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上場廃止まで取り沙汰される百度の創業以来の危機的状況

百度上場廃止が話題になっている。米中貿易摩擦により、米国財務長官が2021年末までに米国会計基準を採用していない海外企業を上場廃止にすると発言したからだ。その他にも、百度はさまざまな問題を抱えており、創業以来の危機を迎えていると挖掘アルファが報じた。

 

追い詰められる百度上場廃止の可能性も

中国テックの青春時代が終わるのかもしれない。2005年、北京市中関村の百度バイドゥ)が米ナスダック市場に上場したことから、中国テック企業の青春時代が始まった。百度が入居した理想国際ビルは、中関村や中国テック業界のシンボルであり続けた。その百度上場廃止の可能性が出てきている。

その最大の原因になっているのは、ここ数年の百度の業績悪化だ。検索広告を収入源としていた百度は、アポロなどの自動運転テクノロジー人工知能テクノロジーにシフトをしているが、なかなかビジネスとして軌道に乗らない。さらに、米中貿易摩擦の影響でさまざまな問題まで発生している。

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▲ナスダック市場に上場をした時の記念写真。中央が創業者のロビン・リー。ここから中国テック企業の青春時代が始まった。

 

検索広告市場の70%を占めているもののライバルが猛追

検索広告による収入は、未だに百度の収入の67%を占めている。しかし、これが減少を続けていて、2020年Q2は8%減となり、5四半期連続の減収となった。

それでも百度は検索広告市場の70%を占めていて、「検索大手」の名前を譲ってはいない。しかし、ライバルが猛追をしてきている。テンセントは13%成長をし、ビリビリは90%成長、さらにバイトダンスは130%以上と倍増以上の成長を見せている。また、テンセントは百度に次ぐ検索サイト「捜狗」を買収し、検索広告部門を強化する計画を進めている。

百度の根幹である検索広告ビジネスの足元はそうとうにぐらついてきていることははっきりとしている。

 

送客手数料を下げ続けている百度

さらに、問題なのが、百度傘下の動画配信サービス「愛奇芸」(アイチーイー)が、米国証券取引委員会(SEC)の調査を受けていることだ。中国企業のカフェチェーン「瑞幸珈琲」(ラッキンコーヒー)が売上の水増しなどを指摘され、上場廃止となった。これにより、ナスダック市場に上場をしている中国企業に対する目が厳しくなり、愛奇芸もSECの調査を受けることになった。

愛奇芸は売上は毎四半期4%成長をしているもののまだ黒字化ができていない。しかし、収入ベースでは百度の27%が愛奇芸からのものになっている。売上数字は大きく見えても、黒字化ができていない収入では、百度全体の利益率は下がってしまう。

そこで、百度トラフィック獲得コスト(TAC=Traffic Acquisition Cost)を下げ続けている。どの検索エンジンでも、自社サイトだけでなく、他社サイトにも検索窓をつけさせてもらい、利用者がそこから検索をすると、百度はそのサイトに対して一定額の送客手数料を支払う。百度検索を紹介してくれたのと同じことだからだ。

このTACは、検索広告ビジネスでは「トラフィック仕入れ」に相当する。つまり、TACを下げていくということは仕入れ代金が小さくなるということで、利益率を高くしていくことができる。

つまり、愛奇芸の利益率が低いことを、百度側でTACを下げることにより利益率を上げ、帳尻を合わせているのではないかという疑いも出てきている。

 

TACを下げることにより懸念される百度離れ

百度がTACを下げていることは事実で、このこと自体が百度の地位をさらに危ういものにしている。送客手数料を下げていくということは、検索窓をつけるサイト側にとっては送客手数料を値切られることになり面白くない。百度が独占的な地位を保っているときは、それでも仕方なく百度を利用するが、他の検索エンジンも目覚ましい成長をしている。だったら、百度以外の検索エンジンに乗り換えようと考えても不思議ではない。

百度がTACを下げていくと、どこかの時点で百度離れが始まり、一気に百度の独占的な地位が崩壊する可能性も生まれてくる。

 

クラウド事業にも出遅れる

百度の新しい事業の柱は人工知能と自動運転だが、まだ収益が見込める段階には至っていない。この他、クラウドサービスも成長が著しい事業だ。百度百度クラウドの収益を非公開にしているが、「2020年Q2の売上は20億元で、2018年Q4の11億元から大きく成長している」という発表を行なっている。

しかし、百度クラウド事業を始めるのは遅かった。本来、百度のような企業が先鞭をつけるべき事業なのだが、創業者の李彦宏(リ・イエンホン、ロビン・リー)はクラウドについて「新しい瓶に古い酒を詰めただけ」と語ったこともあり、動き出しが遅かった。

その間に、アリババとテンセントがクラウド事業に参入。アリクラウドの2020年Q1の売上は122億元で、百度クラウドはその1/6程度でしかない。

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▲現在の理想国際ビル。著名テック企業が一度はオフィスを構える中国テック業界の聖地。24時間灯りが消えないことから、中関村の宝石と呼ばれている。

 

危うさが出てきている百度の上場

さらに、米国市場での上場にも暗雲が立ち込め始めている。米国財務長官のスティーブン・ムニューシン氏は、来年2021年末で、米国の会見基準を満たしていない海外企業は上場廃止になると発言して波紋を呼んでいる。

ラッキンコーヒーの不正会計に端を発した中国企業の問題は、愛奇芸に飛び火をし、その親会社である百度にも飛び火をしようとしている。米中貿易摩擦やトランプ政権の政策から見て、財務長官の言う海外企業とは、特に中国企業を指していることは明らかだ。

しかも、今年の5月の段階で、百度の創業者ロビン・リーは、「米国の証券市場以外にもたくさん選択肢はある」と述べ、ナスダック市場の上場を廃止して撤退をすることをにおわせるような発言をしている。

アリババがニューヨーク証券市場に上場をしながら、2019年11月に香港市場に重複上場したのも米中貿易摩擦をにらんでリスクを分散させたのではないかと言われている。百度もそれに倣って、重複上場を示唆した発言だと見られているが、ここへきて、米国市場の方から上場廃止の話が出ることになった。突然の上場廃止となれば、百度のように大きくなった企業を運営していくことはほぼ不可能になる。

百度は、中国テック企業のシンボル的存在であり、不夜城となった北京中関村の理想国際ビルは、「中関村の宝石」とまで呼ばれた。その百度が、創業以来の正念場を迎えている。