでも高鉄の延伸計画は進められると百経観察が報じた。

 

7万kmにまで延伸される中国版新幹線「高鉄」

中国版新幹線「高鉄」(ガオティエ)の2022年末時点での総延長は4.2万km。日本の新幹線の10倍を超える総延長だが、さらに延伸計画が進められ、2035年までに7万kmになる予定だ。

一方、運営をする中国国家鉄路集団は高鉄建設のために5兆元(約97.5兆円)もの借金をつくりながら延伸を続けるため、ネットでは「基建狂魔」とも呼ばれるようになっている。

この高鉄の借金問題は「灰色のサイ」とも呼ばれるようになっている。遠くから見ている分にはおとなしいが、近くに寄って刺激をすると暴れ始めて手がつけられなくなるという意味だ。

▲中国版新幹線「高鉄」。すでに総延長4.2万kmだが、7万kmまでの延伸計画が進んでいる。

 

遠回りをするようになった高鉄

主要都市間は高鉄で結ばれるようになり、中国の社会は大きく変わった。人の移動が容易になり、経済の発展、地方都市の発展に大きな貢献をした。しかし、多くの人がこれ以上の高鉄建設は不要なのではないかと感じ始めている。それには2つの理由がある。

ひとつは新設される高鉄の多くが、主要都市を直線で結ぶのではなく、大きく迂回をするようになっていることだ。高鉄の列車が速くなっても、路線が迂回をするため時間がかかるようになっている。

もうひとつは、乗車料金があがり続け、特に長距離になると飛行機よりも高くなるケースが出てきていることだ。乗るのが便利とは言え、飛行機よりも時間がかかり、なおかつ料金が高いというのは納得がいかないという人も増えている。

▲広州と武漢を結ぶ「武広高鉄」。あちこちの都市を寄り道しながら進むため、広州市から武漢市に行きたい人は飛行機の方が早くて安い。

 

人口50万以上の都市をすべて結ぶ高鉄計画

高鉄は主要都市間を結ぶのではなく、主要都市と周辺の小都市を結ぶことを主眼にしている。高鉄の路線計画は、2016年に公開された「中長期鉄道網計画」に基づいている。

この計画では、人口50万人以上の都市はすべて高鉄で結ぶことになっている。そのため、大都市間を直線で結ぶのではなく、主要都市を結びながら建設されるため、大都市から大都市へ移動する人にとっては直線ルートではなく、遠回りをしているように感じることになる。そこで、大都市間はリニア鉄道で結ぶ計画も浮上している。

▲中国の交通ネットワーク計画図。人口50万人以上の都市はすべて高鉄で結ぶ計画だ。

 

収支の悪化から値上げが続く高鉄料金

高鉄の乗車料金はあがり続けている。たとえば、北京南駅から上海虹橋駅までの二等車の乗車料金は、国家鉄路が運営する12306サイトで553元(約10800円)になる。一方、携程網(Ctrip)で北京・上海の国内線航空券の最安値は523元で販売されている。しかも、こちらは機内食つきなので、50元ほど飛行機が安いことになる。

これはコロナ禍の影響も大きいが、高鉄の収支が急速に悪化をしているためだ。報道によると、2022年上半期の高鉄の赤字は955億元(約1.86兆円)にも達している。

さらに、建設計画はどんどん進められ、新しい路線になればなるほど、トンネルや橋が多くなり、1kmあたりの建設費が上昇する傾向にある。

▲近年の高鉄の建設費。新しい路線ほど、kmあたりの建設費が上昇する傾向がある。トンネルや陸橋が多くなるからだ。

 

8人しか乗降しない高鉄駅も

ネットでは、安徽省合肥北城駅の1日の平均乗降客が8人以下で、最もいらなかった高鉄の駅として話題になっている。また、広東省では高鉄の利用率があがらない。広東省には広州、深圳の他、佛山、中山などの中規模都市が多く、都市間の距離が非常に近いため、以前から高速道路、高速バス、都市間鉄道が発達をしていた。高鉄の駅は中心部から外れた場所に置かれていることが多いため、中心部からすぐ乗れる高速バスなどの方が、往々にしてトータルの移動時間は短くなり、乗車料金も安上がりになる。

多くの人がすでにこれ以上の高鉄はもはや不要だと感じ始めているが、中長期計画によると現在の倍近くまで延伸されることになる。どこかで計画の変更、整理を行わないと、その借入金が灰色のサイとなり、解決の難しい大問題になりかねないことを心配する人も増えている。