電子タバコデバイスのODM生産で急成長をしたのが思摩爾国際(Smoore、スモア)だ。日本のJTにもデバイスを供給し、2020年には香港市場に上場も果たした。ベイパー方式の電子タバコに含まれる添加剤による健康への悪影響も指摘される中で、規制なども始まっているが、ODM生産に特化したスモアは海外市場で売上を伸ばし続けていると市界が報じた。
健康被害との関連も指摘される電子タバコ
北京朝陽医院の禁煙外来の褚医師は、患者のCTスキャン像を公開して訴えた。「この閉塞性細気管支炎の患者は、2年にわたって電子タバコを使用していました」。
閉塞性細気管支炎は、俗にポップコーン肺とも呼ばれ、肺の小さな細気管支が炎症により閉塞してしまう病気だ。重度になると、肺の細部が膨れ上がり、ポップコーンのようになる。当初は食品添加物との関連が疑われていたが、近年では電子タバコとの関連が疑われるようになっている。「電子タバコにはさまざまな風味をつけるための添加剤が加えられています。この化学物質が原因である可能性があります」。
閉塞性細気管支炎の原因については、専門家の間でも評価は確定していない。しかし、今年2021年5月、国家衛生健康委員会は「中国喫煙危害健康報告2020」を公開し、その中で電子タバコと閉塞性細気管支炎の関連に触れ、電子タバコは安全とは言えず、健康に被害を与える可能性があると指摘した。
電子タバコの生産地、深圳市宝安区沙井
しかし、中国の電子タバコ産業は絶好調だ。2003年に生まれたこの産業は、2013年から急成長し、関連会社は4.54万社となった。それが2020年末には16.84万社に増えている。
その中心地は広東省深圳だ。世界の90%の電子タバコデバイスは深圳で生産されている。深圳の電子タバコデバイスの90%は深圳市宝安区で生産されている。宝安区の電子タバコデバイスの90%は宝安区沙井で生産されている。この数キロ四方の小さな地域に数百社の電子タバコデバイス生産企業がひしめいている。
電子タバコのフォクスコン「スモア」
その中でも、急成長をしたのが、世界最大の電子タバコメーカーとなり、「電子タバコ業界のフォクスコン」と呼ばれているのが、思摩爾国際(Smoore、スモア)で、2021年上半期の営業収入は69.5億元となり、純利益は驚くべきことに29.75億元となった。2020年7月には香港証券市場に上場を果たした。
創業者の陳志平(チェン・ジーピン)も、Forbes World’s Billionaires List 2021の121位にランクインしている。
霧化技術の開発により成功したスモア
なぜ、スモアが逆風にもかかわらず急成長をできたのか。
ひとつは技術力だ。世界で1272件の特許を取得している。特に霧化技術に強みがあり、液体カートリッジを吸引に適した霧状に変化をさせる。
2つ目は、タバコそのものの高い利益率にある。紙巻きタバコそのものも本来は利益率の高い商品だった。電子タバコはそれに輪をかけて利益率が高い。スモアが発売しているあるデバイスは希望小売価格268元だが、その製造コストはわずか20元でしかない。
JTを始めとする世界のタバコデバイスをODM生産
また、スモアが急成長できた大きな理由がODM事業だ。日本のJT、米国のブリティッシュ・アメリカン・タバコ(ケント、ラッキーストライクなど)の電子タバコデバイスの設計から製造までを行なっている。
スモアの営業収入の9割がこのODM事業によるもので、その6割は海外向けとなる。スモアが、電子タバコ界のフォクスコンと呼ばれるゆえんだ。
中国国内では、電子タバコデバイス、カートリッジの販売規制が進み、従来のように簡単にECで販売するわけにはいかなくなっている。安全性が厳しく問われるようになり、販売コストが増大をしている。また、現在の中国の電子タバコの煙草税は13%前後だが、これを紙巻きタバコと同様の67%まで引き上げようという議論も始まっている。このため、深圳の電子タバコ企業の中には撤退をするところも現れ始めているが、海外市場を主力にしているスモアは安定した売上を維持している。
タバコは習慣性のある商品で、なかなか禁煙ができない。紙巻きタバコを吸いながら禁煙を考えている人が、電子タバコに切り替えをし、ニコチンやタールの摂取量が小さくなることから禁煙のことを忘れ、電子タバコを吸い続ける。スモアの好調ぶりは、まだしばらくの間続きそうだ。